こころ 〜希望と絶望の摩擦〜

鈴本 貴宏

文字の大きさ
44 / 51
第四章 願望

43 夢中で

しおりを挟む
 「早く映画が始まらないかな」

祈るようにそう呟いた。
すると花火さんは、僕の腕をトントンと突いて小さな声で話しかけてきた。

「ねぇねぇ。猫街って、音楽も良いんだって。結構、話題になってた」

腕をいきなり触られて、心臓がキューッと縮こまった僕は、なんとか平静を装って言葉を返す。

「そうなんですか。詳しいんですね」

「うん。私、この作者の他の映画好きなの。だから、けっこう調べたんだ」

「どんな作品を書いている人なんですか?」

「そうだなー。あれは、知っているんじゃない?『僕に嘘をつくその日まで』」

「あっ、知ってますそれ!友達の間で流行ってました。確か3年前ぐらいに映画化されましたよね」

その時期は、僕が学校に普通に通えていた最後の頃。
友達に誘われていたけど、結局行かなかったんだよな。

「私、その映画を見て『僕嘘』に出てくる制服に似ているから、西海高校選んだの」

「そうなんですか...」

すると、急に映画館の照明が暗くなり、スクリーンに上映時の注意映像が映し出された。

僕達は会話を打ち切り、スクリーンを見つめた。

やっと映画が始まった。

最初は正直あまり興味が無かったのだが、見始めると凄く面白い。

野良猫のように一人で生きてきた主人公の広正が、家猫のように人懐っこいヒロインの沙夜と恋をするという内容。

主人公の友達になる闘犬のようなヤンキーの俊朗。
恋のライバルになる、忠犬みたいなヒロインの幼馴染である賢人。

などの、動物をモチーフにした登場人物達のクラスで起こる、高校生らしい甘酸っぱい恋の物語。

ラストシーンに出てくる、田んぼ道を大人になった二人が、手を繋ぎ犬を二匹連れて歩くシーンでは涙が出てしまった。

エンドロールも終わり、照明がついた。
集中しすぎて全く見ていなかった花火さんの方を見ると、目をウルウルさせて前屈みのまま固まっていた。

「花火さん。終わりましたよ」

「うん、終わっちゃった。面白かった?」

「はい、物凄く!」

「私も!」

僕達は、興奮覚めやらぬまま全く手をつけていないポップコーンを片手に、7番スクリーンを出た。

受け付けを出たところで、僕はさっきの約束を思い出し、前を歩く花火さんを呼び止めた。

「あの、花火さん。ポップコーンのカップどうぞ」

「そうだった。でも、君もこの映画気に入ったみたいだから自分で持ってなよ」

「ありがとうございます。あ、そうだ!チケット貰ったんですから、海歌さんにお土産買いに行きませんか?」

「いや、いい」

花火さんは素っ気なく僕の提案を断った。

「そうですか。じゃあ僕は少し買ってきますね」

「だから、いいってば!」

「あっ、はい」

いきなり、どうしたんだろう。
まあ、花火さんが嫌なら海歌さんへのお土産は、またの機会にするか。

「じゃあ、帰ろう」

「はい」と言いかけたところで、ふと本来の目的を思い出した。
僕は、花火さんを説得するために今日来たのに、映画を観ただけで帰る訳にはいかない。

「あの、どっかで映画の話でもしませんか?」

こんな大通りで、説得するのは気が引けたので、映画を口実に誘ってみることにした。

「えっ、まぁいいよ。でも、そんなにこの映画気に入ったの?」

「はい。せっかく映画見たのに、このまま帰るのはどうかと思って」

「うん、そうだね。じゃあどこに行く?」

「えっと、じゃあライオンでどうですか?」

「あの喫茶店?ま、いっか。家の近くまで帰ってからの方が帰りが楽だね」

「じゃあ、行きましょうか」

バスに乗り徒歩も合わせて15分ぐらいで、喫茶ライオンへ着いた。

「チーーン!」

花火さんの後に続いて店内に入ると、扉から前回とは違う音が響いた。
そういえば、前回来た時も違う音だったな。

「鈴、変えたんですね」

厨房から出てきた店長さんに向かって何気なく聞くと、恥ずかしそうに笑いながら手を頭の後ろに回した。

「いや~、趣味がコロコロ変わりやすくてね。半年前と比べると、あちこち変わっちゃってるんだ」

「あっ、ホントだ。メニュー立ても変わってますね」

「アハハハ。常連さんには一貫性がないってよく怒られるんだけど、やめられなくてね」

「そうなんですか。でも、前のより良いと思います」

「そうかな、ありがとう。メニューも少し変わっているから見てみてね」

「はい」

僕は、先に席に着いた花火さんの向かい側に座った。

早速メニューを手に取り、何が変わったのか見てみることにした。

「仲良いんだね。あの人と」

「えっ、そうですか?」

「だって、あんなに楽しそうに話してたじゃん」

「それは、多分お客さんだから愛想よくしてくれているんだと思いますよ」

「君って、ネガティブだね」

ネガティブ?
でも、もし店長さんに街で会っても話しかけてはくれないだろう。
その程度の関係で、仲が良いとは言えないと思う。

いや、もしかして...

「ネガティブなんですかね?」

「うん。凄く」

「そうなんだ...」

初めて自分がネガティブという事を認識した。
以前から、前向きな性格では無いと思っていたがネガティブだったとは...

僕が落ち込んでいると、花火さんはお構い無しに映画の話を始めた。

「それで君は、どのシーンが一番よかった?」

「えっと...やっぱり一番はラストシーンかと」

「私も!あの手を繋ぐシーンは最高だった。それと、あの犬の意味は理解できた?」

「はい!広正が、賢人の飼っていた犬を連れて歩くって事は、約束を守って賢人に認められたって事ですよね」

「やっぱりそうだよね!ラストシーンの間がどうだったのか気になるよね」

「確かに、気になります!」

この後も、二人で子供のように夢中で映画の感想を話し続け、僕がネタが尽きかけても、花火さんは話し足りないようで一方的に喋り続けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

処理中です...