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2.
しおりを挟むあの人は何を言いたかったのだろう。
何故泣いていたのだろう。
───私の存在価値を奪った張本人のくせに。
私は自我を持たない。持ってはいけない。
ただそんなの人間が出来るはずがない。
気持ち急ぎ足で私は王妃様の部屋へと向かう。
コンコンコン、とノックをする。
『はい。』
「王太子側妃アルマスタ公爵家ジョゼフィーヌが入室を願います。」
『入りなさい。』
その声を聞き部屋へと入る。
そこでは王妃様が刺繍をしていた。冷たい瞳を持って私を見据える。
震える声音で私は紡ぐ。
「……王妃様…私…正妃になれなくなってしまいました………」
「……こちらに来なさい、ジョゼ。」
私と同じように無表情のまま王妃様は優しい声音でソファへと私を誘う。
王妃様の隣の席へ呆然と歩み寄る。ただ王妃教育の賜物でこんな時でさえ私の背筋はしゃんと伸びているのだが。
王妃様は優しく労わるように背を撫でて下さる。
王太子妃は自我を持ってはいけない。
そんなのは無理だ。
だから王妃と王太子妃、2人の時以外自我を出してはならない、が実は正しいのだ。
というのも結局王妃となっても今まで人前で感情出さないように過ごして来たのに急に出しても良いなどと言われても表情筋が動かないし方法が分からないのだ。
だからいつも王妃教育の合間、とてもとても厳しい教育だけれども王妃様だけが私の苦しみを理解してくださった。そして不器用に慰めて下さるのだ。
「……私はどうやって生きていけば良いのでしょう…唯一の価値を失ってしまいました…」
「……世継ぎのためだけに生きなさい。…きっとそれが貴女の道です。」
「やはり……そうですか……」
王妃様は優しく慰めて下さるけれど決して甘やかして下さる訳では無い。結局王妃様も王の判断に反対することなど出来ないのだ。いや、反対する方法など分からないのだ。
「……正妃は男なのですから世継ぎはのぞめません。ならば貴女の御子こそが次の王なのです。」
「……はい。そうですね…正妃が女であれば私は本当に未来を失っていましたものね……」
まだ男でよかったのかもしれない。
世継ぎを産むという役割が私を生かす。私の存在価値になる。
私はそのためだけに生きていける。
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