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第四章 願望
47 父親似
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昨日は結局あまり眠れなかった。
何度か眠りに就いたが、その度に夢の中で海歌さんの死に顔が僕を叩き起こす。
でも、起きた所で海歌さんが居ない現実が待っているだけ。
そんなどちらも最悪な現状に、どうしていいか分からずベッドで悶えながら苦しんでいると、誰かが部屋に入ってきた。
「空太...もう着替えなさい。あと20分で出発するわよ」
喪服を着たお母さんは、優しい声で僕に時間を告げる。
「...うん」
ベッドから立ち上がり、クローゼットの中でハンガーにかかった高校の制服を取り出す。
そういえば、高校の制服を着るのは3回目だな。
1回目は、高校の入学式の日。
緊張とワクワクが半々で、教室に入ると意外と大丈夫で、調子に乗って隣の席の人に話しかけたりして、このまま楽しい高校生活が始まるんだなって嬉しくなった。
でも、1時間もしない内に体調が悪化して保健室で一日過ごした。
2回目は、入学式の事を引きずって一週間休んだ後。
それでも、学園生活を諦めきれなくて学校に向かったんだけど、途中で帰ってきちゃったんだよな。
それから、1年以上着ていなかった高校の制服を、葬式なんかで着ることになるなんて嫌だな。
制服は少しきつかったけど着れないほどではない。
最後にネクタイを付けようとすると、もうネクタイは結ばれていて、あとは付けるだけの輪っかの状態になっている。
中学は学ランだったので僕はネクタイの結び方を知らない。
高校の入学式の時はお父さんが結んでくれた。
だからきっと、またお父さんがやってくれたのだろう。
僕は、部屋を出てリビングで待っているお母さんに準備ができたことを報告した。
「そうだ、お父さんから預かってるんだった。はい、これ」
「うん...」
手渡されたものは一枚の紙だった。
そこには、焼香の仕方が手書きで説明されていた。
そして、最後に「頑張れ」と小さな文字で書かれていた。
僕は、それを読み終わるとポケットに大事にしまった。
「じゃあ、行こうね」
「うん」
自宅から車で斎場まで15分。
近くのコインパーキングに車を停めて、少し歩いて斎場に向かった。
その道中で『故 内野 海歌儀 葬儀式場』と書かれた看板を見つけた時には、心臓が痛くなって座り込んでしまった。
それでも、海歌さんの為だと自分に言い聞かせなんとか斎場に着くと、そこには百を超える人が居た。
半分近くは、大学生くらいの若者で海歌さんの友達なのだろう。
海歌さんはお見舞いを拒んでいたようなので知らなかったが、こんなに友達が居たんだな。
なんだが、その事実は嬉しくもあり悲しかった。
少し経つと皆ぞろぞろと会場に入って行った。
僕も後からついてお母さんに指示された椅子に座った。
そこからは、僧侶の読経や弔辞があったり、海歌さんの友達らしき人が泣いているのを結構見たけど、僕は泣けなかった。
死んだ事を受け入れたくなかった。
泣いてしまうと、死んだ事を認めた証になってしまう気がした。
葬式もだいぶ進み、この次にはお別れの儀が始まるみたいだ。
その時には、とうとう海歌さんの死に顔を見なければならない。
昨日お母さんと約束したが、どうしても嫌だった僕は「もう帰りたい」とお母さんに懇願した。
お母さんは「しょうがないわね」と言って僕たちは出口に向かう。
「空太君。来てくれたんだね」
後ろを振り向くとそこには、おじさんがいた。
「あ...はい」
「ありがとう」
その笑顔は、海歌さんのモノとそっくりだった。
自分が辛い状況なのに、他人のことを思って見せる笑顔。
僕の目から涙が出そうになった。
海歌さんがいつも見せてくれていた、あの笑顔を見れた事が嬉しかったのか。
もう見れないと思い知った事が悲しかったのか。
いや、多分その両方だろう。
海歌さんの性格は父親似なんだな。
僕は涙が出ないように顔を何度も叩いた。
「大丈夫かい!」
「はい。ありがとうございます。それでは、失礼します」
これ以上この場にいると泣いてしまいそうなので、その場から離れる事にした。
「あ、待って空太君。お別れの儀はいいのかい?」
「はい。すみません」
「顔だけでも見て行ったらどうだい?」
「いえ...」
「そうだね...今日はありがとう。気をつけて帰るんだよ」
「はい。失礼します」
僕は外に出たが、お母さんは中でおじさんと話をしているので少し待つ事にした。
すると、花火さんを見つけた。
僕は咄嗟に隠れて様子を伺うと、花火さんがメイクの上からでも目を腫らしているのがわかった。
こんな時には、会わない方が良いんだろうな。
僕は、絶対に見つからないように注意しながら、お母さんのところに向かった。
「帰ろう」
「そうね。今日は頑張ったね、空太」
僕は、帰りの車の中で花火さんの顔が浮かんで離れなかった。
そういえば、花火さんは一週間は病室に来ちゃダメと言った時には、もう海歌さんが死にそうなことを知っていたのかな。
それでも僕の前では明るく振舞っていたのかな。
そんな状況の時に、写真クラブの事なんか持ち出して、もっと辛い思いをさせたんじゃ無いのか。
