首輪を嵌めて飼い殺しましょう

夜瑠

文字の大きさ
4 / 11

3.

しおりを挟む





王妃様と別れ城に用のなくなった私は実家へと戻る。

「おかえりなさいませお嬢様。」

使用人達の出迎えを受けながら馬車から降りる。全員が頭を下げている様子は壮観だ。


「お父様はどちらに?」

「執務室にて書類仕事をなさっておられます。」

「そう…報告をしてから自室へ向かうわ。」


メイド長にそう言付け執務室へと向かう。少しだけ緊張する。

ノックをするとすぐに応答が返ってくる。名を告げると入室許可がすぐに降りた。1度深呼吸をする。

扉を開けると父が執務机で書類を片付ける見慣れた光景が広がっていた。


「何の用だ。」

書類から目を離さず父が尋ねる。少し煩わしそうな声音だった。

「はい。殿下が留学先で出会った男性を正妃にするらしく私は側室になれと命令を受けそれを了承しました。」

「………は?側室?」

じろりと書類から顔をあげ私を睨みつける。父と目を合わせたのは何年ぶりだろうかとふと考える。

「…それを了承したと?」

「はい。殿下の命令でしたので。」

私の言葉を聞いた父は怒りに目の色を染め立ち上がり私の元へ歩み寄る。

それをただ私は無表情で見上げる。

そして───

次の瞬間には頬に衝撃が走った。

「この馬鹿娘が!!正妃になれないお前に価値などあるわけないだろう!!しかも隣国の男だと!?男なんぞに負けて貴様恥を知らんのか!!」


流石に叩かれたのは初めてだった。今までは怒られようと王太子妃という立場が顔に傷を作るのに躊躇われたのだろう。

生理的な涙が目に浮かぶ。

「泣きたいのはこっちだ!!家名に泥を塗りやがって!!」

この涙は違う、という言葉は出なかった。ただお父様の怒りを黙って聞いていた。

そう、私は価値を失ってしまったのだ。怒られて当然のことをしてしまった。


これはその罰なのだ。




約1時間怒鳴られ続け漸くお父様の怒りは落ち着いたようだ。

「………いいか。必ず立派で丈夫な男児を産め。流産などしてみろ。その時こそがお前の死に時だ。いいか、必ず世継ぎを産み王家に尽くせ。」

「……はい。お父様。」

「とっとと下がれ。」

「はい。失礼致します。」


部屋から出ると私の顔を見て声を失ったメイドが慌てて厨房に氷を取りに行った。

私はそれを何処か他人事のように思いながらジンジンと痛みを訴える頬を撫でた。






 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

欲しいものが手に入らないお話

奏穏朔良
恋愛
いつだって私が欲しいと望むものは手に入らなかった。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。

私は秘書?

陽紫葵
恋愛
社内で、好きになってはいけない人を好きになって・・・。 1度は諦めたが、再会して・・・。 ※仕事内容、詳しくはご想像にお任せします。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

愛のバランス

凛子
恋愛
愛情は注ぎっぱなしだと無くなっちゃうんだよ。

【完結】その約束は果たされる事はなく

かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。 森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。 私は貴方を愛してしまいました。 貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって… 貴方を諦めることは出来そうもありません。 …さようなら… ------- ※ハッピーエンドではありません ※3話完結となります ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

処理中です...