こころ 〜希望と絶望の摩擦〜

鈴本 貴宏

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第四章 願望

46 夢だったら

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 水浸しのまま、家に入るとお母さんが駆け寄ってきた。

「どうしたの!とりあえず、お風呂に入りなさい」

「いい、大丈夫」

「空太、何があったの?」

「海歌さんが、死んだんだ」

「海歌さんって、前に言ってた花火ちゃんのお姉さん?」

「うん。一昨日、死んだんだって」

「とりあえず服を脱ぎなさい。着替え持ってくるから」

お母さんは、表情を変えずにそう言った。
なんでそんなに、冷静でいられるんだろう。
自分と関係ないからかな。

バスタオルで体を拭き、お母さんが持ってきた服に着替えた。

「じゃあ。僕、部屋に行くね」

階段を上ろうとすると、お母さんは僕を呼び止めトントンとソファーを叩いた。

「ここに座りなさい」

「行くね...」

僕は、早く部屋に行って寝てしまいたいんだ。

「いいから!座りなさい」

「ごめん」

僕は階段を上がり、部屋に入りゆっくりと扉を閉めると、その場で力が抜けて座り込んだ。

海歌さんは、本当に死んじゃったのかな。
病気だって事は知っていたけど、人間ってこんなあっさり死んじゃうのか。

明日から、何を希望に生きていけばいいんだろう。

とりあえず、寝てしまおう。
もう考えたくない。

全てが夢だったらいいのにな。


翌朝、入ってすぐの床でそのまま寝てしまっていたようで、お母さんの扉を開けた衝撃で起きた。

「ごめん。大丈夫?」

「うん」

「部屋入っていい?」

「いいよ」

僕が、扉から退いた瞬間お母さんが抱きしめてきた。
ビックリして立ち尽くした僕を、お母さんは1分ほど抱きしめ続けた。
そして、パッと手を離し真面目な顔をして僕に質問をする。

「お葬式は、いつなの?」

「明日」

「じゃあ、急いで制服探さなきゃ」

「いいよ。行かないから」

とてもじゃないが、死んだ海歌さんの顔なんて見たくない。

「行きなさい。行かなかったら絶対に後悔するから」

「嫌だ。行きたくない」

「ダメよ。私が引っ張ってでも連れて行く」

「なんでそんなひどい事するの。お母さんらしくないよ」

お母さんは、いつでも優しくて僕の味方をしてくれていた。
なのに、なんで今は僕の気持ちを理解してくれないんだ。

「空太、あのね。学校に行けとか、勉強しろとかそんなことはお母さん言わないわ。空太が病気なのも分かっているから、無理させる気は無いの。でもね、今回は違うの」

「なんでよ!なんで分かってくれないの!」

壁を思いっきり叩いた。
それでも、お母さんは話をやめない。

「大切な人を失う気持ちなら、お母さんにも分かる。お葬式に行きたくない気持ちもわかる。でも、いつかは亡くなったっていう事実を受け入れなきゃいけないの。その時に、お葬式に行ってなかったら絶対に後悔するから」

「それでも、死んだ海歌さんの顔を見たくない」

「でも、その人はきっと空太と会いたがってるよ。自分の為だと行けないなら、その人の為だと思って行く事はできない?」

その言葉は、ズルすぎる。
僕が、海歌さんの為と言われたら断れないの分かって言っているのかな。

「じゃあ、少し会いに行くだけなら...」

「そうね。じゃあ私も一緒に行くね。難しい事は気にしないで、空太はその人にちゃんとお別れを言うのよ」

「うん...」

お母さんは、立ち上がって笑顔でこちらを見る。

「じゃあ、朝ご飯は何食べたい?好きなもの作ってあげるよ」

「いらない。寝たい」

ご飯なんて、食べる気にはならない。
それよりも早く、また寝てしまいたいんだ。

「そうね。明日の為にも休まないとね」

ベッドで、横になり目をつぶる。
お母さんは、お別れをしなさいと言っていたけど、僕はそんなのしたくない。

お別れしなきゃいけないぐらいなら、海歌さんの所に行きたいな。
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