【一章完結済】五つ国物語

☆人

文字の大きさ
2 / 68
第一話 始まりの一織り

2

しおりを挟む
«五つ国歴576年»
工の国『コクマー』 キルティー領

「リンスロット様は本当に女神の指をしているわ」
「なんたって彼女の織る布はまるで宝石のような輝きと美しさをしているのだから」
「絹のような金の髪、星のような青い瞳…リンスロット様は国一番の美貌の持ち主だよ」
「美貌はもちろん、素晴らしい布を織れるのだから…領主様も良い娘を授かったものだ」
「その通り。リンスロット様の織り布のおかげでキルティー領の未来も明るいぞ」



「──ふふっ…」
窓から遠くの町を見下ろす娘はニコリと微笑んだ。
「聞こえるわ。町の皆が私を賛美する声が…」

『カタン』と布織り機の音が響くと、娘はふわりと金の髪を揺らし、青い瞳を細めた。

「貴方も喜びなさい。貴方は醜くくて、何も役に立たないけれど、織る布だけは美しい私…リンスロットの名声の一部となれるのだから…ねぇ、布姫」
「……ええ」
カタンカタンと鳴り響く規則正しい音は止まった。
「私は…こうやって布を織れれば幸せ。それがリンスロットの役に立っているというなら嬉しいわ」
リンスロットの視線の先の、名前のない、布を織るためだけに生かされた娘──『布姫』は優しく微笑んだ。


──18年前、キルティー領で大火事が発生、領主夫人と一緒にいた産まれたばかりの赤ん坊が犠牲になった。
民にはそう語られている。
しかし、それは真実を隠す為の嘘だった。

よくある話である。
大火事が起こった数日前、領主に二人の娘が生まれた。
一人は正妻の子。
もう一人は愛人の子。
領主はすでに愛人を愛しており、正妻が目障りだった。
領主は考えた。
正妻に子供が生まれては、ますます愛人との結婚は遠のくだろう。
どうすれば愛人と夫婦になれるのか。
どうすれば、邪魔な女を消せるのか──

そうして、彼は自らの屋敷に火をつけるという凶行に出たのだった。

火は屋敷を一気に包み、犯人に仕立て挙げた使用人、真実を知っていた者達、妻娘共々消し炭にした筈だった──しかし、

一人だけ炎から生き残った者がいた。

顔に酷い火傷を負ってはいたが、それ以外の部位は体の上に女性が覆い被さっており無傷。
発見された時にはまるで助けを呼ぶかのように大きく泣いていたのだそうだ。

それは生まれて間もない、正妻の娘…名前さえつけられていない赤ん坊──

「布姫」

『布姫』と呼ばれた娘は織る手を止めて顔を上げた。
「まだ仕上がらないの?全くノロマなんだから…!」
「…ごめんなさい。ちょっと手が痛くなってしまって…」
「言い訳はいいわ!早く仕上げなさいよ!今日は私が直接お城に納めに行くんだから!」
リンスロットは彼女の返事も聞かずに部屋を立ち去った。

──ああ、早く仕上げなければ

娘の琥珀色の瞳に映る織り機は微かに揺れた。


大火事の後、発見された生まれたばかりの赤ん坊を自らの手で縊る程の勇気のなかった領主は町の外れにある塔に娘を隠した。
そして、何食わぬ顔で愛人を妻にし、その愛人との赤ん坊を一人娘──リンスロットを向かえ入れたのだった。

塔に隠された娘には物心つく頃から布織りが教えられ、家の資金元として働かせられた。
真実を知りつつも、健気に働く彼女の織る布はいつしか輝きを増し、国一番──否、今まで作られた全ての布で一番の芸術品だと言われるようになっていた。

表面上、塔の娘は死んだ事になっているため、その布はリンスロットの作品だと言われているが──
しかし、彼女を知る見張りや父親等…誰から呼んだのか分からないが、布を織る彼女はいつしか
『布姫』と呼ばれるようになったのだった──

「──あっ」

規則正しく機織りの音を鳴らしていた布姫はふと手を止めた。
「青の糸がきれちゃったわ…どうしよう」
今作っている物に青を加えれば、より美しい仕上がりになるのだが……しかし、糸も染料を使った布姫の手作りである。
先程急げとリンスロットに怒られたばかりだが…
そう思いつつも顔を上げると、窓から見える太陽はまだ昼前を指していた。
「……うん、少し位なら大丈夫だよね」
布姫は頷くと机から小さなカゴとローブを取り、部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする

円山ひより
恋愛
湯沢蕗(ユザワ フキ) 28歳 スターブルー・ライト航空株式会社  グランドスタッフ × 向琉生(ムカイ ルイ) 32歳 スターブルー航空株式会社 副操縦士 「ーーじゃあ、俺と結婚しようか」 さらりと言われた言葉。 躊躇いのないプロポーズが私の心を乱す。 「大切にすると約束する」 指先に落とされた、彼の薄い唇の感触に胸が詰まった。 私は祖母の遺言に則って実家のカフェを守るため、あなたは広報動画出演の影響による数々の迷惑行為対策と縁談よけに。 お互いの利益のための契約結婚。 『――もう十分がんばっているでしょう』 名前も知らない、三年前に偶然出会った男性。 孤独と不安、さみしさ、負の感情に押しつぶされそうになっていた私を救ってくれたーーきっと、訓練生。 あの男性があなたであるはずがないのに。 どうして、同じ言葉を口にするの? 名前を呼ぶ声に。 触れる指先に。 伝わる体温に。 心が壊れそうな音を立てる。 ……この想いを、どう表現していいのかわからない。 ☆★☆★☆★☆ こちらの作品は他サイト様でも投稿しております。

皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?

akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。 今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。 家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。 だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

ピンクローズ - Pink Rose -

瑞原唯子
恋愛
家庭教師と教え子として再会した二人は、急速にその距離を縮めていく。だが、彼女には生まれながらに定められた婚約者がいた。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...