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第19話:踏み出す一歩と、静かな誘い
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夜明けの空は、薄く滲んだピンク色に染まっていた。
リリアはいつもより早く目を覚まし、まだ露が残る庭の中央で、一輪のラベンダーにそっと手を添えていた。
(私は……変わりたい)
グレイヴァンに言われた「覚悟」という言葉が、胸の奥に根を張り始めている。
守られるばかりじゃなくて、自分からも、伝えられるようになりたい。
そのための“一歩”を、今日は踏み出そうと決めていた。
庭の仕事を終え、いつものように茶葉の準備をしていると、カリムが駆け足でやってきた。
「リリアさん、騎士団長さんがもう門の外まで来てるよ。今日は少し早いね」
「……わかりました。すぐに行きます」
リリアは深呼吸して、白磁のポットとお気に入りのカップを手に、いつものラベンダーの席へと向かった。
すでにそこには、グレイヴァンの姿。
「こんにちは。……今日も、来てくださってありがとうございます」
リリアの心の中は、鼓動が速くなっていた。
(今、伝えよう。今日こそ、言おう)
「グレイヴァンさん……」
彼がカップに手をかけたそのとき、リリアがそっと口を開いた。
「……あの、よかったら、今度の休日……庭の裏にある、小さな丘に行きませんか?」
言ってから、自分でも驚くくらい顔が熱くなるのがわかった。
「そこの丘、ちょうど花が咲いていて……昔から、私のお気に入りの場所なんです。
もし、あなたも……少しでも心が疲れたとき、そこで風に当たってみてほしくて……」
沈黙が落ちた。
ほんの数秒、でも永遠にも思える時間。
やっぱり早すぎた? 重たかった? 気まずくなった?
不安がリリアの心を飲み込みかけたとき——
「……案内してくれ」
静かな声が、風に乗って届いた。
リリアは顔を上げた。
グレイヴァンは変わらず無表情だけれど、少しだけ、目元がやわらかい。
「……え、えっと……本当に、いいんですか?」
「お前がすすめる場所なら、悪いところじゃない。
茶の味と同じだ。……信じられる」
たったそれだけの言葉なのに、胸がいっぱいになる。
「じゃあ……次の休日、お弁当も持っていきますね。
あっ……好き嫌い、ありますか?」
「……特にない。何でも食べる」
そのぶっきらぼうな返しに、リリアはくすりと笑った。
(こんなふうに笑えるの、久しぶりかも)
それは、ただのお茶ではない、ふたりの“約束”になった。
グレイヴァンが帰ろうと門へ向かうその背中を、リリアはそっと見送った。
(誘えた。ちゃんと、私から声をかけられた)
その一歩は、たぶん小さなもの。
けれど、リリアにとっては確かな前進だった。
風がまた、優しく庭を撫でる。
恋が芽吹く音が、そっと聞こえた気がした。
リリアはいつもより早く目を覚まし、まだ露が残る庭の中央で、一輪のラベンダーにそっと手を添えていた。
(私は……変わりたい)
グレイヴァンに言われた「覚悟」という言葉が、胸の奥に根を張り始めている。
守られるばかりじゃなくて、自分からも、伝えられるようになりたい。
そのための“一歩”を、今日は踏み出そうと決めていた。
庭の仕事を終え、いつものように茶葉の準備をしていると、カリムが駆け足でやってきた。
「リリアさん、騎士団長さんがもう門の外まで来てるよ。今日は少し早いね」
「……わかりました。すぐに行きます」
リリアは深呼吸して、白磁のポットとお気に入りのカップを手に、いつものラベンダーの席へと向かった。
すでにそこには、グレイヴァンの姿。
「こんにちは。……今日も、来てくださってありがとうございます」
リリアの心の中は、鼓動が速くなっていた。
(今、伝えよう。今日こそ、言おう)
「グレイヴァンさん……」
彼がカップに手をかけたそのとき、リリアがそっと口を開いた。
「……あの、よかったら、今度の休日……庭の裏にある、小さな丘に行きませんか?」
言ってから、自分でも驚くくらい顔が熱くなるのがわかった。
「そこの丘、ちょうど花が咲いていて……昔から、私のお気に入りの場所なんです。
もし、あなたも……少しでも心が疲れたとき、そこで風に当たってみてほしくて……」
沈黙が落ちた。
ほんの数秒、でも永遠にも思える時間。
やっぱり早すぎた? 重たかった? 気まずくなった?
不安がリリアの心を飲み込みかけたとき——
「……案内してくれ」
静かな声が、風に乗って届いた。
リリアは顔を上げた。
グレイヴァンは変わらず無表情だけれど、少しだけ、目元がやわらかい。
「……え、えっと……本当に、いいんですか?」
「お前がすすめる場所なら、悪いところじゃない。
茶の味と同じだ。……信じられる」
たったそれだけの言葉なのに、胸がいっぱいになる。
「じゃあ……次の休日、お弁当も持っていきますね。
あっ……好き嫌い、ありますか?」
「……特にない。何でも食べる」
そのぶっきらぼうな返しに、リリアはくすりと笑った。
(こんなふうに笑えるの、久しぶりかも)
それは、ただのお茶ではない、ふたりの“約束”になった。
グレイヴァンが帰ろうと門へ向かうその背中を、リリアはそっと見送った。
(誘えた。ちゃんと、私から声をかけられた)
その一歩は、たぶん小さなもの。
けれど、リリアにとっては確かな前進だった。
風がまた、優しく庭を撫でる。
恋が芽吹く音が、そっと聞こえた気がした。
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