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第一話 始まりの一織り
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布姫の外出は、塔の周りに自生する木の実を採る時のみ許可されている。更に、人に見付かってはいけないので長時間、広範囲は出歩けない。
そんな規則な事もあり、昔は塔の見張り番も同行していたのだが、最近では布姫が逃げる筈がないと信用されているので、もっぱら一人で歩いている。
それに、
「フィリップさん、ご苦労様です」
「おや、布姫。今日はなんの実を取りに行くんだい?」
「ええ、アオイナの実を」
「ああそうか…そういえばリンスロット様が…っと、いけないいけない」
初老の見張り番はちょっと苦笑いしたが、気を取り直してウィンクした。
「じゃあ頑張ってる布姫には、後でとびきり美味しい紅茶を持って行ってあげよう!昨日嫁さんが買って来たのさ」
「本当に?ありがとう、フィリップさん」
ここの見張り番達は長年布姫を見てきて、娘のように可愛がるようになっていた。
布姫も優しい兵士達を家族のように慕っている。
そんな日々だから、きっと布姫は穏やかに育つことが出来たのだろう。
見張り番は手を降る布姫を柔らかい笑顔で見送った。
キルティー領の森は薄暗く不気味である。
人食い動物が出るとか魔女がいるとか噂が絶えることはない。
だから人々は滅多に近付かないようにしている。
しかし、中に入っているとその自然の美しさに目を疑ってしまう。鳥の声はすぐ近く聞こえ、花が咲き乱れ、動物達はのびのびと暮らしている。
そんな篭れ日の下、布姫は一度伸びをしてから籠の中の木の実をつついた。
「これだけたくさんあれば糸だけじゃなくて、タルトも作れるかな」
夕方は紅茶飲みながらゆっくり過ごそう。そして明日はお菓子を作って、見張りの人と一緒にお喋りしようか…
そんな事を考えて『ふふふ』と笑うと布姫は再び歩き始めた。
空が青い━━
見上げると、木の上からリスが降りてきて布姫の肩にとまった。
「こんにちは」
ニコリと挨拶をすると、リスは空と同じ澄んだ瞳をクリクリさせて、首を傾げた。そんな仕草に自然と顔が綻び、心が癒される。
布姫はリスの頭をくりくりと撫でてやった。
──その時刹那、辺りの空気が一変した。
鳥や動物の囁きはピタリと止まり、森に黒い影が差す。
布姫はその違和感に眉を顰めた。
常人でも感じとれる威圧感──
風の音さえ耳障りで身が震える。
『ここにいてはいけない』
布姫は直感的にそう悟り急いで足を一歩踏み出すが、もつれてその場に膝を折ってしまった。
刹那、一迅の風が森を駆け抜けた。
「──誰だ」
風から目をあげると、影に覆われた森に光が浮かんだ。
──黄金の竜…?
布姫は一瞬息を飲み、幼い頃に読んだ絵本を思い出した。
黄金色の竜が姫を攫いに来る──そんな御伽噺だ。
「…ちっ、女か」
「(違う、この人の髪)」
ハッと我に戻った布姫の瞳には竜では無く、一人の男が映っていた。
光に見紛う金茶色の髪に鋭い赤錆色の目。背中に剣を差し、服は
「きゃあああああ!!!」
服にはべったりと赤い血が付いていた。
布姫はその恐ろしい姿に思わず叫び、反射的に逃げ出そうとしたが足が竦んで立ち上がる事も出来なかった。
「っ…!うっせぇな!失せろ!狩りの邪魔だ!」
「か…り?」
男はじろりと布姫を睨むと彼女の後ろを指差した。
「ヒサギが新しい罠を開発したからな…試用だ」
男が指差した方向には、足挟み式罠に捕まった兎がいた。
死んではいないが、何度ももがいたのだろう。周辺に血が飛び散り、息も絶え絶えだ。
「!?」
「ふん…こんな小せぇ獲物も殺しきれてねぇなんて…昔から罠だけ下手くそでどうしようもねぇ」
男は吐き捨てるように言うと、背中に差した剣をスラリと抜いて兎に切っ先を向けた。
兎はその気配に気付いたのか、最後の抵抗に再び逃げようと足掻くが更に歯が足に深く食い込み、悲痛な声を上げた。
