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39.奪取
「ええと……ちなみにどうしてレイス様のベルが欲しいんですか?」
「そんなのレイス様を慕っているからに決まっているじゃないですか……」
ゆっくりと顔を上げながら少女が答えた。その頬はほんのり赤く染まっていた。それはそうか、といらない質問をしてしまったと苦笑する。
本当に聞かなければいけないのは、他にある。
「ベルが欲しいのであれば、レイス様に直接お願いすればいいでしょう? レイス様ともお話できるチャンスですよ?」
「それはもう何度もお願いしました。でも『君に渡せるものは何もありません』って断られてしまって……」
「え? レイス様はあなたにベルを渡すのを嫌がったんですか? でしたら、私も渡せません」
「ど、どうしてですか!? だってリグレット様はレイス様の恋人でも婚約者でもないんですよね!?」
「私がレイス様の何であるかは関係ないです。それに彼の友人として、彼の意に背くことはしたくありませんから」
レイスに特別な感情は抱いていないけれど、友人兼恩人だとは思っているのだ。彼が嫌がることはしたくない。
きっぱりと断ると、少女は私に掴みかかってきた。
「ギャッ! ちょ……何をするんですか!?」
「いいから渡して! レイス様のベルは、レイス様を誰よりも愛している私がもらうべきなんです! たとえ振り向いてもらえないとしても、あの方の魔力から生まれたベルが手に入れば、それだけで幸せだから!」
私のドレスを調べる少女の目は血走っていた。
卒業式で第二ボタンを狙われる男子生徒にでもなった気分だ。
現実逃避でそんなことを考えていると、
「おや、随分と騒がしいと思えば……リグレット嬢に何かご用ですか?」
ちょうどレイスが戻ってきてくれた。
が、声に険が混じっている。珍しく苛立っているようだ。
少女もそのことに気づいて、慌てて私から離れる。……何かを握り締めた状態で。
それを見てスカート部分のポケットを探ると、そこに入れていたものがなくなっていた。
「ベ、ベル! 返してください!」
「……っ!」
私がそう叫ぶも、少女はこちらをきっと睨みつけてから走り出してしまった。
おいおい! と追いかけようとする私を制したのはレイスだった。
「大丈夫、僕が取り返しますから」
直後、レイスの体が彼自身の影へと沈み込む。
そしてホールから出ようとした少女の影から現れて、彼女の腕を掴んだ。
「きゃあっ!」
握っていた手が開いて、その中に閉じ込められていたベルが床に落ちた。
カラン、と涼しげな音がホール内に響き渡り、参加者たちが一斉に彼女とレイスに視線を向ける。
けれど彼女にとっては周囲の視線などどうでもいいのか、ベルを拾おうと手を伸ばす。
その前にレイスに拾い上げられてしまったが。
「これはリグレット嬢に渡したものなんです。あなたのものではない」
「だ、だって、レイス様が私にベルをくださらないから……」
「だからと言って、他人から奪っていい理由にはなりません。……あなたの想いを受け入れない僕にも非はあるでしょうけれど」
「私……私悪くないですから! ただレイス様を愛しているだけなのに!」
と捨て台詞を吐いて今度こそホールから出て行く少女を、全員がぽかんとした表情で眺めていた。
リグレットの姉ズよりもインパクトがすごかったな、とある種の感動を覚えている私に、レイスがベルを差し出しした。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。……大変な方でしたね」
「彼女はうちとは違う公爵家のご令嬢なんですけれどね。僕に一目惚れして以来、ずっとあんな調子なんです」
そう語るレイスの横顔は疲れているように見えて、彼の苦労が窺い知れる。
これで彼女が諦めてくれることを願っていると、視界にピンク色が移り込んだ。
「ん……?」
リーゼが壁に寄りかかったままの騎士団長に話しかけている。
テオドールとのフラグ立てに失敗した……?
「そんなのレイス様を慕っているからに決まっているじゃないですか……」
ゆっくりと顔を上げながら少女が答えた。その頬はほんのり赤く染まっていた。それはそうか、といらない質問をしてしまったと苦笑する。
本当に聞かなければいけないのは、他にある。
「ベルが欲しいのであれば、レイス様に直接お願いすればいいでしょう? レイス様ともお話できるチャンスですよ?」
「それはもう何度もお願いしました。でも『君に渡せるものは何もありません』って断られてしまって……」
「え? レイス様はあなたにベルを渡すのを嫌がったんですか? でしたら、私も渡せません」
「ど、どうしてですか!? だってリグレット様はレイス様の恋人でも婚約者でもないんですよね!?」
「私がレイス様の何であるかは関係ないです。それに彼の友人として、彼の意に背くことはしたくありませんから」
レイスに特別な感情は抱いていないけれど、友人兼恩人だとは思っているのだ。彼が嫌がることはしたくない。
きっぱりと断ると、少女は私に掴みかかってきた。
「ギャッ! ちょ……何をするんですか!?」
「いいから渡して! レイス様のベルは、レイス様を誰よりも愛している私がもらうべきなんです! たとえ振り向いてもらえないとしても、あの方の魔力から生まれたベルが手に入れば、それだけで幸せだから!」
私のドレスを調べる少女の目は血走っていた。
卒業式で第二ボタンを狙われる男子生徒にでもなった気分だ。
現実逃避でそんなことを考えていると、
「おや、随分と騒がしいと思えば……リグレット嬢に何かご用ですか?」
ちょうどレイスが戻ってきてくれた。
が、声に険が混じっている。珍しく苛立っているようだ。
少女もそのことに気づいて、慌てて私から離れる。……何かを握り締めた状態で。
それを見てスカート部分のポケットを探ると、そこに入れていたものがなくなっていた。
「ベ、ベル! 返してください!」
「……っ!」
私がそう叫ぶも、少女はこちらをきっと睨みつけてから走り出してしまった。
おいおい! と追いかけようとする私を制したのはレイスだった。
「大丈夫、僕が取り返しますから」
直後、レイスの体が彼自身の影へと沈み込む。
そしてホールから出ようとした少女の影から現れて、彼女の腕を掴んだ。
「きゃあっ!」
握っていた手が開いて、その中に閉じ込められていたベルが床に落ちた。
カラン、と涼しげな音がホール内に響き渡り、参加者たちが一斉に彼女とレイスに視線を向ける。
けれど彼女にとっては周囲の視線などどうでもいいのか、ベルを拾おうと手を伸ばす。
その前にレイスに拾い上げられてしまったが。
「これはリグレット嬢に渡したものなんです。あなたのものではない」
「だ、だって、レイス様が私にベルをくださらないから……」
「だからと言って、他人から奪っていい理由にはなりません。……あなたの想いを受け入れない僕にも非はあるでしょうけれど」
「私……私悪くないですから! ただレイス様を愛しているだけなのに!」
と捨て台詞を吐いて今度こそホールから出て行く少女を、全員がぽかんとした表情で眺めていた。
リグレットの姉ズよりもインパクトがすごかったな、とある種の感動を覚えている私に、レイスがベルを差し出しした。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。……大変な方でしたね」
「彼女はうちとは違う公爵家のご令嬢なんですけれどね。僕に一目惚れして以来、ずっとあんな調子なんです」
そう語るレイスの横顔は疲れているように見えて、彼の苦労が窺い知れる。
これで彼女が諦めてくれることを願っていると、視界にピンク色が移り込んだ。
「ん……?」
リーゼが壁に寄りかかったままの騎士団長に話しかけている。
テオドールとのフラグ立てに失敗した……?
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