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第二章 「魔性と本能」
第6話
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廊下に出た途端、柏木は私を睨みつける。肩を貸しているのだが、どうやらそれが気に入らないらしく、柏木は私の腕を叩く。
「離してよ!」
「あんたはじゃじゃ馬ですか。そんなフラフラなんだから無駄な抵抗やめとけば」
「あんたに助けられるくらいなら死んだ方がマシ!」
死んだ方がマシ。
そう言われて、私の中の何かがゾワっとした。
え、なんだこの感覚。
義憤でも悲しさでも興奮でもない。
これは、拒絶だ。
私は柏木を振り落とすと、冷たく言い放つ。というか、故意はなくて、自然とそんな口調になった。
「死ねるものなら、死ねば?」
あ、泣くかな。
地面に崩れた柏木は、キュッと唇を噛む。
流石に自分でも言いすぎたと思う。謝らないと。
謝罪を述べようとしたとき、柏木が遮るように口を開いた。
柏木の反応は極めて冷静だった。というより、呆れてるような顔だった。
「ねえ、あんたってやっぱりそっちなんだね」
「は?」
「いや、なんでもない」
そう言って苦笑する柏木は、なんだか凄く辛そうに見えた。
「ちょっと柏木。気になるんだけど」
「私から言うことは何もない」
「なら、どうしてあんた、私のことそんなに目付けるわけ?私、なんかしたかな?」
思わず口調が激しくなる。
柏木のあの苦笑した顔。あの顔が、なんだか胸に切迫してきて。
「……それは、言わないし、言うつもりもない。それに、人が増えたじゃん」
ねえ、これほんとに柏木なの?
なんか口調も態度も別人みたい。なんていうか、こっちの柏木の方が、わざとらしさがない。
振り返ると、私の大声につられてギャラリーが集まってきていた。
「え?何?ケンカ?」
「俺見てた。久住さんが柏木さんを振り払ったとこ」
「は!?久住さんあんた何してんの!?」
ああもう、うるさいな!
私はぐるりと振り返ってすごい眼力で睨みつける。
「うわ、こっわ」
「やっぱ久住っておっかないな」
いよいよ、廊下全体に不穏な雰囲気が漂う。非難の的はもっぱら私。
非難なんて今まで星の数くらい受けてきたから別に平気だけどさ。それでも野次馬は本当にうるさい。
しかし、意外なところから助け舟が出た。
「みんな、違うよぉ。私の足がフラフラしちゃって、勝手に私が転んだだけだよぉ~」
普段の柏木らしい、ぶりっ子口調に戻る。でも心なしか、笑顔が引きつっている気がした。
「いやでも俺見てたぞ!あれはたしかにー」
柏木は、余計なことを言いそうな男子に向かって、にこりと微笑みかけると、何かを耳打ちした。
すると、男子はたちまち嬉しそうな顔になり、その場を去っていった。
な、何をしたんだろ。
「久住さん。早く保健室いこっ。私、疲れちゃった~」
「あ、うん」
ギャラリーは私たちを目で追いながらも、急に興味がなくなったかのように、それぞれの持ち場に戻っていった。
保健室にたどり着くと、誰もいなかった。『巡回中』の札が下げられ、ホワイトボードに『利用者は許可なく薬剤を使わないこと』と筆圧の強い字で書かれていた。
ガラリとドアを開けると、保健室特有のオフホワイトな空間と、消毒液の匂いがする。私は存外、この匂いが好きだ。
他に休んでいる生徒もおらず、私と柏木は2人きりになった。
先程よりかは少しはマシになったけど、相変わらず気分が悪そうなので、私はぎこちない気遣いをする。
「あー…。その、体温とか計る?ベッドで寝るとか」
「いや、いい」
「あ、はい」
バッサリと切られるけど、不思議とそこまで嫌ではない。
むしろ、普段の柏木より遥かにこちらの方が良い。
ソファに腰をかけ、しばらくどちらからも話を切り出さない。
気まずさがマックスになって、ようやく柏木が話しかけてかた。
「ねえ、久住」
い、いきなり呼び捨て!それも苗字かよ!まあ私も柏木って呼んでるし、いいけどさ。
「ん?なーに」
「朝枝太一って、知ってるでしょ?」
「え?」
いや、知ってるけどさ。
私の隣に住んでる爽やか風ヤンデレボーイだけど、その太一がどうしたって?
