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しおりを挟むチクタクチクタク、と時計の秒針の音だけが部屋に響く。
「……今、なんと仰いまして?」
目の前に座る美丈夫は真剣な面持ちで私を真っ直ぐに見据える。
「愛する人を見つけた。こいつを正妃にしたい。だから側室となってくれ。」
目の前が真っ暗になる思いだった。私の存在理由を存在理由の根源たる存在に否定されてしまった。
それでも生まれてこの方機能したことの無い表情筋は動かず王妃になるために鍛えられた思考力はこの瞬間ですら機能してみせた。
「それは王命ですか?」
「……父は俺に任せると言った。」
「貴方様のご命令ですか?」
「……ああ。」
「そうですか。承りました。私は王妃になるためではなく世継ぎのために存在することに致します。」
自分で設定を書き換えるように宣言すると殿下は顔を顰めた。
「そ、そんな言い方……!!」
そして彼の横に座っていた見慣れぬ御方が席から立ち上がり声を荒らげる。
「ジル……いい」
「でも…!!確かに僕らのせいだけどそんな自分を物みたいな言い方…!!」
この御方が新しい正妃様なのでしょう。
男性にしては長めの肩の辺りまである透き通るような金髪。顔も美形であらせられる。可愛らしい雰囲気の御方だ。
「ジル。……お前の国じゃ違うのだろうがこの国では……王太子妃は意志をもたないことを求められるんだよ…。」
「……え……」
ジル様は私の方を絶句して凝視する。
殿下の仰られる通り王太子妃は余計な口を出さぬように幼い頃から徹底して自我を否定され失わせられる。そして王妃となったあかつきに漸く自分の意志を持つことを許される。
「……じゃあこの人は……自我をもってないの…?」
「……そうなるな……そしてこれからも持つことを許されない…」
王太子妃も自我を持つことは許されないがそれは側室もなのだ。
私は側室となるのだからこれから一生自我を持たないだろう。
「……それで本当に…いいの…?自分の気持ちは……?」
この人は何を言っているのだろう。
泣きそうになりながら私に何かを訴えようとしている。
「私は自我を持ちませんので自分の気持ちなど存在致しません。私は王家の望むように存在し続けます。」
とうとうジル様は涙を流してしまった。何故泣いているのだろう。
「……ありがとう。下がっていいぞ。」
「は。それでは失礼致します。」
扉の向こうから聞こえる泣き声を背に私は廊下を進んで行く。
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