こころ 〜希望と絶望の摩擦〜

鈴本 貴宏

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第三章 信望

35 花火の深い傷

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 だいぶ時間も経っていたので、カメ爺達がどこにいるのか気になった僕は脇道に入り電話をかけてみた。

「あ、カメ爺ですか?」

「そうだよ。空太君達は今どこにいるの?」

「えぇっと、小町通りの駐車場から少し離れた通りにみんなでいます」

「そうか、僕達3人はね。本覚寺で蓮の花の写真を撮ってだんだ。もう片付けているから20分ぐらいで戻れると思うよ」

凄いな...僕達は買い物をしているというのに、こんな時まで写真だなんて。

「わかりました。駐車場で待ち合わせでいいですか?」

「そうだね。じゃあよろしく。プツッ」

電話が切れたので、みんなに事情を説明した。
冬乃さんの提案で駐車場に近いアイスクリーム屋さんで待つことになった。
品川さんは、辺りをぶらぶらしてくると言ってどっかに行ってしまった。

店内に入り飲み物を注文しようとメニューを見る。

「私、ピスタチオ!花火さんはどうする?」

えっ、女子はスイーツは別腹だと良く言うが、スイーツの次のスイーツも別腹なのだろうか?

「私は、飲み物だけでいいかな」

「えーっ、でも遥さんは食べますよね?」

「うぅーん。じゃあSサイズを頂こうかな」

完全に気を使っている、遥さん可哀想。
僕もしれーっと飲み物を頼もうとしていると、横から冬乃さんが割り込んできた。

「じゃあ、空太さんはチョコのLサイズで!」

「えぇっ、そんな」

「決定です!花火さんの分まで食べてください」

「あ、はい...」

冬乃さんが、強引なのは知っていたが、せめて種類ぐらいは選ばせて欲しかった。
チョコアイスはそんなに好きじゃないんだよな。

アイスを受け取り、席に着くと遥さんが瑠璃ちゃんの話をし始めた。

「瑠璃ちゃん、可愛かったね。あんな妹欲しかったわ」

「えーっ、年離れすぎじゃないですか?」

大人の女性に年の話はダメなのに、冬乃さんはとことん気にしない人だな。

「私が18才ぐらいの時に、妹が出来るなんてそこまで不思議じゃないよ」

遥さんは普通にしている。
女性同士だと年の話も大丈夫なのかな。
それとも、ただ遥さんの心が広いのかどっちだろう。

「え、でも今の私の年で妹ですよね。少し嫌かもしれないです」

花火さんは複雑そうな顔をした。
だいたい察しはつくな、たしかに僕も嫌かもしれない。

「まぁ、そうか。その当時なら嫌かもね...じゃあやっぱり花火ちゃんが妹がいいかな」

「そうですか?」

二人とも満更じゃなさそうな顔をしている。
本当に仲がいい、少し羨ましいぐらいに。

「ちょっと待った。私は?私はどうですか?妹に」

アイスをマイクのようにして、遥さんと花火さんの方に向ける。

「そうね。冬乃さんが、一番妹っぽいかな。妹キャラっていう感じよね」

「私は...めん...分からない」

完全に面倒臭いと言おうとしたな。
まぁ確かに僕や花火さんとは性格的に合いそうにはない子だもんな。

「でもさ、瑠璃ちゃん不憫よね。あんなにいい子なのに」

遥さんは真剣な顔をしてそう言い放った。
まぁ、確かに不憫ではあるのかな?

「えっ」

花火さんのこの小さな漏れ出た声を冬乃さんがかき消す。

「そうですよね。学校にも通えないなんて可哀想ですね」

「ホントに。何とかしてあげたいけど、どうにも...」

バンッ!机を叩く音が店内を駆け巡った。

「不憫って何ですか?あんなに楽しく遊んでたのに、そんな事思いながら話してたんですか?」

花火さんは、遥さんを見つめて周りも目も気にせずに感情のままに怒りを剥き出しにした。

「どうしたの?花火ちゃん」

遥さんは、何が起こったのかまるっきり分からない様子で、ただただ困惑している。
冬乃さんもびっくりして固まっているが、ここにいる人の中で僕だけは意味が分かる気がした。
そういえば、クレープ屋さんの前で話した時に言っていた「君もどうせ」とは海歌さんの事だったんじゃなかろうか。
瑠璃ちゃんと海歌さんを重ねていたんだ、僕と花火さんは。
だから、こんなにも花火さんは怒っているんだ。

「もう...いい!」

花火さんは店を飛び出していった。
僕はどうしていいのか分からず二人を見るが放心状態でどうにもならない様子。
それを見て何故か僕までお店を飛び出していた。
左右に首を振ると駅の方向に走っていく花火さんを見つけた。

慌てて追いかけるが、なにぶん運動不足の僕では追いつけるわけもなく、鎌倉駅までついたがもう花火さんはどこにもいない。

電車に乗ってしまったかもしれない!
そう思ったら、ホームに体が勝手に向かっていた。
ホームまでの階段を登り電車を見ると、花火さんらしき後ろ姿を見つけた。

「花火さん!」

そう叫ぶとその人はゆっくりと振り向いた。

なんとか引き止めようと思って電車に向かって走ったが、花火さんの顔は怒っているというにはあまりにも哀しげな顔だったので僕の歩みは一瞬にして止まってしまった。
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