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13.テレンスの価値(テレーゼサイド)

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 昼食を食べ終わって部屋に戻る。するとメイドが舞踏会用のドレスを準備していた。
 水魔法の使い手である私に相応しい、深い青色のドレス。
 生地には細かく砕いたダイアモンドが鏤められていて、光を反射して美しい輝きを放つ。最高品質のシルク製だから触り心地もなめらか。

 一つ不満があるとすれば、胸元を隠すようなデザインになっていること。
 水魔法の使い手は『清楚』であることを義務づけられているから、肌の露出はなるべく控えるようにと父が指定したらしい。
 これじゃあ、平均より大きさのある私の胸をアピールすることができない。母も私と同じ意見でドレスの作り直しを訴えたけれど、結局このまま。
 けれど、それ以外は文句なし。普段着ているドレスより高額のそれにほくそ笑んでいると、廊下が騒がしくなり始めた。

 メイドの制止する声と、男の苛立った声。
 こんな大事な時に。私が舌打ちすると同時に、部屋のドアが開かれた。

「テレーゼ! 今夜の舞踏会に出席するというのは本当か……!?」

 勝手に室内に入り込んできて早々そんなことを聞いてくる男に、溜め息が漏れてしまいそう。
 けれど本心を悟られないよう、作り物の笑みを浮かべて口を開く。

「ええ。だってレイティスの王子様がいらっしゃるんだもの。ご挨拶しなくちゃいけないわ」
「そ、それはそうだが……だが、どうして私にそのことを言わなかったんだ!? 君が欠席すると言ったから、私も婚約者を置いて出るわけにはいかないと出席を取り止めたのに……!」

 そう、テレンスとは最初から舞踏会に出るつもりはなかった。私に婚約者がいると王子に知られるのは、色々と都合が悪いと思ったから。
 母に相談したら欠席する振りをして、こっそり出ればいいと言われたのでその通りにしようとした。

「君が本日のために新しいドレスを仕立ててもらったと噂で聞いたんだ。気が変わったのなら、すぐにでも言ってくれれば俺も用意ができたんだが……」
「……ごめんなさい。本当は私も他の用事があったのだけれど、お父様がどうしても出ろとうるさくて。あなたも私に合わせて、何度も予定を変えるのは大変だろうと思って言えなかったの」
「そ、そうだったのか……」
「それに本当にただ出席して、王子にご挨拶をするだけ。私にはテレンス様がいるんだもの。他の御仁と踊るつもりもないわ」

 甘い言葉を交えて弁解すれば、テレンスは徐々に落ち着きを取り戻していった。
 あと少し。

「……テレンス様、私が自分以外の誰かと踊るのを想像して嫉妬してくれた? あなたには申し訳ないけど、とっても嬉しいわ……」
「テレーゼ……!」

 嬉しそうに私を呼ぶ声と暑苦しい抱擁。

「すまない、ほんの一時でも君を疑ってしまった俺を許してくれ……」
「そんなことを言わないで。悪いのは私の方なんだから」

 メイドたちはいつの間にか退室していた。残されたのは私とテレンスだけ。
 この男のことだから、気を遣って出て行ってくれたと思い込んでいるかも。
 あの女たちがこっそり自分を嘲笑っていたなんて知りもせず。

 テレンスのような美形に口説かれた時はあんなに嬉しかったのに、今は疎ましいと感じる。
 いくら顔がよくてもテレンスは所詮侯爵貴族。
 この国を守る魔法を持つ私には分不相応。

 それに私がテレンスとの惚気話をする度に、辛そうな顔をしていたサリサはもういない。
 だったらテレンスに執心する必要なんてない。万が一公爵や王族と結婚できなかった場合の滑り止め程度にまで格下げ。

 私が理想の人を手に入れたら、すぐにでも捨ててしまおう。
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