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[番外編] 第7話 虹の王冠
10 るり色の湖で [番外編 最終話]
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めざしていた丘のふもとに馬車を停めて、ゆいりとるりなみは、なだらかな坂道を歩いて登っていった。
見渡す限り、やわらかな緑色をした大草原が広がる地帯だった。小さな丘がうねるように続いている中で、ゆいりたちが登っているこの丘は、一番大きくそびえていた。
「ずうっと、消えないでいるね」
るりなみが、丘の上の虹を見上げて言った。
虹は、王都からはるかに空を渡り、そこに降り立つように、おぼろな姿を見せ続けている。
「王国中のひとが、ふしぎな虹だと、気づいて見上げているか……あるいは、るりなみ様に関わりのある人たちにだけ、消えずに見えているのかもしれません」
そうかもしれないね、とるりなみはうなずいた。
* * *
二人が息を荒くしながら、たどりついた丘の上で──。
わぁ、とるりなみが顔を輝かせた。
丘の向こうの山あいに、綺麗な湖が広がっていたのだ。
その顔に、きらきらとした光があたって、るりなみをさらに輝かせている。
湖面の照り返しの光だろうか、いや……とゆいりは、上を見て目を見開く。
空を越えてきた虹の光の先端が、まさに、るりなみの真上にあった。
空から虹の光が降りそそぐのを、るりなみが一身に浴びているように見えた。
「るりなみ様の上に……」
つぶやくと、るりなみは「え?」と振り向いた。
ここまで虹を目印にやってきたのに、丘を登りきって湖が目に入ったら、そちらに夢中になって虹のことは忘れてしまった……とその顔に書いてある。
「虹が、お顔の上に」
そこまで言うと、るりなみはやっと「あっ」と声をあげて上を見た。
空から降ってきている虹の流れを見つけると、るりなみは一歩下がって、虹の流れを受け止めるように、両手を差し出した。
わぁ……、と声をあげているるりなみの姿を、ゆいりは、はっとして見ていた。
虹の光を両手に受けながら、嬉しそうなるりなみの頭の上には、今度は、湖面のさざなみが白銀の王冠のように宿って見えた。
これはいったい、どういうことなのだろう。
私になにを見せているのだろう、なにをあらわしているのだろう。
ゆいりが、予知夢のようだったあの王冠の夢のことも思い出しながら、思わずそう考え込んでしまったとき、るりなみが、答えを口にした。
「ゆいり、僕はね……王様になるのって、とても大変なことだと思うんだ。弱虫な僕は、とても王様になんてなれない。だから僕はこっそり、王様になるために生まれたんじゃなくてよかったなぁ、なんて思っていたんだ」
手に受ける虹の光を、両手にためて集めるようにしながら、るりなみは微笑んで語る。
その手から、光が溢れてこぼれているのが、輝いて見える。
「でもさ、ゆいり。僕も、ゆいりも、王様にならなくちゃいけないよね」
「私も、ですか?」
「うん、みんな、誰でも、自分の心の国の王様にならなくちゃいけないんだ」
ゆいりは、まじまじとるりなみを見つめた。
るりなみは、湖の景色と虹の光に包まれて、いつもよりずっと、しっかりとはっきりと語るのだった。
まるで、王様が語るように、力強く。
「心の国の王様になって、堂々としていたらいいんだ。心が泣いたときも、痛むときも、嬉しいときも、振り回されるのじゃなくて、心の声を聞いてあげたらいい」
そう言ったあと、るりなみは、虹の光をためていた両手を、ぱっと開いてみせた。
「……って、虹の精霊が教えてくれた気がするんだ」
ふふふ、と少し照れたように笑いかけてくる、るりなみ。
ゆいりをいつも、心からびっくりさせてくれる、ユイユメの国の王子様──。
その上にそそいでいた虹の光が、白銀の湖面の輝きの中に散っていくように、さぁっと薄れていった。
「虹の精霊が、お帰りになられるようですよ」
ゆいりがそっと言うと、るりなみも気づいて「あっ」と声をあげ、ばいばい、と空へ向けて手を振った。
* * *
虹を見送りながら、ゆいりは、となりに並ぶるりなみに声をかけた。
「るりなみ様は、王様になられたのですね。るりなみ様の国の、王様に」
