Bittersweet Ender 【完】

えびねこ

文字の大きさ
125 / 138
願わくは

7.

しおりを挟む
 千晶は後ろに背後霊をしょったまま、パウダールームへもつれ込む。

「あー。もう」
「あははっ、アキと誠仁はああいう時だけ仲がいいよね」

 せっかくの衣装も酒まみれで、白地がほんのりイエローとピンクとピーチに染まっている。慎一郎は顔と頭がまだらに白く粉まみれだ。千晶の息子からのプレゼントは箱を開けると音楽が、中身を取り出したときにびっくりが発動する仕様だった。

「千晶ちゃん、一人じゃ脱げないでしょ、お兄さんが――」
「じいの手は必要ありません」

 ドレスは首のうしろから腰まで胡桃ボタンになっている。千晶は手探りでボタンを外して――いく。
 手伝う手が腰のコンシールファスナーに掛かると、千晶はその手を叩き払いのける。

「しっし」

 背後霊は離れたかと思うと屈んで、ドレスの裾に入り込んだ。千晶は足で払うが、ヒールはもう脱いでしまっているのでたいしたダメージは与えられない。
(どうしてくれようこの大きなぼっちゃま)
 スカートはシンプルなAライン、ペチコートの裾にパニエが施され形を保っている。その下で暖かいものがシルクのストッキングのシームを登ってくる。

「ねぇ、この衣装用意したの誰?」

 下着はビスチェにガーターベルトが付いたアレ。透けてはいない。あとはヒモパンにストッキングのみ。胸から上と、背中も半分レースのデザインなのでビスチェなのは仕方ない。下はドロワーズと靴下でいいんじゃないのか。
 
「今日だけだもん♪ふんふふーん」
「……他にもあるの?」
「ふふーん」

 慎一郎は千晶のくるぶしを軽く掴み、そのまま脛をすうぅっと撫で上げる。腿に、そして素肌にふれ、ショーツの紐に指を滑り込ませた。さらっと撫でると、手を引いてスカートの中ほどを上に持ち上げる。やわらかな吐息がストッキングのベルトをなぞり、はみ、紐を引いていく。

「なにしてんの」

 千晶は膝をぎゅっと閉じる。しかしむっちりとした肉の付いていない千晶は肝心なところに隙間が出来てしまう。
はだけたショーツの下を二点三点とくすぐったさが触れてくる、閉じた境ギリギリまで鼻先が忍び込み――。

「汗かいたのにやめて」
「んーん?」

 閉じた脚を膝ごと抱えるように固められ身動きがとれなくなる。酔っ払いのくせに力は強い。スンスンとわざと匂いを嗅ぐマネ…であってほしい、そして境に舌が入りこむ。
 
「やめっ、おすわり」

 千晶はスカートごと慎一郎の首のあたりを絞って抵抗する。
 盛りの付いた駄犬も舌先に力が入る。ぺちゃぺちゃと音を立て――千晶も身をよじりながら締め付ける。濡れたシルクタフタは非常に気密性が高い。犬、もとい、てるてる坊主の中身は暑さと息苦しさに、膝を掴んでいた腕を弛め、足をぽんぽんぽんと3回叩く。ギブ。

「……」

 千晶も多少は学習能力がある、すぐに緩めず、暫し間をおいてから開放した。

「ふっ はぁ~」

 慎一郎は手をついて座り込む。頭を軽くふり、深呼吸を三回。

「やば、飲み過ぎか…トドくんもふらふらだ」
「どんなでも藤堂くんは藤堂くんよ」

 それを聞いて、慎一郎はふっと照れくさそうに笑うと、隣の浴室へ這いずっていった。手を伸ばしてシャワーのコックを捻り、頭から無言で冷水を被る。顔の白が流れると、耳と首と同じ赤みのある顔が現れた。
 
(今度は滝行か……どうでもいいから早く出てってくれないかな)

 千晶は目を瞑った男を冷めた視線で眺める。ドレスを脱ぎ、パンツのひもは結び直した。

「ふふーん、頭が冴えてきた、元気が出てきたよ」
「どこが」

 千晶は赤味の引いてきた顔を見つめたまま、足を延ばして爪先で股間をつつく。20パーセントってとこか? ぐにぐにと軽くこねるとすこし質量が増す。
 さらにつついて――足をひっこめる。

「(洗濯してもらうから)さっさと脱いで」

 慎一郎はベルトに手を掛け、前を寛げた。千晶はシャツの合わせにつま先を潜りこませる。めくれたシャツの下も白、その下にブルーが透けている。パンツとステテコ越しのシルエットを下から上につつっと足の親指でなぞり上げる。白いシルクサテンにソフトフォーカスのかかった白肌が衣擦れの音を立てる。上数センチ分を残して横にちらちらと触れて、また下からなぞる。
 
 肌に張り付いていた白と水色に空間が出来、藤堂くんが50%になったあたりで千晶は足を引っ込めた。

 慎一郎は物足りなそうに千晶と千晶の足と自らの股間を見つめる。まるでおかわりを強請る犬か猫みたい。

 千晶はタイル張りの浴槽の縁に腰掛け、ボディブラシを手に取り毛先を確かめる。やわらかめ。持ち替えて長枝の先で藤堂くんをつつき、ヒモを掛けようとしてみたり。70%くらいになったところでまた、やめた。
 慎一郎は千晶の顔を見上げ、少し首を傾げる。

「ご褒美は? さっきくれなかったよね」

(はぁ?)真顔で抑揚なく放たれた言葉は冗談にも本気にも聞こえる。そもそも慎一郎にとってのご褒美とは何なのか。千晶は頭によぎった想像――に粉を振りまき、火を付けて爆発させた。 

「見ててあげる、」

 千晶は足を組み替え、そして優しく微笑んだ。甘やかすとつけあがるだけの男にご褒美は不要だ。
 慎一郎はもう一度自らの股間に視線を落とし、また、千晶の顔を見上げた。どうしたらいい、そんな顔だ。

誠仁まあちゃんに来てもらう? あの人ほんとは見られたい願望があるみたいだし、仲良し二人で新しい世界を開拓するのもいいんじゃないかしら。それともルームメイトの――」

 慎一郎は力強く首を横に振る。千晶も慎一郎の苦手なことは分かっている。というか、千晶だって男同士の絡みは見たくもないのだが、そこは気取られないよういたずらに微笑む。
 
「ふふっ」

 千晶は思わせぶりに舌で上唇をすーっと舐めてみせる。何をどうしろ、とは言っていないし、うまくできたらご褒美あげる(はーと)とも言っていない。
 戸惑った様子の慎一郎に千晶は顎をしゃくって促す。

 見られることは平気な慎一郎も男としての自尊心は高い、一人で慰めるなど屈辱だろう。

 そんなことできるかって引っ込めて、立ち上がってじゃれてきたら蹴り上げて――と適当に考える千晶の目の前で、慎一郎はパンツを下げて藤堂くんを取り出し、よしよしと軽く撫でてから、千晶に向かって頭をさげさせた。ハーイ。

(えええぇ、やっぱり間違ったわ、何もかも)

 ああ、もう、っどうしてこうなるのか、千晶は目の前が真っ白に――なってほしかった。千晶は残念ながらおひとりさまの行為を見て愉しむ趣味はない、覗くのも遠慮したいほう。――当然、目の前の男がそのことに気づいていない訳がない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

処理中です...