2 / 16
2.
しおりを挟む
「お話を詳しくお聞かせ願えないでしょうか……?」
「詳しく? お前とエーヴの違いを話せ、ということか?」
「ええ、まあ……そういうことになります」
脱力感に襲われながらも頷くと、リュカはふんと鼻を鳴らして、エーヴとの出会いを話し始めた。
エーヴとは半年前に行われた舞踏会で初めて対面して、そこで彼女に心を奪われてしまったとのこと。
それからは頻繁にロレント邸を訪問して、エーヴと会っていたらしい。
時折何も言わず、ふらっと城から抜け出していたのはそのせいだったようだ。ブリュエットがここ最近抱いていた謎が解けた瞬間である。
「エーヴはとても可愛らしく、愛想もいい。国民も明るい性格で、常に可憐な笑顔を見せている妃の方がいいに決まっているではないか」
「や、やめてください、リュカ様! そんなに褒められちゃうと恥ずかしくなってしまいます……!」
赤らめた頬を両手で隠そうとする姿を見て、庇護欲を掻き立てられない男はいないだろう。
その例に漏れず、リュカもだらしのない笑みを一瞬浮かべた後に、エーヴの細い腰を自分へと抱き寄せた。
「お前は本当に素直で可愛いよ、エーヴ。それに比べて、どこかの正妃気取りな女ときたら……」
「それは私のことでしょうか?」
怒りも悲しみもない。平坦な声で尋ねると、リュカは「そういうところだぞ」と言いたげにブリュエットを睨みつけた。
「お前はいつもいつも口うるさいだろう。私のやることなすこと全てに口を出す。そこが王宮であっても、貴族学園内であってもだ。これでは私がお前なしでは、何もできない無能に思われてしまうと分からないのか? ああ、分からないだろうな。こうして抗議するたびに、お前は『殿下のためです』とふざけたことを言っていた」
「私は本当のことを申し上げていただけです。あくまで殿下の将来を思って……」
「やかましい。私を支配下に置き、いずれ王妃になった時に、国を好き勝手動かす企みがバレていないとでも思ったか」
被害妄想もいいところだ。
ブリュエットは嘆息する。これでも婚約当初は良好な関係を築けていたのだ。なのに、ある時を境にブリュエットに強く当たるようになった。
その原因は何となく見当がついており、それに関しては自分にも多少非があると思っている。
だがまさか、こんな形で報復されるとは。
「えっ、ブリュエット様ってそんな人だったんですかぁ? そんな人、側妃にもしちゃいけませんよ!」
「そう言うな、エーヴ。この女は有力な公爵家の娘なんだ。王宮から追い出すと後々面倒になる」
「ふーん……」
ブリュエットは真顔で二人の会話を聞いていた。が、大きく溜め息をつくと表情を変えることなく、冷ややかな声で告げた。
「どうぞ、お好きになさってください」
「……何だと?」
リュカが訝しげな表情を見せるが、ブリュエットはそのまま続けた。
「エーヴ様を正妃になさってください。私は側妃でも構いません」
「ふんっ、自分が男爵家の娘に劣ると宣言しているようなものだな。それを理解しての言葉か?」
「勿論」
リュカが僅かに目を泳がせたのが分かったが、ブリュエットの考えが変わることはなかった。
「その代わり、私も好き勝手にやらせていただきますので」
「詳しく? お前とエーヴの違いを話せ、ということか?」
「ええ、まあ……そういうことになります」
脱力感に襲われながらも頷くと、リュカはふんと鼻を鳴らして、エーヴとの出会いを話し始めた。
エーヴとは半年前に行われた舞踏会で初めて対面して、そこで彼女に心を奪われてしまったとのこと。
それからは頻繁にロレント邸を訪問して、エーヴと会っていたらしい。
時折何も言わず、ふらっと城から抜け出していたのはそのせいだったようだ。ブリュエットがここ最近抱いていた謎が解けた瞬間である。
「エーヴはとても可愛らしく、愛想もいい。国民も明るい性格で、常に可憐な笑顔を見せている妃の方がいいに決まっているではないか」
「や、やめてください、リュカ様! そんなに褒められちゃうと恥ずかしくなってしまいます……!」
赤らめた頬を両手で隠そうとする姿を見て、庇護欲を掻き立てられない男はいないだろう。
その例に漏れず、リュカもだらしのない笑みを一瞬浮かべた後に、エーヴの細い腰を自分へと抱き寄せた。
「お前は本当に素直で可愛いよ、エーヴ。それに比べて、どこかの正妃気取りな女ときたら……」
「それは私のことでしょうか?」
怒りも悲しみもない。平坦な声で尋ねると、リュカは「そういうところだぞ」と言いたげにブリュエットを睨みつけた。
「お前はいつもいつも口うるさいだろう。私のやることなすこと全てに口を出す。そこが王宮であっても、貴族学園内であってもだ。これでは私がお前なしでは、何もできない無能に思われてしまうと分からないのか? ああ、分からないだろうな。こうして抗議するたびに、お前は『殿下のためです』とふざけたことを言っていた」
「私は本当のことを申し上げていただけです。あくまで殿下の将来を思って……」
「やかましい。私を支配下に置き、いずれ王妃になった時に、国を好き勝手動かす企みがバレていないとでも思ったか」
被害妄想もいいところだ。
ブリュエットは嘆息する。これでも婚約当初は良好な関係を築けていたのだ。なのに、ある時を境にブリュエットに強く当たるようになった。
その原因は何となく見当がついており、それに関しては自分にも多少非があると思っている。
だがまさか、こんな形で報復されるとは。
「えっ、ブリュエット様ってそんな人だったんですかぁ? そんな人、側妃にもしちゃいけませんよ!」
「そう言うな、エーヴ。この女は有力な公爵家の娘なんだ。王宮から追い出すと後々面倒になる」
「ふーん……」
ブリュエットは真顔で二人の会話を聞いていた。が、大きく溜め息をつくと表情を変えることなく、冷ややかな声で告げた。
「どうぞ、お好きになさってください」
「……何だと?」
リュカが訝しげな表情を見せるが、ブリュエットはそのまま続けた。
「エーヴ様を正妃になさってください。私は側妃でも構いません」
「ふんっ、自分が男爵家の娘に劣ると宣言しているようなものだな。それを理解しての言葉か?」
「勿論」
リュカが僅かに目を泳がせたのが分かったが、ブリュエットの考えが変わることはなかった。
「その代わり、私も好き勝手にやらせていただきますので」
1,933
あなたにおすすめの小説
【完結】「めでたし めでたし」から始まる物語
つくも茄子
恋愛
身分違の恋に落ちた王子様は「真実の愛」を貫き幸せになりました。
物語では「幸せになりました」と終わりましたが、現実はそうはいかないもの。果たして王子様と本当に幸せだったのでしょうか?
王子様には婚約者の公爵令嬢がいました。彼女は本当に王子様の恋を応援したのでしょうか?
これは、めでたしめでたしのその後のお話です。
番外編がスタートしました。
意外な人物が出てきます!
私を見ないあなたに大嫌いを告げるまで
木蓮
恋愛
ミリアベルの婚約者カシアスは初恋の令嬢を想い続けている。
彼女を愛しながらも自分も言うことを聞く都合の良い相手として扱うカシアスに心折れたミリアベルは自分を見ない彼に別れを告げた。
「今さらあなたが私をどう思っているかなんて知りたくもない」
婚約者を信じられなかった令嬢と大切な人を失ってやっと現実が見えた令息のお話。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる