Trade Secret R ~ やがて、あの約束へ ~

あたか

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第3幕 男を愚かにさせるものとは

第7章 建前と幻想への挑戦状①

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演劇の舞台、蛍雪高校けいせつこうこうの講堂の天井は高く、ひのきはりがしっかりとその重量を支えていた。

明かりを抑えた会場の中には、開演を待つ重厚な空気が満ちている。

観客席には保護者の姿に混じって、スーツ姿の男達、着物姿の婦人達――

その中には、地元政界の顔、財界の大物、そして政府関係者までちらほらと。

名札のいらない“本物の来賓らいひん”たちが、静かに前列を占めていた。


「ねえ……あれ、元・外務大臣の大河内一誠おおこうちいっせいじゃない?」


「高校から来た外部生の俺達の親はざわついてた。“こんな文化祭、聞いたことない”ってさ」


「毎年、良くも飽きないよね。入場料払ってまで見に来る辺り……。
もはや、文化祭っていうイベントをビジネスにするなんて、この学校くらいよ」


そんなささやき声さえ、厳かな空間では異物のように響く。

観客の視線が一点に集まりはじめた頃、照明のスタンバイが入る。

舞台袖――

侑斗ゆきとは、舞台裏の薄暗いスペースで衣装を整えながら、深く息を吐いていた。その横で、サルヴァトーレはカーテンの隙間から客席を覗いている。


「見たか? 中央、左の三列目……衆議院議員の香坂智史こうさかさとしとその夫人。
次の総裁選に出る男が、高校の文化祭にご出席とは。ずいぶん余裕のある国だな」


「なんでそんな奴らが、蛍雪けいせつの文化祭に来るのかと毎年思うがな。
世の中には物好きな大人が多い」


「これは、子供の頃に散々聞かされたあの無駄にキラキラしたご都合主義のシンデレラストーリーが、本当は何を言わんとしているのか、その本質を問う舞台だ。
むしろ大人こそ観るべきだろう」


「ふふ……この状況でそんな口叩いて笑える余裕あるの、お前くらいだよ」


少し離れた場所では、はるかが黙って台本をめくりながら目を伏せている。

皆、視線は落ち着かない。

けれど、口元にはかすかな緊張の笑みが浮かんでいた。


「――五分前!」


スタッフの声に、全員の背筋がわずかに伸びる。

舞台の反対側では、照明と音響担当の生徒達が、呼吸を合わせるように準備を進めていた。

舞台上の幕の向こうには、光に照らされた世界が待っている。

それは――政治も、金も、しがらみも超えて、この一瞬だけは、ただ“演じる者”と“観る者”がまっすぐ向き合う場。

侑斗ゆきとはそっと目を閉じると、かたわらのサルヴァトーレを見た。


「……行こう。今日の主役は、俺達だ」


サルヴァトーレは、口元を吊り上げるように笑った。


「いいだろう。この“シンデレラストーリー”は、ただの夢物語じゃない。建前と幻想で着飾った、この国そのものへの――」

舞台上の幕が、ゆっくりと動き始める。


「挑戦状だ」
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