私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀

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ニコラ

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 食事会から数日後、ダミアンはニコラという男の屋敷を訪れていた。アリシアの爵位継承を抗議していた親族の一人だ。先代ラクール公爵の従兄弟にあたる。
 ダミアンは使用人一同に出迎えられると、すぐに応接間に通された。

「お初にお目にかかります、ダミアン様」

 ニコラは物腰の柔らかそうな男だった。遺言書を開封する際、この男だけは居合わせていなかった。

「どうぞ、こちらをお召し上がりください」

 ニコラの両手には、栓の抜かれていないワインボトルが大事そうに抱えられていた。

「そのワインは?」
「ワイン産業が盛んな領から取り寄せた上物でございます。先代のご子息がお見えになるのです。そこらの安物をお出しするわけにはまいりません」
「分かっているじゃないか」

 ダミアンは厚意を素直に受け入れた。芳醇なワインの味わいに舌鼓を打つ。酒の肴として出されたチーズや生ハムも美味だ。
 気分もよくなったところで、本題に入る。

「お前が僕を当主にしたいというのは本当だな?」
「当然です。息子の妻に家督を継がせるなど、あってはならない事態ですからね。ダミアン様に決まるだろうと踏んで、相続会議を欠席しておりましたが、まさかこのような事態になるとは……」
「とんでもない騒ぎになっていたぞ。皆、冷静さを失ってアリシアや弁護士を罵っていた」
「ひょっとしたら、自分が選ばれる可能性もありましたからね。爵位を継承するには、ダミアン様は少々お若い。たとえ中継ぎであっても、期待する気持ちがあったのでしょう」
「ふん。品性の欠片もなかったがな」

 自分が抗議するのは当たり前のことだ。想定外の事態が起こったのだから、大いに取り乱すのも無理はない。

「現時点ではアリシア夫人は家督は継げません。この国では、女性の爵位継承は認められておりませんからな」
「ああ。だが、母上も王太子殿下も、そのことについてはまったく触れようとしない。優秀な女性であれば、法律など無視しても構わないと思い込んでいるかもしれないな」

 母はともかく、あれが未来の王とは。この国の行く末が不安だと、ダミアンは肩を竦める。

「いえ、恐らくは違います」
「どういうことだ?」
「これはまだ公になっておりませんが……近々、議会で継承法の改正する法案が提出されようとしています」
「改正?」
「女性の爵位継承権を認めさせようとしているのですよ」
「!?」

 まさかアリシアに爵位を与えるために、法律まで変えようとしているのか。
 言葉を失うダミアンに、ニコラは神妙な面持ちで続ける。

「ダミアン様。あなたはお気付きではなかったようですが、事態はそこまで切迫しているのですよ」


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