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第三章 信望
36 帰宅
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僕は、花火さんの顔を見ながら電車が遠ざかっていくのを、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
あんな顔をした人に、なんて声を掛ければよかったのだろうか。
慰めればよかったのか、一緒に怒ればよかったのか、それとも花火さんを怒るべきだったのか。
でも、僕はそのどれ一つとして行動を起こす権利を持ってない気がする。
僕は花火さんにとって、その程度の小さな存在だと自覚している。
それは、僕がそれ以上の存在になる事を拒んできたから。
クラブ仲間という有難い居場所をもらって、そこに甘え続けてきた結果がこの結末。
友達という曖昧なカテゴリーは、いつ裏切られるか分からない不安と隣り合わせに存在している。
裏切られるぐらいなら、友達がいない寂しさの方がマシだと思ってきたが、繋がってしまった今では、その努力を怠ってきた自分には呆れるばかりで笑うしかない。
電車が豆粒ほども見えなくなっても、その場から動けないまま佇んだ。
ふと気づくと周りの邪魔になっていたので、ボーッとしたまま階段をふらふらと降りる。
駅員に事情を説明して、出してもらうと遥さんと冬乃さんといつの間にか帰ってきていた品川さんが待っていた。
「あの...花火ちゃんは?」
遥さんは震えた声で聞いてきた。
この人でもこんな声を出すんだな、と思うほど動揺して見えた。
「すみません。電車に乗って行っちゃいました」
「そう...なの」
「それにしても、何で花火さんキレたんですかね?」
対照的に冬乃さんは飄々としていて、なんだか少しムカついたが、ここで海歌さんの事を勝手に言っちゃう訳にもいかない。
出かかった言葉を飲み込み、首を横に振った。
「そんなに酷いこと言っちゃったのかな?」
「えー、可哀想って言っただけですよ。それだけで怒るなんて...」
「何のこと?」
品川さんは状況が飲み込めないようだ。
僕から説明しても良いが、今はそんな気分になれない。
すると、僕のスマホが鳴った。
表示画面を見るとカメ爺からだった。
「はい...」
「空太くん?どうしたの?」
「いえ、何も」
「そう。今、駐車場に着いたんだけどみんな何処にいるの?」
「今から向かいます。5分ぐらいで着くので待っていてください。プツッ」
「カメ爺から?」
「そうです。駐車場に居るそうなので行きましょう」
品川さんがいつの間にか、宮本さんの事をカメ爺と呼んでいたが今はどうでもいい。
僕たちは、無言のまま駐車場に向かった。
さっきまで活気があって楽しかった通りが、なんだかシャッター商店街を歩いているような寂しい気持ちになった。
「おーい!どうしたんだ?」
遠くの方を見ると東さんが、大きく手を振っていた。
それを見ても僕と遥さんは無反応だったが、事情を知らない品川さんは小走りで東さんに駆け寄りコソコソと何か喋っていた。
「何があったんだ?」
「えっと、色々ありまして...とりあえず車に乗りたいです」
「あぁ、分かったよ。そういえば花火ちゃんはどうしたんだ。トイレか?」
「花火さんは電車で帰ったと思います...多分」
「帰った?電車で?それに多分って」
東さんの疑問は他所に、僕たちは車に乗り込むと、携帯電話から音がしてメールを開くとお父さんから「大丈夫か?」と一言だけの文章が送られてきていた。
これが親の直感なのか、ただ単に僕の体調を心配したのか分からなかったが「大丈夫」と虚勢を張った。
そこからは色々と聞かれたが、僕と遥さんの言葉はぎこちなく、冬乃さんが代わりに事情を説明してくれた。
訂正したい部分は所々あったが、そんな気力も無かったので放っておいた。
車が走り出して、ふと後ろを振り返ると遥さんと冬乃さんの間の、不自然に空いた空間を見つけた。
そういえば、花火さんと約束をしていたな、と思い出すと憂鬱な気分になった。
寝てしまおうと思ったが、目をつぶっても花火さんの事が心配で、全然寝付けない。
それでも、目をつぶり続けると、まるで現実逃避の様な夢を見た。
三ツ石公園で写真クラブのみんながいて、楽しそうに走り回る海歌さんと花火さん。
その姿を写真で撮っている僕。
悪夢こそが相応しい時に、こんな夢を見るなんて、この光景こそが僕が望んでいるものなのだろうか。
「空太~、そろそろ着くぞ」
「うっ、は、はい」
いつの間にか見慣れた道に来ている。
みんな降りる準備をしているので、僕も準備を始めた。
すると、品川さんの家に最初に着いたようだ。
「じゃあ、皆さんお世話になりました!次の活動も参加しますのでよろしくお願いします」
今回だけの参加かと思っていたが、写真クラブに入るんだ。
まぁ、悪い子では無いからいいけど。
それにしても、よく今回のことがあって次回も来ようと思えるな。
僕だったら憂鬱で少し考えちゃうけど。
「冬乃ちゃん、これからよろしくね。次回はまだ未定だけどね」
清水さんは、そう言って車から手を出した。
「はい!」
冬乃さんは出された手を取りぎゅっと握りしめた。
「じゃあ、皆さんお疲れ様!またよろしく」
品川さんは手を振り、僕達も手を振り返す。
でも、僕は心ここに在らずでなんとなくみんなの笑顔も硬かった気がする。
車が走り出してとうとう残りは5人になってしまった。
少し走ると僕の家に着き、降りる準備をしていると、東さんにコソッと話しかけられた。
「今週の土曜日空いてるか?」
「ええ、大丈夫ですけど...」
「じゃあ、ライオンに午後の一時な」
そう言って車に乗り込んで行った。
「じゃあ皆さんお疲れ様でした。とても楽しかったです」
「じゃあ、またね」
「空太くん。今度、陶芸行こうね」
窓を開けて、カメ爺と清水さんが手を振っている。
すると、一番後ろの窓が開き、遥さんも手を振っているが、なんだか顔が引きつっている。
僕も手を振り返して、車が見えなくなった頃にその場を離れ、直ぐに家に入る気にならなかったので、家の前の縁石に座り込んでメールを打った。
「会って話しませんか?」
花火さんに宛てた、たったそれだけの短文。
他の言葉を足してしまうと、また悲しませてしまう気がしたから。
あんな顔をした人に、なんて声を掛ければよかったのだろうか。
慰めればよかったのか、一緒に怒ればよかったのか、それとも花火さんを怒るべきだったのか。
でも、僕はそのどれ一つとして行動を起こす権利を持ってない気がする。
僕は花火さんにとって、その程度の小さな存在だと自覚している。
それは、僕がそれ以上の存在になる事を拒んできたから。
クラブ仲間という有難い居場所をもらって、そこに甘え続けてきた結果がこの結末。
友達という曖昧なカテゴリーは、いつ裏切られるか分からない不安と隣り合わせに存在している。
裏切られるぐらいなら、友達がいない寂しさの方がマシだと思ってきたが、繋がってしまった今では、その努力を怠ってきた自分には呆れるばかりで笑うしかない。
電車が豆粒ほども見えなくなっても、その場から動けないまま佇んだ。
ふと気づくと周りの邪魔になっていたので、ボーッとしたまま階段をふらふらと降りる。
駅員に事情を説明して、出してもらうと遥さんと冬乃さんといつの間にか帰ってきていた品川さんが待っていた。
「あの...花火ちゃんは?」
遥さんは震えた声で聞いてきた。
この人でもこんな声を出すんだな、と思うほど動揺して見えた。
「すみません。電車に乗って行っちゃいました」
「そう...なの」
「それにしても、何で花火さんキレたんですかね?」
対照的に冬乃さんは飄々としていて、なんだか少しムカついたが、ここで海歌さんの事を勝手に言っちゃう訳にもいかない。
出かかった言葉を飲み込み、首を横に振った。
「そんなに酷いこと言っちゃったのかな?」
「えー、可哀想って言っただけですよ。それだけで怒るなんて...」
「何のこと?」
品川さんは状況が飲み込めないようだ。
僕から説明しても良いが、今はそんな気分になれない。
すると、僕のスマホが鳴った。
表示画面を見るとカメ爺からだった。
「はい...」