「けっ……抵抗してもその程度か。そのまま無様に生きるなら、死…」
「駄目!」
兎と男が対峙し、剣が降り下ろされた瞬間、布姫は間に割り込んだ。
そんな規則な事もあり、昔は塔の見張り番も同行していたのだが、最近では布姫が逃げる筈がないと信用されているので、もっぱら一人で歩いている。
それに、
「フィリップさん、ご苦労様です」
「おや、布姫。今日はなんの実を取りに行くんだい?」
「ええ、アオイナの実を」
「ああそうか…そういえばリンスロット様が…っと、いけないいけない」
初老の見張り番はちょっと苦笑いしたが、気を取り直してウィンクした。
「じゃあ頑張ってる布姫には、後でとびきり美味しい紅茶を持って行ってあげよう!昨日嫁さんが買って来たのさ」
「本当に?ありがとう、フィリップさん」
ここの見張り番達は長年布姫を見てきて、娘のように可愛がるようになっていた。
布姫も優しい兵士達を家族のように慕っている。
そんな日々だから、きっと布姫は穏やかに育つことが出来たのだろう。
見張り番は手を降る布姫を柔らかい笑顔で見送った。
キルティー領の森は薄暗く不気味である。
人食い動物が出るとか魔女がいるとか噂が絶えることはない。
だから人々は滅多に近付かないようにしている。
しかし、中に入っているとその自然の美しさに目を疑ってしまう。鳥の声はすぐ近く聞こえ、花が咲き乱れ、動物達はのびのびと暮らしている。
そんな篭れ日の下、布姫は一度伸びをしてから籠の中の木の実をつついた。
「これだけたくさんあれば糸だけじゃなくて、タルトも作れるかな」
夕方は紅茶飲みながらゆっくり過ごそう。そして明日はお菓子を作って、見張りの人と一緒にお喋りしようか…
そんな事を考えて『ふふふ』と笑うと布姫は再び歩き始めた。
空が青い━━
見上げると、木の上からリスが降りてきて布姫の肩にとまった。
「こんにちは」
ニコリと挨拶をすると、リスは空と同じ澄んだ瞳をクリクリさせて、首を傾げた。そんな仕草に自然と顔が綻び、心が癒される。
布姫はリスの頭をくりくりと撫でてやった。
──その時刹那、辺りの空気が一変した。
鳥や動物の囁きはピタリと止まり、森に黒い影が差す。
布姫はその違和感に眉を顰めた。
常人でも感じとれる威圧感──
風の音さえ耳障りで身が震える。
『ここにいてはいけない』
布姫は直感的にそう悟り急いで足を一歩踏み出すが、もつれてその場に膝を折ってしまった。
刹那、一迅の風が森を駆け抜けた。
「──誰だ」
風から目をあげると、影に覆われた森に光が浮かんだ。
──黄金の竜…?
布姫は一瞬息を飲み、幼い頃に読んだ絵本を思い出した。
黄金色の竜が姫を攫いに来る──そんな御伽噺だ。
「…ちっ、女か」
「(違う、この人の髪)」
ハッと我に戻った布姫の瞳には竜では無く、一人の男が映っていた。
光に見紛う金茶色の髪に鋭い赤錆色の目。背中に剣を差し、服は
「きゃあああああ!!!」
服にはべったりと赤い血が付いていた。
布姫はその恐ろしい姿に思わず叫び、反射的に逃げ出そうとしたが足が竦んで立ち上がる事も出来なかった。
「っ…!うっせぇな!失せろ!狩りの邪魔だ!」
「か…り?」
男はじろりと布姫を睨むと彼女の後ろを指差した。
「ヒサギが新しい罠を開発したからな…試用だ」
男が指差した方向には、足挟み式罠に捕まった兎がいた。
死んではいないが、何度ももがいたのだろう。周辺に血が飛び散り、息も絶え絶えだ。
「!?」
「ふん…こんな小せぇ獲物も殺しきれてねぇなんて…昔から罠だけ下手くそでどうしようもねぇ」
男は吐き捨てるように言うと、背中に差した剣をスラリと抜いて兎に切っ先を向けた。
兎はその気配に気付いたのか、最後の抵抗に再び逃げようと足掻くが更に歯が足に深く食い込み、悲痛な声を上げた。
「けっ……抵抗してもその程度か。そのまま無様に生きるなら、死…」
「駄目!」
兎と男が対峙し、剣が降り下ろされた瞬間、布姫は間に割り込んだ。
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