悩みは尽きないが、今はそんな事どうでもいい。
海歌さんのいない世界の事なんて考えたくない。
何度か眠りに就いたが、その度に夢の中で海歌さんの死に顔が僕を叩き起こす。
でも、起きた所で海歌さんが居ない現実が待っているだけ。
そんなどちらも最悪な現状に、どうしていいか分からずベッドで悶えながら苦しんでいると、誰かが部屋に入ってきた。
「空太...もう着替えなさい。あと20分で出発するわよ」
喪服を着たお母さんは、優しい声で僕に時間を告げる。
「...うん」
ベッドから立ち上がり、クローゼットの中でハンガーにかかった高校の制服を取り出す。
そういえば、高校の制服を着るのは3回目だな。
1回目は、高校の入学式の日。
緊張とワクワクが半々で、教室に入ると意外と大丈夫で、調子に乗って隣の席の人に話しかけたりして、このまま楽しい高校生活が始まるんだなって嬉しくなった。
でも、1時間もしない内に体調が悪化して保健室で一日過ごした。
2回目は、入学式の事を引きずって一週間休んだ後。
それでも、学園生活を諦めきれなくて学校に向かったんだけど、途中で帰ってきちゃったんだよな。
それから、1年以上着ていなかった高校の制服を、葬式なんかで着ることになるなんて嫌だな。
制服は少しきつかったけど着れないほどではない。
最後にネクタイを付けようとすると、もうネクタイは結ばれていて、あとは付けるだけの輪っかの状態になっている。
中学は学ランだったので僕はネクタイの結び方を知らない。
高校の入学式の時はお父さんが結んでくれた。
だからきっと、またお父さんがやってくれたのだろう。
僕は、部屋を出てリビングで待っているお母さんに準備ができたことを報告した。
「そうだ、お父さんから預かってるんだった。はい、これ」
「うん...」
手渡されたものは一枚の紙だった。
そこには、焼香の仕方が手書きで説明されていた。
そして、最後に「頑張れ」と小さな文字で書かれていた。
僕は、それを読み終わるとポケットに大事にしまった。
「じゃあ、行こうね」
「うん」
自宅から車で斎場まで15分。
近くのコインパーキングに車を停めて、少し歩いて斎場に向かった。
その道中で『故 内野 海歌儀 葬儀式場』と書かれた看板を見つけた時には、心臓が痛くなって座り込んでしまった。
それでも、海歌さんの為だと自分に言い聞かせなんとか斎場に着くと、そこには百を超える人が居た。
半分近くは、大学生くらいの若者で海歌さんの友達なのだろう。
海歌さんはお見舞いを拒んでいたようなので知らなかったが、こんなに友達が居たんだな。
なんだが、その事実は嬉しくもあり悲しかった。
少し経つと皆ぞろぞろと会場に入って行った。
僕も後からついてお母さんに指示された椅子に座った。
そこからは、僧侶の読経や弔辞があったり、海歌さんの友達らしき人が泣いているのを結構見たけど、僕は泣けなかった。
死んだ事を受け入れたくなかった。
泣いてしまうと、死んだ事を認めた証になってしまう気がした。
葬式もだいぶ進み、この次にはお別れの儀が始まるみたいだ。
その時には、とうとう海歌さんの死に顔を見なければならない。
昨日お母さんと約束したが、どうしても嫌だった僕は「もう帰りたい」とお母さんに懇願した。
お母さんは「しょうがないわね」と言って僕たちは出口に向かう。
「空太君。来てくれたんだね」
後ろを振り向くとそこには、おじさんがいた。
「あ...はい」
「ありがとう」
その笑顔は、海歌さんのモノとそっくりだった。
自分が辛い状況なのに、他人のことを思って見せる笑顔。
僕の目から涙が出そうになった。
海歌さんがいつも見せてくれていた、あの笑顔を見れた事が嬉しかったのか。
もう見れないと思い知った事が悲しかったのか。
いや、多分その両方だろう。
海歌さんの性格は父親似なんだな。
僕は涙が出ないように顔を何度も叩いた。
「大丈夫かい!」
「はい。ありがとうございます。それでは、失礼します」
これ以上この場にいると泣いてしまいそうなので、その場から離れる事にした。
「あ、待って空太君。お別れの儀はいいのかい?」
「はい。すみません」
「顔だけでも見て行ったらどうだい?」
「いえ...」
「そうだね...今日はありがとう。気をつけて帰るんだよ」
「はい。失礼します」
僕は外に出たが、お母さんは中でおじさんと話をしているので少し待つ事にした。
すると、花火さんを見つけた。
僕は咄嗟に隠れて様子を伺うと、花火さんがメイクの上からでも目を腫らしているのがわかった。
こんな時には、会わない方が良いんだろうな。
僕は、絶対に見つからないように注意しながら、お母さんのところに向かった。
「帰ろう」
「そうね。今日は頑張ったね、空太」
僕は、帰りの車の中で花火さんの顔が浮かんで離れなかった。
そういえば、花火さんは一週間は病室に来ちゃダメと言った時には、もう海歌さんが死にそうなことを知っていたのかな。
それでも僕の前では明るく振舞っていたのかな。
そんな状況の時に、写真クラブの事なんか持ち出して、もっと辛い思いをさせたんじゃ無いのか。
悩みは尽きないが、今はそんな事どうでもいい。
海歌さんのいない世界の事なんて考えたくない。
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