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26.さようなら
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マーロア公爵夫婦がリネオ様を置いて夜逃げしたという話は聞いていました。
家を出て行く数日前から、「あいつと暮らしていたら、更に人生を狂わされる」と公爵は言い触らしていたようです。
リネオ様がああなってしまったのは、教育不足の一言に尽きます。その責任を放棄して息子を見捨てるのはどうかと思いますが、既に手の施しようがないと判断したのかもしれません。
そんなリネオ様に救いの手を差し伸べたのも、同類のお嬢様だったわけですが。
ですが相手が平民になっても婚約破棄しなかったのは、本物の愛というべきかもしれませんね。
「平民と結婚するわけにはいかないって、お父様が婚約をなかったことにしてしまいましたけど……私、リネオ様ならやり直せると信じてますから!」
「え……婚約破棄をして、それでもリネオ様はお屋敷に……?」
「はい!」
愛人。以前、私を大いに苦しめた単語が脳裏をよぎりました。
いよいよ頭が痛くなってきて溜め息をついていると、勝ち誇った表情でエヴァリア様がこう仰います。
「大好きな人と一緒に暮らせるのってとっても幸せなことなんですよ、ラピス様っ」
「それは分かりますが……あなたはご結婚はなさらないおつもりですか?」
このままではエヴァリア様は独身のまま、ヒスライン家でリネオ様を囲いながら生きていくことになります。
そんなことをヒスライン男爵が許すとは考えられません。エヴァリア様を養子として迎えたのは、これほどの美少女であれば公爵レベルの令息を射止められると思ったそうですから。
「お父様にもそう聞かれましたけど、リネオ様が貴族に戻ればリネオ様と結婚するんです!」
「だそうだ。ラピス、お前が優しい心で二人を助けてやってくれないか?」
「あなた、今平民から聖女って崇められるのよ? そんな娘を持って私たちは幸せ……」
私が無言で立ち上がると、お母様は言葉を止めました。エヴァリア様とお父様も目を丸くして私を見上げます。
そんな三人ににっこりと微笑みかければ、自分たちの頼みを聞いてくれると思ったのでしょう。彼らは嬉しそうに頬を緩めました。
「これで面会の時間は終了です」
「ラ、ラピス様?」
「今後、あなた方との面会は断らせていただきます」
「待て、ラピス! 話はまだ──」
「では失礼します」
「待ちなさい! 親の言うことが聞けないの!?」
応接間から出て行く私を三人が追いかけようとします。兵士たちによって止められてしまったようですが。
「……もっと文句をぶつけてもいいと思いましたが?」
廊下ではレン様が待っていました。面会にはレン様も立ち合いたいと仰っていましたが、私が断ったのです。
あのような方々でも私の両親。少々厳しい物言いになってしまいますが、身内の恥を見られたくなかったのです。
「どうせ、文句も助言もお父様たちの心には届きません……」
心に届くのであれば、そもそも面会になんて来ないでしょうから。
これから先、彼らに何が起こるか大方の見当はついています。気付いていないのは本人たちだけでしょう。
まずツィトー家に対する風当たりは、これから厳しくなります。
お父様は領地経営の才能がなかったのですが、それを私がフォローすることでどうにか上手くやっていけていたのです。私がいなくなれば、当然その影響は悪い形で出てきます。
更にツィトー家を訪れた時に見聞きしたもの全てを、マリエッタ様は地位のある貴族たちにお話しています。
噂はあっという間に広がるものです。この国中の貴族に知れ渡ったと考えていいかと。
様々なものから逃げるため、王城で暮らしたいと騒いでいたのでしょうね。
そしてエヴァリア様は……。
何を教えず破滅するのを待つだけ。
それがあの方々に振り回された私なりの細やかな復讐です。
家を出て行く数日前から、「あいつと暮らしていたら、更に人生を狂わされる」と公爵は言い触らしていたようです。
リネオ様がああなってしまったのは、教育不足の一言に尽きます。その責任を放棄して息子を見捨てるのはどうかと思いますが、既に手の施しようがないと判断したのかもしれません。
そんなリネオ様に救いの手を差し伸べたのも、同類のお嬢様だったわけですが。
ですが相手が平民になっても婚約破棄しなかったのは、本物の愛というべきかもしれませんね。
「平民と結婚するわけにはいかないって、お父様が婚約をなかったことにしてしまいましたけど……私、リネオ様ならやり直せると信じてますから!」
「え……婚約破棄をして、それでもリネオ様はお屋敷に……?」
「はい!」
愛人。以前、私を大いに苦しめた単語が脳裏をよぎりました。
いよいよ頭が痛くなってきて溜め息をついていると、勝ち誇った表情でエヴァリア様がこう仰います。
「大好きな人と一緒に暮らせるのってとっても幸せなことなんですよ、ラピス様っ」
「それは分かりますが……あなたはご結婚はなさらないおつもりですか?」
このままではエヴァリア様は独身のまま、ヒスライン家でリネオ様を囲いながら生きていくことになります。
そんなことをヒスライン男爵が許すとは考えられません。エヴァリア様を養子として迎えたのは、これほどの美少女であれば公爵レベルの令息を射止められると思ったそうですから。
「お父様にもそう聞かれましたけど、リネオ様が貴族に戻ればリネオ様と結婚するんです!」
「だそうだ。ラピス、お前が優しい心で二人を助けてやってくれないか?」
「あなた、今平民から聖女って崇められるのよ? そんな娘を持って私たちは幸せ……」
私が無言で立ち上がると、お母様は言葉を止めました。エヴァリア様とお父様も目を丸くして私を見上げます。
そんな三人ににっこりと微笑みかければ、自分たちの頼みを聞いてくれると思ったのでしょう。彼らは嬉しそうに頬を緩めました。
「これで面会の時間は終了です」
「ラ、ラピス様?」
「今後、あなた方との面会は断らせていただきます」
「待て、ラピス! 話はまだ──」
「では失礼します」
「待ちなさい! 親の言うことが聞けないの!?」
応接間から出て行く私を三人が追いかけようとします。兵士たちによって止められてしまったようですが。
「……もっと文句をぶつけてもいいと思いましたが?」
廊下ではレン様が待っていました。面会にはレン様も立ち合いたいと仰っていましたが、私が断ったのです。
あのような方々でも私の両親。少々厳しい物言いになってしまいますが、身内の恥を見られたくなかったのです。
「どうせ、文句も助言もお父様たちの心には届きません……」
心に届くのであれば、そもそも面会になんて来ないでしょうから。
これから先、彼らに何が起こるか大方の見当はついています。気付いていないのは本人たちだけでしょう。
まずツィトー家に対する風当たりは、これから厳しくなります。
お父様は領地経営の才能がなかったのですが、それを私がフォローすることでどうにか上手くやっていけていたのです。私がいなくなれば、当然その影響は悪い形で出てきます。
更にツィトー家を訪れた時に見聞きしたもの全てを、マリエッタ様は地位のある貴族たちにお話しています。
噂はあっという間に広がるものです。この国中の貴族に知れ渡ったと考えていいかと。
様々なものから逃げるため、王城で暮らしたいと騒いでいたのでしょうね。
そしてエヴァリア様は……。
何を教えず破滅するのを待つだけ。
それがあの方々に振り回された私なりの細やかな復讐です。
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