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32.完成
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そして聖鐘祭の三日前、ドレスが完成したので試着させてもらうことになったのだが。
「こ、このドレス、本当にクラリス様が作ったんですか……?」
「はい! レイス様から道具を色々ともらえたので、作りやすかったです!」
ハンガーラックに掛けられているのは、想像していた百倍豪華なドレスだった。
背中や胸元の露出を避けたデザインで、クラリスが私に似合うと言っていた寒色系──青色の生地が使われている。しかも青一色ではなく、上から下へ少しずつ色が薄くなっていくグラデーション仕様。
そして胸の中心に施された刺繍細工がとにかく精巧なのだ。金と銀の二種類の糸から生まれた大小大きさの違う薔薇の花が実に見事。
裾のレース部分も薔薇の模様になっているこだわりよう。シンプルな黒いドレスグローブが気品を醸し出す。
「クラリス様、あなた一人でこんなものを……?」
「すごい。これだけ凝ったデザインのドレスは中々お目にかかれませんよ」
一緒にいたアントワネットとメロディも、クラリスの意外な才能に驚いている。
まさか、ここまで豪華に仕上げるとは思わず、背中にじっとりとした汗が浮かぶ。このドレスを着て、汚してしまったら申し訳なくて合わせる顔がない。
「これを着て、パーティーを楽しんできてくださいね、リグレット様!」
いや、怖じ気づくな。せっかくクラリスが目の下に隈まで作って、一生懸命ドレスを作ってくれたのだ。彼女の思いに応えなければ。
この戦闘服を着て、いざ行かん戦場へ。
聖鐘祭は一日目の夕方から開催される。
身支度を済ませて待機していると、
「お迎えに上がりましたよ、リグレット様」
いつものように転移魔法を使ってレイスがやって来た。
今日の彼は黒を貴重とした正装で、普段よりも近寄りがたい雰囲気を漂わせている。
「……何だか、違う方みたいです」
「安心してください、僕は僕ですよ」
素直に感想を述べると、苦笑気味に手を握られる。
「ですが、あなたも随分と雰囲気が変わりましたね。最初は驚きました」
「……同感です」
ドレスだけでなく、化粧や髪型のセットも皆にやってもらったのだ。何で修道院に化粧道具が? と思っていると、それらもレイスにこっそり頼んでいたらしい。
おかげで平々凡々な修道女は、どこに出しても恥ずかしくない立派な淑女に大変身していた。多分。
化粧や髪型については使用人ではなく、自分でやっていた子が何人かいたのだ。どうせ汗だくになるからとファンデーションとリップクリームで化粧を済ませ、髪も後ろで結うだけにしていた私とは違う。
「とても綺麗ですよ。それに修道女たちの優しさを感じる」
「優しさ?」
「信仰という本来の目的ではなく、懲罰として修道女となった女性は自らの人生に悲観し、どこか閉塞的になるものです。特にこのナヴィア修道院はそのような傾向が強かったと聞きます。そんな彼女たちがあなたを輝かせたいと願い、動いた。リグレット様、あなたは彼女たちの心に大きな変化をもたらしたんです」
そうなのだろうか。確かに以前より皆表情が柔らかくなった気はするが、それは食事情が改善されて、アデーレたちがいなくなったおかげのような。
レイスは私の疑問を見透かしたように、
「あなたは何もしていないと思っているでしょうけれど、重要なのはあなたがここにいることなんです。世の中には存在そのものが周囲の人間を勇気づけて、明るくさせる不思議な人間もいます。リグレット様はそういうタイプなんですよ」
「……そういうものなんですかね」
「そういうものです。……では行きましょうか」
レイスの瞳が一瞬だけ紫色に光る。
目の前にある青年の顔が大きく歪み、浮遊感に包み込まれるような感覚がした。
「着きましたよ」
