私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。

火野村志紀

文字の大きさ
13 / 33

13.セレスタン④

しおりを挟む
「どういうことだ?」

 屋敷に帰った俺は早速ラナン家に正式な抗議をするために、両親に相談したのだが……。

「だからね? アンリエッタさんのことはもう……諦めたほうがいいんじゃないかしら」
「諦められるわけないだろう!」

 あんなにアンリエッタを心配していた母さんが、そんなことを言うなんて信じられなかった。
 すると父さんまでこんなことを言い出した。

「真偽はどうあれ、ラナン家がアンリエッタさんを保護しているというんだろう? であれば、彼女は無事なんだ。不要な騒ぎを起こすべきではないと思う」
「不要な騒ぎ? どこがだ!」

 アンリエッタがシャーラに捕まり、奴隷のような扱いを受けていると判明したのだ。それにシャーラ本人が連れ去ったと自白しているのだから、いかに神官長であろうと罪に問うことができる。
 なのにどうして及び腰になっているのかと、俺は苛立ちを発散させるようにテーブルを乱暴に叩いた。
 そんな俺に母さんと父さんは顔を見合わせて、愛想笑いを浮かべて俺を説得しようと試みる。

「だってもしかしたら、アンリエッタさんにとってはそのほうが幸せかもしれないじゃない」
「幸せって……シャーラにこき使われている生活が? そこに俺はいないじゃないか」
「いいか、セレスタン。少し考えてみろ。シャーラ様は自分からアンリエッタさんを傍に置いていると明かしたんだ。つまりきっかけはどうあれ、アンリエッタさんは現状に満足していて、我が家に戻る意思を見せていないんじゃないのか?」
「そんなわけがあるわけない! アンリエッタの家族は俺たちなんだぞ!」

 アンリエッタは子供を産めないことを、他の嵐の神の神官たちに認めてもらえないことを悩んでいた。
 そんな彼女を優しく包み込む役目を持っているのは俺たちだけでいい。あんな女にアンリエッタを任せられない。

「……母さんたちはラナン家と揉めることを避けようとしているな? ソール家を守るために、アンリエッタを犠牲にしようと……」
「そ、そんなことはないわ! ただ下手に私たちが動くと、アンリエッタさんが向こうでどんな目に遭うか……」
「もういい!」

 俺の両親がこんなに薄情だったなんて!
 広間を出ると、俺は自分の部屋に引き籠もった。

 ああ、アンリエッタ……。
 彼女の着ていたドレスも、いつも読んでいた本もそのままにしてある。いつか彼女が戻って来た時のために。



 ラナン家は自宅だけではなく、国内にいくつも別荘を構えているらしい。アンリエッタが捕まっているとしたらこの別荘のどこかだろうが、場所が特定できない。
 火の神の神殿に行ってシャーラに会わせろと訴えたが、すぐに追い出されてしまった。
 エレナの店にも来なくなったようで、シャーラに会う手段がない。

 本当はこんなことをしている場合ではないのに、俺は嵐の神の神殿の床をほうきで掃きながら溜め息をつく。
 火の神の神殿から俺に対する苦情が来たようで、懲罰として床掃除をさせられていた。こんなこと、男がする仕事じゃないだろうに。
 それに悪いのは明らかにシャーラだ。神官長だからといって好き勝手させていいのかと、この世の理不尽さを恨んでいると、

「セレスタン様……奥様にどうしても会いたいのですか?」

 一人の女が俺に声をかけてきた。
 見知らぬ金髪の若い女だ。俺が眉を顰めていると、女は恭しく頭を下げた。

「初めまして。私は雨の神の神官であるカロリーヌと申します」
「雨の……」

 雨の神は水の神の配下であり、神格がそこそこ高い神だ。そして嵐の神との繋がりも深いとされる。なので嵐の神の神殿に出入りすることは、何もおかしくないが……。

「私、実は知っているんです」
「何をだ?」
「セレスタン様の奥様が今、どこにいるかをです」
「それなら俺も知っている。ラナン家の所有するどこかの別荘だと……」
「ですから、その別荘の場所を」
「!」

 瞠目する俺に、カロリーヌはやや躊躇いがちに問いかけた。

「……奥様にお会いしたいですか?」

 俺は無言で力強く頷いた。




しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

旦那様から彼女が身籠る間の妻でいて欲しいと言われたのでそうします。

クロユキ
恋愛
「君には悪いけど、彼女が身籠る間の妻でいて欲しい」 平民育ちのセリーヌは母親と二人で住んでいた。 セリーヌは、毎日花売りをしていた…そんなセリーヌの前に毎日花を買う一人の貴族の男性がセリーヌに求婚した。 結婚後の初夜には夫は部屋には来なかった…屋敷内に夫はいるがセリーヌは会えないまま数日が経っていた。 夫から呼び出されたセリーヌは式を上げて久しぶりに夫の顔を見たが隣には知らない女性が一緒にいた。 セリーヌは、この時初めて夫から聞かされた。 夫には愛人がいた。 愛人が身籠ればセリーヌは離婚を言い渡される… 誤字脱字があります。更新が不定期ですが読んで貰えましたら嬉しいです。 よろしくお願いします。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

処理中です...