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6.
しおりを挟む王の間の謁見室。私は陛下に呼び出されていた。
廊下で殿下とジル様との会話に巻き込まれてしまったせいでここに来るのが少しだけ遅れてしまった。とはいえ来るように言われた時間よりは十分に早いのだが。
「──面をあげよ。」
「は。失礼致します。」
荘厳な謁見室には国の重鎮が3名と陛下だけがいらっしゃった。
「話は聞いたか。」
「側室に下れという命を受けました。」
「そうか命か…」
陛下もまた隙を与えないように基本的に無表情でいられることが多い。その反動か殿下は笑っていることが多いけれど私の前ではいつも気まずそうにしている。
「側室になれば一生自我を持てないぞ。今は許可する。本音を言え。」
陛下が重々しくそう仰って下さる。けれどやはりこの御方ですら分からないのかとどこか失望してしまう。
「いいえ。この身は全て王家のために。一度命令を受けたならばこの命果てるまで実行致します。」
16年間そう育ってきたのだ。今更私の本音などを伝えたところでどうなろうか。
「……そうか…それが本音なのだな……?」
「はい。国の為に生きることこそ至高でありますれば。」
そう言えば全員が痛々しげに私を見る。
─────お前達がこうしたくせに。
今まではただ言われたことをこなせばよかった。そこに私の意志など必要なかった。周りが私を馬鹿にしていることも憐れだと思っていることも知っていた。大半が私に無関心だったということも。
けれどどこかで期待していた。
いつかきっとこんな私を受け入れてくれる人が出来るかも知れない。
留学先から殿下が帰ってくれば何かが変わるかもしれない。殿下と恋仲になれるかもしれない。
そんな愚かな妄想を人知れず繰り返した。
本当に愚かだった。
「相分かった。これまでの王太子妃としての役目大儀であった。これからは王太子側妃としてこの国に命を賭せ。」
「は。必ずや。」
「下がってよいぞ。」
「は。失礼致します。」
重低音を響かせながら大きな扉が開く。
謁見室を背に歩き出すのはなんだかとても惨めな気がした。明るい部屋から暗い廊下へ。
まるで私の人生みたい。
国の為に生きよと16年間育てられた。
国の為に死ねよと16年間育てられた。
そうして生きて、死んで、その後に私には何が残るのだろう。何が得られるのだろう。
残るのはただ隣国の男に婚約者を奪われた女という恥辱しかないではないか。
殿下はきっと知らない。殿下の耳まで入らない。もしかすれば陛下だって。
王太子妃の令嬢が代々王家の操り人形と呼ばれていることなんて。
私はこれからも都合の良い人形として生きていく。
私は自我を持つことを禁じられているのだから。
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