僕は無表情病の妹のために世界で一番美しい花を探す旅に出た

ヤオサカ

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第2章:クマとの遭遇、洞窟に隠れる

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 雨上がりの森は、どこまでも静かだった。枝葉が濡れ、ところどころで雫が落ちる音がする。

「だから、そっちじゃないって!」
 
  チイルの語気は強かった。

「地図にはこっちって書いてあるんだ!」
 
トールも負けじと叫び返す。
 
 森に足を踏み入れてからすでに数時間が経っていた。気づけば太陽は傾き始め、光が木々の隙間から細く差し込むだけになっていた。

「迷ったのかも……」
 
 チイルは腕を組み、険しい表情をした。

「だから言ったじゃん。ちゃんと確認して進まないと」

「そんなこと言ったって……!」
 
 互いに苛立ちが募り、言葉が強くなる。その時——。
 
 バキッ
 乾いた枝を踏みつける音がした。
 二人は動きを止めた。背後の茂みが揺れている。

「……何?」
 
 チイルは眉をひそめ、息を潜める。
 
 そこに現れたのは、一匹の巨大な熊だった。

「っ……!」
 
 トールは息をのむ。
 
 全身の毛並みは濡れていて、鋭い爪が土をえぐるように沈んでいる。

「チイル、動かないで……」
 
 トールは震える声で言った。

「そっちこそ黙ってて……」
 
 熊が一歩前へ踏み出した。その瞬間、二人はほぼ同時に駆け出していた。

「こっち!」
 
 チイルは木の根元にぽっかりと開いた洞穴を見つけ、トールの手を引いた。
 二人はすぐに洞窟の中へ滑り込み、息を殺す。
 外では熊が鼻をひくつかせながら、あたりを嗅いでいる。

「どうしよう……」
 
 トールの声はかすかに震えていた。

「わかんない……もうダメかも……」
 
 チイルの声も震えていた。
 
 二人は膝を抱え、小さく泣き出した。こんなに怖い思いをしたことはなかった。
 自分たちは、ただ旅をしようとしていただけだった。だけど、現実はこんなに厳しい。

「おばあちゃん……」
 
 チイルがぽつりと呟いた。

「僕も……家族に会いたい……」
 
 トールは目を閉じた。
 
 その時だった。
 
 洞窟の外で、小さな鳴き声が聞こえた。
 二人は息をひそめ、そっと洞窟の外を見る。
 
 そこにいたのは——小さな子熊だった。
 森の奥から、もう一匹の熊が現れる。その熊は大きく、優しい目をしていた。
 子熊は母親熊のもとへ駆け寄り、母熊は優しくその体を舐める。
 そうして、二匹は寄り添いながら森の奥へ消えていった。

「……帰っていった」
 
 トールが呟く。
 
 チイルは目を閉じた。母親熊と子熊の姿が、自分の幼いころの記憶と重なった。
 お母さんがいた頃。あたしも、こうして甘えたことがあった——。

「……思い出した。」
 
 チイルは涙を拭き、静かに言った。

「僕も。」
 
 トールも、強く頷いた。

「絶対に負けない。僕は世界で一番美しい花を見つける。」

「そうね。あたしはお父さんを探す。」
 
 二人は拳をぎゅっと握る。
 そして、洞窟から出ると、再び歩き始めた。

「もう喧嘩してる暇なんてないね!」

「うん。さっさと次の村へ行こう。」

二人は次の場所へ歩き始めた。
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