「まあ、知り合いだけど」
「あいつに、気をつけて」
なんで、柏木にそんなことを言われるのか。聞きたかったけど、柏木はそれ以上何も言わないので、我慢できなくなった私は問い詰めた。
「柏木!それ、どう言う意味?」
柏木は一瞬悲しそうな顔をすると、ボソリと一言。
「……やっぱ、そうか」
何がやっぱりなのか、さっぱりだ。
「いや、応答になってないし」
「ねえ、く…。…いや、鏡花」
はっきりと名前を呼ばれ、背筋が伸びる。
「私は、あんたにはとことん醜く嫉妬に狂った魔女でいてほしい。だから私は、白雪姫の劇の魔女役にあんたを指名したの」
は?はぁ!?
いや、意味がわからないし。
「だから、それはなんで?私のこと、嫌いだから!?」
「うーん。嫌いであり、好きでもある」
その言葉に、心臓がドクンドクンと脈打つ。
「なに、それ」
「鏡花。このまま、男を誘惑し続ける生活を続けてみるといいわ」
「言われなくてもそうする」
私のきっぱりとした答えに、柏木はくすりと笑った。
「ただ、何かを求めるなら、あんたも何かを失うっていうのが道理だよ」
「え?」
「あんたは既に、大事なものを失っている。男を誘惑することであんたの欲求は満たされるけど、満たされたら何か必ず奪われる。それだけは覚えておいて」
ベッドにフラフラとした足取りで向かう柏木に、私は何も言えなかった。
なんで太一のことを知っているの?
大事なものを、私は失っているって、どういうこと?
柏木は、何を知っているの?
そもそも、柏木って、何者なの?
私の戸惑いを表したかのように、空はどんよりと濁っていた。
「離してよ!」
「あんたはじゃじゃ馬ですか。そんなフラフラなんだから無駄な抵抗やめとけば」
「あんたに助けられるくらいなら死んだ方がマシ!」
死んだ方がマシ。
そう言われて、私の中の何かがゾワっとした。
え、なんだこの感覚。
義憤でも悲しさでも興奮でもない。
これは、拒絶だ。
私は柏木を振り落とすと、冷たく言い放つ。というか、故意はなくて、自然とそんな口調になった。
「死ねるものなら、死ねば?」
あ、泣くかな。
地面に崩れた柏木は、キュッと唇を噛む。
流石に自分でも言いすぎたと思う。謝らないと。
謝罪を述べようとしたとき、柏木が遮るように口を開いた。
柏木の反応は極めて冷静だった。というより、呆れてるような顔だった。
「ねえ、あんたってやっぱりそっちなんだね」
「は?」
「いや、なんでもない」
そう言って苦笑する柏木は、なんだか凄く辛そうに見えた。
「ちょっと柏木。気になるんだけど」
「私から言うことは何もない」
「なら、どうしてあんた、私のことそんなに目付けるわけ?私、なんかしたかな?」
思わず口調が激しくなる。
柏木のあの苦笑した顔。あの顔が、なんだか胸に切迫してきて。
「……それは、言わないし、言うつもりもない。それに、人が増えたじゃん」
ねえ、これほんとに柏木なの?
なんか口調も態度も別人みたい。なんていうか、こっちの柏木の方が、わざとらしさがない。
振り返ると、私の大声につられてギャラリーが集まってきていた。
「え?何?ケンカ?」
「俺見てた。久住さんが柏木さんを振り払ったとこ」
「は!?久住さんあんた何してんの!?」
ああもう、うるさいな!
