王子様と乳しぼり!!婚約破棄された転生姫君は隣国の王太子と酪農業を興して国の再建に努めます

黄札

文字の大きさ
36 / 66

36話 夫婦の時間

 寝室まで、ソフィアたちは手をつないで歩いた。腕を組んで歩くより、ソフィアはこっちのほうが好きだ。リヒャルトの大きな手の感触を楽しみたい。硬い骨やボコボコした血管を指でなぞるのが好き。力をギュッと入れられたり、緩められたり、モミモミされるのもいい。
 甘い時間はあっという間で、部屋について二人きりになったら、少々刺激的になる。ルツや他の侍女には下がってもらった。

 リヒャルトはまたソフィアを抱き上げ、今度はベッドまで運んだ。そして、ぎこちない手つきで服を脱がし始めたのである。風邪による消耗が激しくソフィアの手足は弛緩していたのだが、さすがに抵抗した。

「やっ!……リヒャルト様、突然なにをなさるの!?」
「なにって、君の服を脱がしているのだが?」
「脱がして、なにをなさるの?」
「そんなの決まっているじゃないか」

 ふた月の留守は若い夫に忍耐を強いていたようだった。いったんタガが外れると、欲情というのは簡単にあふれ出るものらしい。弱弱しく抵抗するソフィアの手をはねのけ、リヒャルトは留め具を外し続ける。体がダルいことと、長期間留守にしたという後ろめたさも相乗効果となって、ソフィアは抵抗をあきらめた。

(どうぞ、好きになさって。それはあなたの当然の権利よ)

 たちまちドレスは脱がされ、ソフィアはコルセットとパニエ、ガーター姿になった。小金虫のような甲虫から、身を守る硬い羽をとったらどうなるか? カマキリやオサムシといった肉食昆虫の餌食になるだろう。今まさに、ソフィアはそういう状態だった。

「恥ずかしいです……ひどいひと……」

 羽を剥がれた甲虫は弱い。ソフィアは手足で抵抗する代わりに、ポロポロ涙を流した。それを見たリヒャルトは動揺した。

「ちっ、ちがうんだ、ソフィア!! 私はただ、君の具合が悪いので着替えさせてあげたかっただけなんだ!!」

 着替えは侍女にさせればいいではないかと、ソフィアは白い目を向ける。リヒャルトは赤面し、下唇を小刻みに上下させていた。視点もあちこち動き回っているし、隠していたエロ本が母親に見つかって、挙動不審になる中学生の動きである。どもり、たどたどしく下手な言いわけをするリヒャルトが滑稽に思えてきて、ソフィアはついクスッと笑ってしまった。

「あっ、笑ったな? さてはウソ泣きか?」
「ウソ泣きなんて器用なことはできません。本当に恥ずかしくて、涙が出たの。こんな情けない格好にされてしまって」
「う……見るぐらい、いいだろう。私は君の夫なのだし……」
「ふた月も我慢したんだ……っておっしゃるんでしょう?」

 次に出る言葉を言い当てられ、リヒャルトは黙った。しかし、気を取り直して、コルセットの紐を解き始める。がんとして決行するつもりのようだ。ガーターは外されてしまった。ソフィアは素足を見られるのも初めてである。
 
 リヒャルトの美々しい顔は真剣そのもので、心臓手術中の外科医(かつてドキュメンタリー番組で見た)を思わせるほど、気迫がこもっていた。女性の裸を見たいのが丸わかりの下卑た表情だったら、ソフィアも怒って拒絶しただろう。だが、ハイパーイケメンの鬼気迫る表情というのは、惹きつけられる。自分の置かれた状況を忘れて、ソフィアはつい見入ってしまった。

(でも、人の命を預かって切開後の縫合をしているわけじゃないのよね。彼が手に持っているのはわたくしのコルセットの紐であって、それを至極真面目な顔で解いているだけなのよ。ただ、懸命に女の下着を脱がそうとしているだけ……あっ!!)

