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第四章 願望
38 作戦会議
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夏の終わりの湿った暖かい空気が僕の頬を撫で、草木が最後のともし火のように大きく揺れる。
「こいつらも死にたくないんだな」
三ツ石公園の真ん中で一際大きくそびえ立つ大樹に向かって語りかける。
僕の一番嫌いだった筈のこの季節が終わる。
その事がなんだか寂しくて、またそう感じている事が無性に可笑しかった。
でも、本当に夏を好きになる為には早急になんとかしないと行けない事案が二つある。
一つは、遥さんへの説明。
もう一つは、花火さんとの和解交渉。
この両方がクリア出来ないと、写真クラブは完全に元どおりにはならないだろう。
そしてこれから、遥さんへの説明に際して一人だと心細いので東さんにご協力をお願いしに行く所。
だが、自分からこんな大きな行動を起こすのが初めてなのでとても緊張して、喫茶店に向かう手前の三ツ石公園の端にある砂利道で足が震えて歩けなくなった。
「怖い...嫌だ」
まただ、また逃げようとしている。
僕はいつでもそうだった。
今まで逃げ続けて、それでもどうにか生きて来れたので完全に逃げ癖がついてしまったんだ。
確かに何とかなっては来た。
正し罪悪感と敗北感と取り返しのつかなくなった現実をとり残して、何とか守ってきた僕の平穏な日々。
親友だと思ってくれていたかけがえのない友達を勝手な事情で見限った。
親身になってくれた先生を職業だけを見て嫌悪した。
信じ続けてくれている家族の期待を何度裏切ってきた事か。
今度こそ、今度こそと何度も思ってその度に逃げ道を見つけてそこに飛び込む。
その結果が悲惨な事は起きない代わりに何もない孤独な日々。
毎日ただ食事を済ませて日課を行うだけの機械的な生活。
結局逃げ込んだ道の末で僕の手元には何も残らなかった。
そんな空っぽな僕を写真クラブのみんなは優しく迎えてくれた。
僕のワガママを受け入れて、優しさを返してくれた。
僕の過ちを許して許容してくれた。
そんな大切な人たちが困っていて、それをどうやったら見逃せるのだろう。
「よし!行くか」
やっと決心がつき、僕の足はしっかりと地面を踏みしめて前を向いて歩き出す。
「カラン、カラン」
前とは違う扉の鈴の音が気になったが、僕は真っ直ぐに店内を見つめる。
テーブル席に東さんとカメ爺が座っていた。
カメ爺がいるのは大体予想がついていたので特に驚く事もなくお辞儀をした。
「おはようございます」
「おっす!5日ぶりか。疲れは取れたか?」
東さんはいつも通り元気に暑苦しくそれが心地いいと感じる。
大分東さんに順応してきたんだな。
「はい。全然それどころじゃなかったですから」
「そうなの?まぁ座りなよ」
誘導に従って席に着きフーッと深呼吸を一回。
「早速本題なんですが...花火さんと遥さんの件です」
「そう、それ!大体は冬乃ちゃんに聞いたけどさ、あんまり飲み込めなくてよ」
「そうだね~。花火ちゃんが怒るなんて想像つかないよね」
「あれには事情がありまして...」
「何なに?」
「実は花火さんのお姉さんが病気で入院していまして、瑠璃ちゃんって子と状況が似ていたので不憫って言葉が許せなかったんだと思います」
「そっかーーー。そらゃ怒るかもな...でもそうなると遥さんが謝れば済むような問題か?」
カメ爺は目をつぶり深く考え込んでいる様子なので僕と東さんだけで話を続けた。
「そうなんです。謝って仲直りとか、そういう次元の話じゃないんですよね」
「だよなー。なんか、ないもんかね」
「そうですね...」
「あっ、こんなのどうだ?遥さんと花火さんを俺たちが別々に誘って、集合場所に行ったらばったり出くわす。そうしたら話すしかないだろ」
「それは...本人たちに任せ過ぎじゃないですか?あったら話すぐらいなら、もうとっくに話していると思いますよ」
「確かに...あーーーどうすりゃいいんだ!カメ爺も作戦出してくださいよ」
カメ爺は目を開けると僕の方を見つめた。