私はぐるりと振り返ってすごい眼力で睨みつける。
「うわ、こっわ」
「やっぱ久住っておっかないな」
いよいよ、廊下全体に不穏な雰囲気が漂う。非難の的はもっぱら私。
非難なんて今まで星の数くらい受けてきたから別に平気だけどさ。それでも野次馬は本当にうるさい。
しかし、意外なところから助け舟が出た。
「みんな、違うよぉ。私の足がフラフラしちゃって、勝手に私が転んだだけだよぉ~」
普段の柏木らしい、ぶりっ子口調に戻る。でも心なしか、笑顔が引きつっている気がした。
「いやでも俺見てたぞ!あれはたしかにー」
柏木は、余計なことを言いそうな男子に向かって、にこりと微笑みかけると、何かを耳打ちした。
すると、男子はたちまち嬉しそうな顔になり、その場を去っていった。
な、何をしたんだろ。
「久住さん。早く保健室いこっ。私、疲れちゃった~」
「あ、うん」
ギャラリーは私たちを目で追いながらも、急に興味がなくなったかのように、それぞれの持ち場に戻っていった。
保健室にたどり着くと、誰もいなかった。『巡回中』の札が下げられ、ホワイトボードに『利用者は許可なく薬剤を使わないこと』と筆圧の強い字で書かれていた。
ガラリとドアを開けると、保健室特有のオフホワイトな空間と、消毒液の匂いがする。私は存外、この匂いが好きだ。
他に休んでいる生徒もおらず、私と柏木は2人きりになった。
先程よりかは少しはマシになったけど、相変わらず気分が悪そうなので、私はぎこちない気遣いをする。
「あー…。その、体温とか計る?ベッドで寝るとか」
「いや、いい」
「あ、はい」
バッサリと切られるけど、不思議とそこまで嫌ではない。
むしろ、普段の柏木より遥かにこちらの方が良い。
ソファに腰をかけ、しばらくどちらからも話を切り出さない。
気まずさがマックスになって、ようやく柏木が話しかけてかた。
「ねえ、久住」
い、いきなり呼び捨て!それも苗字かよ!まあ私も柏木って呼んでるし、いいけどさ。
「ん?なーに」
「朝枝太一って、知ってるでしょ?」
「え?」
いや、知ってるけどさ。
私の隣に住んでる爽やか風ヤンデレボーイだけど、その太一がどうしたって?
「まあ、知り合いだけど」
「あいつに、気をつけて」
なんで、柏木にそんなことを言われるのか。聞きたかったけど、柏木はそれ以上何も言わないので、我慢できなくなった私は問い詰めた。
「柏木!それ、どう言う意味?」
柏木は一瞬悲しそうな顔をすると、ボソリと一言。
「……やっぱ、そうか」
何がやっぱりなのか、さっぱりだ。
「いや、応答になってないし」
「ねえ、く…。…いや、鏡花」
はっきりと名前を呼ばれ、背筋が伸びる。
「私は、あんたにはとことん醜く嫉妬に狂った魔女でいてほしい。だから私は、白雪姫の劇の魔女役にあんたを指名したの」
は?はぁ!?
いや、意味がわからないし。
「だから、それはなんで?私のこと、嫌いだから!?」
「うーん。嫌いであり、好きでもある」
その言葉に、心臓がドクンドクンと脈打つ。
「なに、それ」
「鏡花。このまま、男を誘惑し続ける生活を続けてみるといいわ」
「言われなくてもそうする」
私のきっぱりとした答えに、柏木はくすりと笑った。
「ただ、何かを求めるなら、あんたも何かを失うっていうのが道理だよ」
「え?」
「あんたは既に、大事なものを失っている。男を誘惑することであんたの欲求は満たされるけど、満たされたら何か必ず奪われる。それだけは覚えておいて」
ベッドにフラフラとした足取りで向かう柏木に、私は何も言えなかった。
なんで太一のことを知っているの?
大事なものを、私は失っているって、どういうこと?
柏木は、何を知っているの?
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