 気づいた時にはもう遅い。ソフィアはスルッとコルセットを脱がされてしまった。下着の下は素肌だ。なにも、つけていない。大慌てで覆い隠そうとするソフィアの腕を、リヒャルトはガッシと押さえつけた。

 リヒャルトは目を見開いてソフィアの上半身を凝視した。若干、血走った目で、それこそガン見である。ソフィアのほうは恥ずかしいというより、凄まじい緊迫感に圧倒された。リヒャルトの表情は、病変の映ったレントゲンを確認する医師のそれだ。ソフィアは、浮き沈みを繰り返す自分の首から下の丘を見ているしかなかった。
 時間にして十秒ほど、リヒャルトはようやくソフィアを開放した。

「目に焼き付けた。さ、ソフィア、ネグリジェを着せてあげるよ」
「リヒャルト様、殴っていいですか?」

 元気だったら、間違いなくビンタしていただろう。目に焼き付けた……とは?? ソフィアは緊迫感に騙されたことを後悔した。あとから恥ずかしくなってくる。

 リヒャルトはソフィアを着替えさせ終わると、自分も脱ぎ始めた。この世界の男性の衣服は格好いいのだが、下着姿は間の抜けた感じである。丈の短いキュロットと呼ばれる半ズボンの下は下着で、それに長靴下をつけている。その長靴下も取ってしまうと、ゆったりめのブラウスにパンツ姿。ワイシャツにトランクスみたいなスタイルになる。
 そのダサい格好でリヒャルトはベッドにもぐりこんできた。

「くっつかないで。風邪がうつりますよ?」
「うつっても構わない。気にせず、君にくっつけるだろう?」
「どっちみち、気にしないじゃないですか?」

 筋肉質な腕に引き寄せられ、ソフィアは抱きすくめられる。
 リヒャルトの匂いが鼻腔をいっぱいにして、ソフィアの気持ちを落ち着かせた。この爽やかな香りに心を乱したのが、ずいぶんまえのことに思える。ソフィアは脱力し、リヒャルトにその身を任せた。

 ドッドッドッド……荒々しい拍動音が聞こえたかと思うと、文字通り目と鼻の先にリヒャルトの顔があったり、大きな手で髪を撫でられる感触や、リヒャルトの熱い呼気……ソフィアはウトウトしつつ、愛しい気配を常に感じていた。熟睡できないのは幸せであり、このまどろみが永遠に終わらなければいいのにと思った。

 うっかり深い眠りに入ってしまったのは、どれぐらい経ってからだろう。目覚めた時、ソフィアは汗だくだった。身体のダルさはなくなっている。熱は下がったのか。
 口を半開きにし、緩んだ寝顔のリヒャルトがこちらを向いていた。まったくの無防備だ。ピッタリふさがれた銀のまつげを心の指でなぞり、やや乾き気味の唇に触れたいのをこらえる。濡れた下着が体温を奪い、ソフィアはブルブルッと身震いした。

(もっと見ていたいけど、風邪がぶり返しちゃう)

 着替えはチェストの中に入っている。ソフィアは音を立てないように取り出し、着替え始めた。

 熟睡するハイパーイケメン夫を眺めながら、裸になるのは結構スリルがある。背徳感のあるエロスは血の巡りを良くした。新しい部屋着に替え、ローブを羽織ったころにはすっかり、ソフィアの風邪は完治していた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい…… ◆◆◆◆◆◆◆◆ 作品の転載(スクショ含む)を禁止します。 無断の利用は商用、非営利目的を含め利用を禁止します。 作品の加工・再配布・二次創作を禁止します 問い合わせはプロフィールからTwitterのアカウントにDMをお願いします ◆◆◆◆◆◆◆◆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません

綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」 婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。 だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。 伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。 彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。 婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。 彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。 真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。 事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。 しかし、リラは知らない。 アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。 そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。 彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。 王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。 捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。 宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――? ※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。 物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。