私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。

火野村志紀

文字の大きさ
31 / 33

31.ソール家③

「たい、ほ?」

 どうして。
 確かに酒場で酔って問題を起こしたこともるけれど、どの件も既に解決している。私には全く心当たりがなかった。
 呆然する私に一瞬同情の眼差しを向けてから、他の警官が口を開く。

「あなたは二年ほど前に、違法薬物を販売して逮捕された薬師の事件を知っていますか?」
「え、ええ……」

 セレスタンがカロリーヌと再婚する少し前だったと思う。
 確か非合法の避妊薬だったか。効き目が強い分、体への負担が大きく薬害患者が続出していたという。
 そんなものに手を出すからだと、当時私は笑いながら夫にそう話していた……。

「常習的に避妊薬を買っていた顧客のリストが、薬師の店の床下から発見されましてね。その中に息子さんの名前があったんです。……この国では、違法薬物を購入した側も罪に問われるんですよ」
「そんな……な、何かの間違いじゃないんですか!? うちのセレスタンがそんなものを買うはずがありません!」
「確かに顧客は複数の愛人を持つ者や、娼館の経営者ばかりで、息子さんはそのどちらにも当てはまりません。ですがリストには、彼の直筆のサインも残されています。息子さんが薬を何度も購入していたのは事実です」

 はっきりと告げられて、ショックで目眩を起こす。
 セレスタンが避妊薬を? 一体何の目的で……。そう考えようとした時、一人の娘が脳裏に浮かんだ。

 ……アンリエッタ。

「やめろ、離せ! 俺はお前たちの主人だぞ……!」

 その声に驚いて振り向くと、使用人たちによって強引に部屋から引きずり出されたセレスタンの姿があった。

「黙れ! たまに部屋から出たかと思えば、理由もなく俺たちに怒鳴り散らしやがって!」
「そうよ! あんたなんて私たちの主人でも何でもないわ! とっとと逮捕されなさいよ!」

 使用人たちに罵られながら、警官たちへと突き飛ばされる。真っ赤な顔を悔しげに歪ませる息子に、私は震える声で尋ねた。

「セレスタン……あなた、アンリエッタさんに避妊薬を飲ませたの?」
「………………」
「答えて……答えなさい、セレスタン!」
「……そうしないとアンリエッタに子供ができてしまうと思った」

 気まずそうに私から視線を逸らしながら、セレスタンは答えた。

「な、なん……で、何でそんなことをしたのよぉ!!」

 セレスタンの体を大きく揺さぶりながら問いただす。
 きっとアンリエッタが衰弱していたのは、薬の影響もあったのだろう。あんなにアンリエッタを愛していたはずなのに、どうして法を冒してまで。

 するとセレスタンは目つきを鋭くして、私を突き飛ばした。

「子供ができたら、アンリエッタを取られるからに決まっているじゃないか!」
「な、何を言って……」
「母さんも父さんもいつも言っていただろう。『早く子供を作りなさい』と……だが俺は嫌だった。アンリエッタが妻ではなく母親になれば、俺だけじゃなくて産まれた子供にも愛情を注ぐようになる。だからいっそのこと、妊娠できない体になってしまえばと思ったんだ」
「そんなことをしたら、跡継ぎがいなくなるじゃない!」
「そんなの俺には関係ない! 俺はただ愛する人と幸せになりたかっただけなんだ! 薬師が捕まって避妊薬が買えなくなって、カロリーヌを妊娠させて結局産ませてしまった時は、流石に諦めることにしたが……」

 セレスタンが言葉を終えるより先に体が勝手に動き、我が子の頬に平手打ちをしていた。
 そして警官たちを向くと、私は頭を下げた。

「お願いします。この馬鹿息子を逮捕してください。そして一緒牢屋に閉じ込めてください……」
「母さん!? 息子を見捨てるのか!?」
「黙りなさい! あんたのせいでソール家はおしまいよ……」
「母さんや父さんだってアンリエッタを虐めていたくせに偉そうに言うな! 使用人たちから全部聞いて……離せ! 俺を逮捕するなら、両親も捕まえてくれ! あいつらが俺の妻をボロボロにしたんだ……!」

 警官たちによって屋敷の外に連れ出される息子。その姿を見届けたあと、私は脱力してその場で座り込んだ。

 過去に戻って、全てをやり直したい。
 花の神の神官だからという偏見を捨てて、アンリエッタを迎え入れて。セレスタンの歪んだ愛情に気づいて対処していれば、こんなことにならなかったのに……。
感想 182

あなたにおすすめの小説

妹の方がかわいいからと婚約破棄されましたが、あとで後悔しても知りませんよ?

志鷹 志紀
恋愛
「すまない、キミのことを愛することができなくなった」  第二王子は私を謁見の間に連れてきて、そう告げた。 「つまり、婚約破棄ということですね。一応、理由を聞いてもよろしいですか?」 「キミの妹こそが、僕の運命の相手だったんだよ」 「そうですわ、お姉様」  王子は私の妹を抱き、嫌な笑みを浮かべている。 「ええ、私は構いませんけれど……あとで後悔しても知りませんよ?」  私だけが知っている妹の秘密。  それを知らずに、妹に恋をするなんて……愚かな人ですね。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

ただ誰かにとって必要な存在になりたかった

風見ゆうみ
恋愛
19歳になった伯爵令嬢の私、ラノア・ナンルーは同じく伯爵家の当主ビューホ・トライトと結婚した。 その日の夜、ビューホ様はこう言った。 「俺には小さい頃から思い合っている平民のフィナという人がいる。俺とフィナの間に君が入る隙はない。彼女の事は母上も気に入っているんだ。だから君はお飾りの妻だ。特に何もしなくていい。それから、フィナを君の侍女にするから」 家族に疎まれて育った私には、酷い仕打ちを受けるのは当たり前になりすぎていて、どう反応する事が正しいのかわからなかった。 結婚した初日から私は自分が望んでいた様な妻ではなく、お飾りの妻になった。 お飾りの妻でいい。 私を必要としてくれるなら…。 一度はそう思った私だったけれど、とあるきっかけで、公爵令息と知り合う事になり、状況は一変! こんな人に必要とされても意味がないと感じた私は離縁を決意する。 ※「ただ誰かに必要とされたかった」から、タイトルを変更致しました。 ※クズが多いです。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」 伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。 3年後。 父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。 ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。 「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」 「え……?」 国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。 忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。 しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。 「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」 「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」 やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……  ◇ ◇ ◇ 完結いたしました!ありがとうございました! 誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――