こころ 〜希望と絶望の摩擦〜

鈴本 貴宏

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第二章 素望

13 憩いのひと時

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 地面の照り返しに苦しみながら僕は...。

「夏」

蒸し蒸しとして汗が溢れ出すこの季節。
汗を掻くと気持ち悪い、汚いなど悪印象を受けるのではと焦ったりする。

そうするとさらに溢れかえる汗。
この悪循環が起きる僕の嫌いな季節...夏。

そこに追い打ちをかける様に、蝉の鳴き声や人ごみの雑音が耳をつんざく。
よってこの2年、夏の外出を極力減らす様に努めてきた。
ところがどっこい今年は少し毛色が違う、行きたいと思えるスケジュールが僕にもできた。

このことの何と喜ばしいことか。
自ら行動したいと思えることの何と誇らしいことか。

この環境を逃しては、一生こんなチャンスには巡り会えないだろう。

「おはようございます!」

いつものより少しテンションが高い声で挨拶をする。

「おはよう!」

皆さんから返事が来る、そのことが素直に嬉しい。

「空太メールの文章かったいな!もっとなんかこう、恋の相談とかそうゆうの送ってこいよ」

恋の相談の話は面倒なのでスルーしておこう。

「いや...あの...メールが苦手なんです。文章で話すと誤解とか起きやすいでしょ。だがら最低限にしてるんです」

東さんはう~んと眉間にしわを寄せた。

「まぁそうだな、じゃあ電話してこいよ!」

笑顔で更にハードルを上げてきた。
この人は柳の葉の様にひらひらと僕のオブラートに包んだ断りを躱してくるな。

「まぁまぁ東くん無理強いはダメだよ、まだ会って2回目なんだから。こうゆうのはだんだん仲良くなっていくものでしょ」

カメ爺が、親切にも助け舟を出してくれた。

「それに東くんと恋の話しても参考にならないわよ」

清水さんがいつもの笑顔をしながら鋭く突っ込む。
東さんはいやいや、と手を振り。

「そんなことないですよ、俺はなんたって恋愛マスターですから」

えっへんと胸を張っているところに遥さんと花火さんが声を合わせ。

「絶対ない!」

キッパリと言い切る。
それでも東さんは引き下がらない。

「そんなこと言うなら俺たちの男としての順位つけてくださいよ。空太、悪いけどお前には負けてないと思うぞ」

僕まで巻き込まないで欲しい。

「え~何ですかそれ。そんなこと言われても」

ね~と女性3人が顔を見合わせる。

「じゃあ一人一人じゃなくても、女子3人のまとめた判断でいいっすよ」

カメ爺もまぁまぁとなだめるが、東さんは止まらない。

女性陣も少し呆れながら集まって話し合っている。
でもなんだかんだで楽しそうに見える。
その輪から花火さんが出てきた。

「え~、発表します。1位は宮本さん、2位は空太くん、3位は東さんです」

嘘だー!と叫びながら東さんは草むらを脱兎のごとく走り出した。

僕はカメ爺におめでとうございますと言って、カメ爺は少し照れた様子。

「ほら、時間なくなったちゃうから写真撮りましょう」

そう僕らの背中を押した。

そうですねと、女性陣は何もなかった様な感じ、東さんは目に涙を浮かべながら空太~、と絡みついてきた。
僕はそれをおちゃらけながら解くが中々離れてくれない。

「さてと、今日は今の季節の代名詞ひまわりを中心に撮っていきましょう。あまり広くないので譲り合いでお願いしますね」

はーいと各々慣れた手つきで準備をしている。

カメラの画面設定が変わってしまっていて手間取った僕は遅れをとり、ひまわりの周りは一分の隙もなく埋められてしまっていた。
だけど何故だが、花火さんだけは20メートル以上離れた遠くの方で撮っていた。

仕方なく脇役のコスモスを撮ることにした。前に東さんが見せてくれた写真全体に花がめいいっぱい大きく映し出されたものが撮ってみたい。
その為に、なるべく近づいて撮る。
カシャ、あれ?カシャ、あれ?
何枚撮ってもボケボケの写真で花にピントが合っていない。

どうしたものかとカメ爺に聞いてみた。
ここで、東さんに聞かなかったのはなんとなくわかると思うが、端的に言うと面倒な事になりそうだから。

「すみません!ピントが合わないんですけど壊れたんですかね」

「ホント?それは大変だね。ちょっと撮って見せて」

先程の様にボタンを押して周りの木を撮ってみた。
すると何故だかピントは合っていた。

「すみません。なんか大丈夫みたいです」

カメ爺は安心した様子。

「そうか、それは良かった。たまたまかもね」

「そうですね、お邪魔してすみません」

「いやいや良いんだよ、何でも聞いてくれて。間違ってても恥ずかしがらずにね」

カメ爺は本当に優しい人だな。
なんだか祖父に似ている。
懐かしいな。

気を取り直して花を撮ってみることにした。
するとまた写真がボケボケだった。
なんでなんだ?
コスモスに嫌われているのか?

カメ爺の言葉に甘えてもう一度聞いてみることにした。

「度々すみません...やっぱり花を撮ろうとするとピントが合わなくて......」

カメ爺は不思議そうに顎に手を置いた。

「それはおかしいね。花を撮るとことを見せてくれるかい?」

カメラ本体ではなく、撮っているところを見て何かがわかるのか見当もつかなかったが、とりあえずやってみることにした。

先程通りなるべく花に近づいてシャッターボタンを押すカシャ、やはりカメラのピントは合っていない。

振り返えり写真を見せる。

「なんでだろうね」

カメ爺はうーんと悩みながら考えている。
本当に壊れてしまったのかもしれない。せっかくおじいちゃんに貰った物なのに。

少し落ち込んでいると、後ろから遥さんがどうしたのと話しかけてきた。
事情を説明して写真も見てもらうと、少しカメラを見せてと言われカメラを手渡した。
するとはるかさんは、

「空太くん写真撮るとき凄く近づいて撮ってない?」

「はい、そうですけど。花を大きく撮りたかったので」

やっぱりと言った。
何か分かったのだろうか。

「あのね、写真撮るときにはこれ以上近づくと取れなくなっちゃう焦点距離ってのがあってね。近づきすぎるとピントが合わなくなっちゃうの」

カメ爺はあぁそうかと頷く。

「じゃあ花の大きな写真は撮れないんですか?」

「そんなことないよ。空太くんはズームをしないで撮っているから、近づかないと撮れなかったの。ズームをすればある程度大きな花が撮れると思うわ。まぁでもマクロレンズって言う、花とか専用のレンズとかには敵わないけどね。ズームはね、ここをくるくると回すとできるから」

「そうなんですね、ありがとうございます。教えて頂いてとても分かり易かったです」

「いえいえ、お安い御用よ」

そう手を振りながら自分の撮影に戻っていった。

後ろの方で東さんが花火さんに絡んでいって面倒くさがられている。
巻き込まれない様に気配を消しながら、ズームをして撮ってみる。
カシャ、今度はピントが合っている。
やっぱり長く写真をやっている人は詳しい。自分一人だったらいつまでもわからずじまいだった。
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