その声の直後、ぐんにゃりしていた視界が正常に戻る。初めての転移魔法体験は僅か十秒ほどで終わった。
で、レイスの背後にご立派な城が聳え立っていた。
「こ、このドレス、本当にクラリス様が作ったんですか……?」
「はい! レイス様から道具を色々ともらえたので、作りやすかったです!」
ハンガーラックに掛けられているのは、想像していた百倍豪華なドレスだった。
背中や胸元の露出を避けたデザインで、クラリスが私に似合うと言っていた寒色系──青色の生地が使われている。しかも青一色ではなく、上から下へ少しずつ色が薄くなっていくグラデーション仕様。
そして胸の中心に施された刺繍細工がとにかく精巧なのだ。金と銀の二種類の糸から生まれた大小大きさの違う薔薇の花が実に見事。
裾のレース部分も薔薇の模様になっているこだわりよう。シンプルな黒いドレスグローブが気品を醸し出す。
「クラリス様、あなた一人でこんなものを……?」
「すごい。これだけ凝ったデザインのドレスは中々お目にかかれませんよ」
一緒にいたアントワネットとメロディも、クラリスの意外な才能に驚いている。
まさか、ここまで豪華に仕上げるとは思わず、背中にじっとりとした汗が浮かぶ。このドレスを着て、汚してしまったら申し訳なくて合わせる顔がない。
「これを着て、パーティーを楽しんできてくださいね、リグレット様!」
いや、怖じ気づくな。せっかくクラリスが目の下に隈まで作って、一生懸命ドレスを作ってくれたのだ。彼女の思いに応えなければ。
この戦闘服を着て、いざ行かん戦場へ。
聖鐘祭は一日目の夕方から開催される。
身支度を済ませて待機していると、
「お迎えに上がりましたよ、リグレット様」
いつものように転移魔法を使ってレイスがやって来た。
今日の彼は黒を貴重とした正装で、普段よりも近寄りがたい雰囲気を漂わせている。
「……何だか、違う方みたいです」
「安心してください、僕は僕ですよ」
素直に感想を述べると、苦笑気味に手を握られる。
「ですが、あなたも随分と雰囲気が変わりましたね。最初は驚きました」
「……同感です」
ドレスだけでなく、化粧や髪型のセットも皆にやってもらったのだ。何で修道院に化粧道具が? と思っていると、それらもレイスにこっそり頼んでいたらしい。
おかげで平々凡々な修道女は、どこに出しても恥ずかしくない立派な淑女に大変身していた。多分。
化粧や髪型については使用人ではなく、自分でやっていた子が何人かいたのだ。どうせ汗だくになるからとファンデーションとリップクリームで化粧を済ませ、髪も後ろで結うだけにしていた私とは違う。
「とても綺麗ですよ。それに修道女たちの優しさを感じる」
「優しさ?」
「信仰という本来の目的ではなく、懲罰として修道女となった女性は自らの人生に悲観し、どこか閉塞的になるものです。特にこのナヴィア修道院はそのような傾向が強かったと聞きます。そんな彼女たちがあなたを輝かせたいと願い、動いた。リグレット様、あなたは彼女たちの心に大きな変化をもたらしたんです」
そうなのだろうか。確かに以前より皆表情が柔らかくなった気はするが、それは食事情が改善されて、アデーレたちがいなくなったおかげのような。
レイスは私の疑問を見透かしたように、
「あなたは何もしていないと思っているでしょうけれど、重要なのはあなたがここにいることなんです。世の中には存在そのものが周囲の人間を勇気づけて、明るくさせる不思議な人間もいます。リグレット様はそういうタイプなんですよ」
「……そういうものなんですかね」
「そういうものです。……では行きましょうか」
レイスの瞳が一瞬だけ紫色に光る。
目の前にある青年の顔が大きく歪み、浮遊感に包み込まれるような感覚がした。
「着きましたよ」
その声の直後、ぐんにゃりしていた視界が正常に戻る。初めての転移魔法体験は僅か十秒ほどで終わった。
で、レイスの背後にご立派な城が聳え立っていた。
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