──それは、とってもすごいことなんですよ、と心の中でゆいりは付け足す。
るりなみは満足そうに、「うん」とうなずくのだった。
[番外編] 第7話 虹の王冠 * おわり *
見渡す限り、やわらかな緑色をした大草原が広がる地帯だった。小さな丘がうねるように続いている中で、ゆいりたちが登っているこの丘は、一番大きくそびえていた。
「ずうっと、消えないでいるね」
るりなみが、丘の上の虹を見上げて言った。
虹は、王都からはるかに空を渡り、そこに降り立つように、おぼろな姿を見せ続けている。
「王国中のひとが、ふしぎな虹だと、気づいて見上げているか……あるいは、るりなみ様に関わりのある人たちにだけ、消えずに見えているのかもしれません」
そうかもしれないね、とるりなみはうなずいた。
* * *
二人が息を荒くしながら、たどりついた丘の上で──。
わぁ、とるりなみが顔を輝かせた。
丘の向こうの山あいに、綺麗な湖が広がっていたのだ。
その顔に、きらきらとした光があたって、るりなみをさらに輝かせている。
湖面の照り返しの光だろうか、いや……とゆいりは、上を見て目を見開く。
空を越えてきた虹の光の先端が、まさに、るりなみの真上にあった。
空から虹の光が降りそそぐのを、るりなみが一身に浴びているように見えた。
「るりなみ様の上に……」
つぶやくと、るりなみは「え?」と振り向いた。
ここまで虹を目印にやってきたのに、丘を登りきって湖が目に入ったら、そちらに夢中になって虹のことは忘れてしまった……とその顔に書いてある。
「虹が、お顔の上に」
そこまで言うと、るりなみはやっと「あっ」と声をあげて上を見た。
空から降ってきている虹の流れを見つけると、るりなみは一歩下がって、虹の流れを受け止めるように、両手を差し出した。
わぁ……、と声をあげているるりなみの姿を、ゆいりは、はっとして見ていた。
虹の光を両手に受けながら、嬉しそうなるりなみの頭の上には、今度は、湖面のさざなみが白銀の王冠のように宿って見えた。
これはいったい、どういうことなのだろう。
私になにを見せているのだろう、なにをあらわしているのだろう。
ゆいりが、予知夢のようだったあの王冠の夢のことも思い出しながら、思わずそう考え込んでしまったとき、るりなみが、答えを口にした。
「ゆいり、僕はね……王様になるのって、とても大変なことだと思うんだ。弱虫な僕は、とても王様になんてなれない。だから僕はこっそり、王様になるために生まれたんじゃなくてよかったなぁ、なんて思っていたんだ」
手に受ける虹の光を、両手にためて集めるようにしながら、るりなみは微笑んで語る。
その手から、光が溢れてこぼれているのが、輝いて見える。
「でもさ、ゆいり。僕も、ゆいりも、王様にならなくちゃいけないよね」
「私も、ですか?」
「うん、みんな、誰でも、自分の心の国の王様にならなくちゃいけないんだ」
ゆいりは、まじまじとるりなみを見つめた。
るりなみは、湖の景色と虹の光に包まれて、いつもよりずっと、しっかりとはっきりと語るのだった。
まるで、王様が語るように、力強く。
「心の国の王様になって、堂々としていたらいいんだ。心が泣いたときも、痛むときも、嬉しいときも、振り回されるのじゃなくて、心の声を聞いてあげたらいい」
そう言ったあと、るりなみは、虹の光をためていた両手を、ぱっと開いてみせた。
「……って、虹の精霊が教えてくれた気がするんだ」
ふふふ、と少し照れたように笑いかけてくる、るりなみ。
ゆいりをいつも、心からびっくりさせてくれる、ユイユメの国の王子様──。
その上にそそいでいた虹の光が、白銀の湖面の輝きの中に散っていくように、さぁっと薄れていった。
「虹の精霊が、お帰りになられるようですよ」
ゆいりがそっと言うと、るりなみも気づいて「あっ」と声をあげ、ばいばい、と空へ向けて手を振った。
* * *
虹を見送りながら、ゆいりは、となりに並ぶるりなみに声をかけた。
「るりなみ様は、王様になられたのですね。るりなみ様の国の、王様に」
──それは、とってもすごいことなんですよ、と心の中でゆいりは付け足す。
るりなみは満足そうに、「うん」とうなずくのだった。
[番外編] 第7話 虹の王冠 * おわり *
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