「うん、でもさ。まずは空太君の案が聞きたいな。何かあるんでしょ」
カメ爺は鋭いな。
実は口には出さないが僕の中で答えはもう出ている。
それを告げる勇気が出なかっただけ。
だから、何とか話を伸ばしてきっかけはないかと探っていたんだけど。
「えっ、本当か?」
「案というか、お願いなんですけど遥さんに今の事を伝えてくれませんか?」
「いいけど、僕たちがやるのかい?」
「はい。子供の僕が言うよりいいと思います」
「まぁ、そうだね」
「多分、伝えたら遥さんなら謝りたいって言ってくれると思うんですけど、それを待ってて貰えるようにカメ爺と東さんで説得してください」
「どうしてだい?」
「あの...今の花火さんじゃいい返事は来ないと思うので...その、僕が花火さんを説得しますので、それまで待っててくれませんか?」
「えっ、でもよ」
「わかった。任せていいんだね」
東さんの不安はよくわかる。
こんな僕に任せて大丈夫なのか、って思っているのだろう。
それでもカメ爺は、こんな無茶なお願いを承諾してくれた。
初めて大人と対等な会話をしたような気がして背中がこそばゆい感じがする。
「はい!任せてください」
「ちょっと二人で盛り上がらないでくださいよ。俺も仲間なんだからね」
「わかってますよ。東さんもよろしくお願いします」
「おっおう!じゃあ写真クラブ復活作戦、頑張るぞーーー」
「お、おーーー」
恥ずかしさを振り切り、僕は手を突き出し声を出した。
今回はカメ爺も止める事なく「ハハハ」と笑っている。
「じゃあ、僕はそろそろ帰ります」
「帰るの早いな、まだ10分も経ってないぞ。何かこの後に予定でもあるのか?」
「すみません。お父さんと出掛ける用事がありまして...」
今朝急にお父さんから13時から出掛けるぞ、と告知された。
普段の休日は寝て過ごしているお父さんたが、一年に一回ぐらいこういう時がある。
「お父さんと?どこ行くの?」
「教えてくれないんです。またいつものドライブとかだと思うんですけど」
「へー、仲良いんだね」
「いやー、どうなんですかね。悪くはないと思いますけど」
「じゃあ、行ってこい!決戦前の気分転換だな」
「そう、ですね。では失礼します」
そう言って席を立ちドリンク代の300円を置いて店長に軽く会釈をしてからライオンを出た。
「こいつらも死にたくないんだな」
三ツ石公園の真ん中で一際大きくそびえ立つ大樹に向かって語りかける。
僕の一番嫌いだった筈のこの季節が終わる。
その事がなんだか寂しくて、またそう感じている事が無性に可笑しかった。
でも、本当に夏を好きになる為には早急になんとかしないと行けない事案が二つある。
一つは、遥さんへの説明。
もう一つは、花火さんとの和解交渉。
この両方がクリア出来ないと、写真クラブは完全に元どおりにはならないだろう。
そしてこれから、遥さんへの説明に際して一人だと心細いので東さんにご協力をお願いしに行く所。
だが、自分からこんな大きな行動を起こすのが初めてなのでとても緊張して、喫茶店に向かう手前の三ツ石公園の端にある砂利道で足が震えて歩けなくなった。
「怖い...嫌だ」
まただ、また逃げようとしている。
僕はいつでもそうだった。
今まで逃げ続けて、それでもどうにか生きて来れたので完全に逃げ癖がついてしまったんだ。
確かに何とかなっては来た。
正し罪悪感と敗北感と取り返しのつかなくなった現実をとり残して、何とか守ってきた僕の平穏な日々。
親友だと思ってくれていたかけがえのない友達を勝手な事情で見限った。
親身になってくれた先生を職業だけを見て嫌悪した。
信じ続けてくれている家族の期待を何度裏切ってきた事か。
今度こそ、今度こそと何度も思ってその度に逃げ道を見つけてそこに飛び込む。
その結果が悲惨な事は起きない代わりに何もない孤独な日々。
毎日ただ食事を済ませて日課を行うだけの機械的な生活。
結局逃げ込んだ道の末で僕の手元には何も残らなかった。
そんな空っぽな僕を写真クラブのみんなは優しく迎えてくれた。
僕のワガママを受け入れて、優しさを返してくれた。
僕の過ちを許して許容してくれた。
そんな大切な人たちが困っていて、それをどうやったら見逃せるのだろう。
