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第一章 指さし婚約者(ドライ

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「こちらへどうぞ。お召替えを」
一国の次期国王の婚約者となれば、着ているもの。
身に着ける宝石は伯爵家から装備してきた物では貧相だ。
殿下の婚約者としてふさわしくない装いの場合、王宮から支給、貸出がなされる。

「え・・・。ああぁっと、、、わ、わたし・・・」

人間あまりに驚くと言葉が出ないのね。
そんな事を思っていると、淳二が目配せでメイドを数人呼ぶと志麻子の手を持ち別室に連行していく。
ど、ど、ど、ど、どうしよう。どうしよう!
志麻子は椅子に座り。
その額には汗が滲んでいた。
困ったわ。
生まれてこの方、17年間。
争いに巻き込まれず、後ろ指を刺されず。
過度に誉められることもなく。
きっと、このまま。
高校か大学を卒業して、適当に父の推薦した相手とお見合いをして、適当な相手と結婚すると思っていた。
「緊張なさっているのですね。お茶でもお持ちしましょうか?」
「え、ええ」
「誠一殿下に指示されるのは、とても名誉なことでございます」
「え、ええ」
「お嬢様のお名前を私めにもお教え願いますでしょうか?」
「え、ええ」

家から着てきた淡い水色のドレスから、今日の誠一の衣装に合わせて合わせて真っ赤なドレスに着替え。
巻いただだけの髪の毛から、メイドによってアップの髪形に変えられる。
宝石に小さなネックレスから、かるく10カラットはあるのではないかというネックレスに交換し耳飾りも大ぶりの物に変えられる。

どうする?
本当にどうする?
志麻子は深呼吸した。
まずは、落ち着こう。
目立たず、目立たなさすぎず生きるには?

"私は次期王妃になります。皆のものっ平伏せっ"とか高飛車令嬢キャラは絶対にダメ。
でも、これをすれば高飛車女が嫌いな殿下は婚約を解任する?
過去最短だと、2週間で婚約を解任された人がいたけど、指名されてからまだ、10分。
目立ちすぎだわ。
それに彼女はその後、噂が立ってどの男性からも相手にされず。
友人関係も最悪で引きこもったとか。
高飛車キャラは私には、そもそも向いていない。

じゃあ、自信のない根暗系かしら? 
"私は遠くから殿下を眺めれいるのが幸せだったのです。しくしく。王妃なんて大役は務まりませんわ。メソメソメソ"
目立たず、目立ちすぎだと最適かもしれないけれど・・・今後の篠田領地の運営において、弱弱しい女は指示されない。

「失礼します。王妃候補"レンタル衣装"とてもお似合いですね」
棘がある言い方をしながら、入ってきたのは淳二。
「ありがとうございます」
棘があるが、似合うと誉められているので反射的ににっこり笑ってお礼を言う。
「会場で殿下がお待ちです」
いやいやいや。
あの殿下が待ってるはずがない。
私は知っている。
自分に群がる女性達を睨みつけ、22歳の今日に至るまで数十人の姫や令嬢が婚約者になり。
何度も言うが、数週間から数か月で婚約者を解任。
・・・まぁ、中には誠一殿下が塩対応をしすぎて逃げて行ったという話もあるが。

「はい」

思いっきり突っ込みたいのをぐっと我慢し、椅子から立ち上がる。
ここでじっとしていても、意味がない。
タイムイズマネーだ。

「志麻子“様”はここに殿下に迎えに来いだの、1人で会場に戻るのか?だの。言わないのですね」
淳二は幾分安堵するように言うと、志麻子は苦笑した。
私が着替えている間に名前だの、素性を調べたのね。
さすが、王宮。
名前を聞かずとも人物を割り出すなんて。

「あの、淳二様。私は伯爵家、淳二様は公爵家。私に”様”は不要でございます」

志麻子“様”の“様”にとげがあり、志麻子は口を開く。
「”今のところ”志麻子”様”は次期王妃。形式時とはいえ、様をつけるのは当然です」
淳二はそっけなく言うと、背を向け歩き出す。
歴代の婚約者達が逃げ出したのは、誠一殿下の対応"も"原因かもしれないわね。
周囲の気遣いフォローがなければ人間関係を築く気のない殿下と人間関係を築けない。
殿下を唆し?婚約者を指差しさせたのだから少しはフォローすべきだわ。
けれど、そんな事をして。
誠一殿下に愛されるかも?なんて、期待を待たせるのは可哀想かしら?
そんな事を思いつつ志麻子は会場に向かった。

「あなた誠一殿下の追っかけの最後尾に、いつも居た子よね?」
「はい。ルネサンティカ皇女殿下」
会場に戻ると、誠一の取り巻きの一人。
最も次の婚約者になるのではないかと噂をされていた、隣国の皇女に声を掛けらた。
しっかり彼女の名前・階級をセットで言うと深々と志麻子は礼をする。
「次期王妃候補が私に礼をするなんて、気持ちがいいわ」
「私は、容姿端麗で頭脳明晰の誠一皇太子殿下の婚約者としては分不相応。歴代の婚約者の方のように、数週間から数か月。恐らく数日で解任される立場と自覚しております」
「そりゃ、そうでしょう。当然だわ!」
ルネサンティカ皇女はかなり声を上げながら相槌を打つ。
あぁ、うるさい。
私がもし、誠一皇太子殿下だったとしても。
こういうやかましくて、高圧的な女は解任してしまうわ。

「解任の際には、ルネサンティカ皇女殿下“も”推薦いたしますね。私は一介の伯爵令嬢。王子様を見つめて、叶わぬ恋に恋をすることが幸せなのです」
深々とお辞儀をしたまま、志麻子は言うとルネサンティカ皇女はふぅっと息を吐く。
怯えることもなく、指をさされたことを鼻に掛けるわけでもなく。
淡々と礼節をもって、一介の貴族令嬢として隣国の皇女に接するその立ち居振る舞いは非の打ちどころがなく。
これ以上は、いちゃもんをつけることもできないのだ。

そして、ちらりと誠一を見るが・・・。
誠一は志麻子など完全無視。
そりゃそうだろう。
あの男が、あの殿下が、誰かをかまっている姿も世話を焼いている姿も見たことがないし。
近寄る女は蹴散らかす。
ふぅーっと志麻子はため息をついた。
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