「空太くん?どうしたの?」
「いえ、何も」
「そう。今、駐車場に着いたんだけどみんな何処にいるの?」
「今から向かいます。5分ぐらいで着くので待っていてください。プツッ」
「カメ爺から?」
「そうです。駐車場に居るそうなので行きましょう」
品川さんがいつの間にか、宮本さんの事をカメ爺と呼んでいたが今はどうでもいい。
僕たちは、無言のまま駐車場に向かった。
さっきまで活気があって楽しかった通りが、なんだかシャッター商店街を歩いているような寂しい気持ちになった。
「おーい!どうしたんだ?」
遠くの方を見ると東さんが、大きく手を振っていた。
それを見ても僕と遥さんは無反応だったが、事情を知らない品川さんは小走りで東さんに駆け寄りコソコソと何か喋っていた。
「何があったんだ?」
「えっと、色々ありまして...とりあえず車に乗りたいです」
「あぁ、分かったよ。そういえば花火ちゃんはどうしたんだ。トイレか?」
「花火さんは電車で帰ったと思います...多分」
「帰った?電車で?それに多分って」
東さんの疑問は他所に、僕たちは車に乗り込むと、携帯電話から音がしてメールを開くとお父さんから「大丈夫か?」と一言だけの文章が送られてきていた。
これが親の直感なのか、ただ単に僕の体調を心配したのか分からなかったが「大丈夫」と虚勢を張った。
そこからは色々と聞かれたが、僕と遥さんの言葉はぎこちなく、冬乃さんが代わりに事情を説明してくれた。
訂正したい部分は所々あったが、そんな気力も無かったので放っておいた。
車が走り出して、ふと後ろを振り返ると遥さんと冬乃さんの間の、不自然に空いた空間を見つけた。
そういえば、花火さんと約束をしていたな、と思い出すと憂鬱な気分になった。
寝てしまおうと思ったが、目をつぶっても花火さんの事が心配で、全然寝付けない。
それでも、目をつぶり続けると、まるで現実逃避の様な夢を見た。
三ツ石公園で写真クラブのみんながいて、楽しそうに走り回る海歌さんと花火さん。
その姿を写真で撮っている僕。
悪夢こそが相応しい時に、こんな夢を見るなんて、この光景こそが僕が望んでいるものなのだろうか。
「空太~、そろそろ着くぞ」
「うっ、は、はい」
いつの間にか見慣れた道に来ている。
みんな降りる準備をしているので、僕も準備を始めた。
すると、品川さんの家に最初に着いたようだ。
「じゃあ、皆さんお世話になりました!次の活動も参加しますのでよろしくお願いします」
今回だけの参加かと思っていたが、写真クラブに入るんだ。
まぁ、悪い子では無いからいいけど。
それにしても、よく今回のことがあって次回も来ようと思えるな。
僕だったら憂鬱で少し考えちゃうけど。
「冬乃ちゃん、これからよろしくね。次回はまだ未定だけどね」
清水さんは、そう言って車から手を出した。
「はい!」
冬乃さんは出された手を取りぎゅっと握りしめた。
「じゃあ、皆さんお疲れ様!またよろしく」
品川さんは手を振り、僕達も手を振り返す。
でも、僕は心ここに在らずでなんとなくみんなの笑顔も硬かった気がする。
車が走り出してとうとう残りは5人になってしまった。
少し走ると僕の家に着き、降りる準備をしていると、東さんにコソッと話しかけられた。
「今週の土曜日空いてるか?」
「ええ、大丈夫ですけど...」
「じゃあ、ライオンに午後の一時な」
そう言って車に乗り込んで行った。
「じゃあ皆さんお疲れ様でした。とても楽しかったです」
「じゃあ、またね」
「空太くん。今度、陶芸行こうね」
窓を開けて、カメ爺と清水さんが手を振っている。
すると、一番後ろの窓が開き、遥さんも手を振っているが、なんだか顔が引きつっている。
僕も手を振り返して、車が見えなくなった頃にその場を離れ、直ぐに家に入る気にならなかったので、家の前の縁石に座り込んでメールを打った。
「会って話しませんか?」
花火さんに宛てた、たったそれだけの短文。
他の言葉を足してしまうと、また悲しませてしまう気がしたから。
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