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七
ドキドキの同棲生活 (1)
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私はもう二十八歳。子供ではない。
恋愛はそれなりに経験しているし、彼にキスを迫ることくらいできる。
恥ずかしさを堪えてまで言ってくれた、巧のアドバイスを無駄にはしまい。
私は彼のマンションに戻ると、早速歯を磨き、部屋着ではなくデート用に買ったワンピースを引っ張り出した。
駅前の百貨店で安かったから思わず買った服だけど、着てみて私はアレっと思った。
バスルームの鏡に、身体の線がハッキリと見える、まるで安っぽいキャバ嬢のような姿が映し出されている。
スカートも短めだし、胸元も開きすぎるような……
店で着た時は安さに目が眩んで、大目に見てしまった。
お金を無駄遣いしたことにがっかりして、部屋に戻り一応お洒落な部屋着に着替えようとすると、玄関のドアが開く。
藤原晃成が帰って来てしまった。
「お、お帰りなさい」
脱ぎ掛けたワンピースを素早く着直すと、私は言った。
ワンルームマンションでは、着替えもおちおちしていられない。
「ただい……」
玄関で靴を脱ぐ彼が一瞬固まり、彼の視線が私の身体を上下する。
「変……?」
私は心許なく聞いた。
「いや、わりと……」
彼が言いかけて、間が悪そうに視線を逸らす。
急に沈黙すると、話は終わったかのようにキッチンに向かった。
「意外と何?」
言葉の続きが気になって私は、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して飲む彼に詰め寄る。
質問に答えず私をすり抜けると、彼がソファーに座った。
頭痛がするのか、額を手で押さえている。
「大丈夫?」
彼の前に立つと、額に触れようとした。
彼の手が私の手を掴む。
「……そういう格好も意外といい。だから困るんだ」
私の手を握りながら、彼の端正な顔が悩ましげに歪んだ。
なぜ困るの? とは思ったけど、彼の表情に胸がキュンと鳴る。
今なら彼にキスができそうな気がする。
まず、彼の膝の上に乗るように片膝を置いた。
肩に手を置くと、私の髪がさらっと彼の頰に掛かった。
彼が私の動作を見守る中、私の唇が彼の唇へと下りていく。
彼の唇に触れる直前――
「悪い。タバコを切らせてるんだ」
彼が突然言い訳をして、立ち上がった。
私を思いっきりソファーに押しのけて。
キスを避けられた??
ショックで呆然とする私を残して、彼が外に出る。
その後、彼は夜遅くまで戻ってこなかった。
恋愛はそれなりに経験しているし、彼にキスを迫ることくらいできる。
恥ずかしさを堪えてまで言ってくれた、巧のアドバイスを無駄にはしまい。
私は彼のマンションに戻ると、早速歯を磨き、部屋着ではなくデート用に買ったワンピースを引っ張り出した。
駅前の百貨店で安かったから思わず買った服だけど、着てみて私はアレっと思った。
バスルームの鏡に、身体の線がハッキリと見える、まるで安っぽいキャバ嬢のような姿が映し出されている。
スカートも短めだし、胸元も開きすぎるような……
店で着た時は安さに目が眩んで、大目に見てしまった。
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「お、お帰りなさい」
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「ただい……」
玄関で靴を脱ぐ彼が一瞬固まり、彼の視線が私の身体を上下する。
「変……?」
私は心許なく聞いた。
「いや、わりと……」
彼が言いかけて、間が悪そうに視線を逸らす。
急に沈黙すると、話は終わったかのようにキッチンに向かった。
「意外と何?」
言葉の続きが気になって私は、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して飲む彼に詰め寄る。
質問に答えず私をすり抜けると、彼がソファーに座った。
頭痛がするのか、額を手で押さえている。
「大丈夫?」
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彼の手が私の手を掴む。
「……そういう格好も意外といい。だから困るんだ」
私の手を握りながら、彼の端正な顔が悩ましげに歪んだ。
なぜ困るの? とは思ったけど、彼の表情に胸がキュンと鳴る。
今なら彼にキスができそうな気がする。
まず、彼の膝の上に乗るように片膝を置いた。
肩に手を置くと、私の髪がさらっと彼の頰に掛かった。
彼が私の動作を見守る中、私の唇が彼の唇へと下りていく。
彼の唇に触れる直前――
「悪い。タバコを切らせてるんだ」
彼が突然言い訳をして、立ち上がった。
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