「よし!行くか」
やっと決心がつき、僕の足はしっかりと地面を踏みしめて前を向いて歩き出す。
「カラン、カラン」
前とは違う扉の鈴の音が気になったが、僕は真っ直ぐに店内を見つめる。
テーブル席に東さんとカメ爺が座っていた。
カメ爺がいるのは大体予想がついていたので特に驚く事もなくお辞儀をした。
「おはようございます」
「おっす!5日ぶりか。疲れは取れたか?」
東さんはいつも通り元気に暑苦しくそれが心地いいと感じる。
大分東さんに順応してきたんだな。
「はい。全然それどころじゃなかったですから」
「そうなの?まぁ座りなよ」
誘導に従って席に着きフーッと深呼吸を一回。
「早速本題なんですが...花火さんと遥さんの件です」
「そう、それ!大体は冬乃ちゃんに聞いたけどさ、あんまり飲み込めなくてよ」
「そうだね~。花火ちゃんが怒るなんて想像つかないよね」
「あれには事情がありまして...」
「何なに?」
「実は花火さんのお姉さんが病気で入院していまして、瑠璃ちゃんって子と状況が似ていたので不憫って言葉が許せなかったんだと思います」
「そっかーーー。そらゃ怒るかもな...でもそうなると遥さんが謝れば済むような問題か?」
カメ爺は目をつぶり深く考え込んでいる様子なので僕と東さんだけで話を続けた。
「そうなんです。謝って仲直りとか、そういう次元の話じゃないんですよね」
「だよなー。なんか、ないもんかね」
「そうですね...」
「あっ、こんなのどうだ?遥さんと花火さんを俺たちが別々に誘って、集合場所に行ったらばったり出くわす。そうしたら話すしかないだろ」
「それは...本人たちに任せ過ぎじゃないですか?あったら話すぐらいなら、もうとっくに話していると思いますよ」
「確かに...あーーーどうすりゃいいんだ!カメ爺も作戦出してくださいよ」
カメ爺は目を開けると僕の方を見つめた。
「うん、でもさ。まずは空太君の案が聞きたいな。何かあるんでしょ」
カメ爺は鋭いな。
実は口には出さないが僕の中で答えはもう出ている。
それを告げる勇気が出なかっただけ。
だから、何とか話を伸ばしてきっかけはないかと探っていたんだけど。
「えっ、本当か?」
「案というか、お願いなんですけど遥さんに今の事を伝えてくれませんか?」
「いいけど、僕たちがやるのかい?」
「はい。子供の僕が言うよりいいと思います」
「まぁ、そうだね」
「多分、伝えたら遥さんなら謝りたいって言ってくれると思うんですけど、それを待ってて貰えるようにカメ爺と東さんで説得してください」
「どうしてだい?」
「あの...今の花火さんじゃいい返事は来ないと思うので...その、僕が花火さんを説得しますので、それまで待っててくれませんか?」
「えっ、でもよ」
「わかった。任せていいんだね」
東さんの不安はよくわかる。
こんな僕に任せて大丈夫なのか、って思っているのだろう。
それでもカメ爺は、こんな無茶なお願いを承諾してくれた。
初めて大人と対等な会話をしたような気がして背中がこそばゆい感じがする。
「はい!任せてください」
「ちょっと二人で盛り上がらないでくださいよ。俺も仲間なんだからね」
「わかってますよ。東さんもよろしくお願いします」
「おっおう!じゃあ写真クラブ復活作戦、頑張るぞーーー」
「お、おーーー」
恥ずかしさを振り切り、僕は手を突き出し声を出した。
今回はカメ爺も止める事なく「ハハハ」と笑っている。
「じゃあ、僕はそろそろ帰ります」
「帰るの早いな、まだ10分も経ってないぞ。何かこの後に予定でもあるのか?」
「すみません。お父さんと出掛ける用事がありまして...」
今朝急にお父さんから13時から出掛けるぞ、と告知された。
普段の休日は寝て過ごしているお父さんたが、一年に一回ぐらいこういう時がある。
「お父さんと?どこ行くの?」
「教えてくれないんです。またいつものドライブとかだと思うんですけど」
「へー、仲良いんだね」
「いやー、どうなんですかね。悪くはないと思いますけど」
「じゃあ、行ってこい!決戦前の気分転換だな」
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