ボクのことが嫌いな彼らは、10年後の僕を溺愛する

文字の大きさ
37 / 50
現在編5

2

しおりを挟む
1人部屋で食事をとり、決められた時間に温泉へ行く。


高宮家はたぶん旅館を貸し切りにして、それっぽい客役をあちこちに放っていた。


10年前、高宮家にとって最も脅威だった組織を潰したものの、すべての脅威を退けられたわけではない。


ママを守るために万全を期すのは、高宮奏らしかった。






僕が無駄に大きいベッドの上で横になっていると、部屋に誰かが入ってきた。



どうせ弟だろうと思って、面倒だから寝た振りをすることにした。



ゆっくりと近づいてくる相手に、少し焦れる。



弟の部屋での弟の意味のわからない行動には何となく慣れたものの、いつもと違う空間では妙な緊張感があった。



相手はベッドの隣に立ったかと思ったら、いきなり髪を撫でてきた。



僕の顔を確かめるように、髪から眉、目、鼻、口と触れていく。


僕は初めてそこにいるのは弟ではない可能性を考え、身体を強張らせてしまった。



「寝た振りか」



僕の身体の強張りに気づいたのか、相手は言う。


そして僕の方もその声を聞いて気づいてしまった。




高宮奏が、そこにいる。




「ガキみたいなことを」




僕は絶対に目を開けてはいけないと自分自身に言い聞かせる。



「いや、実際ガキなのか。子どもっぽい振る舞いが消えないと、よく報告に上がっていた」



高宮奏は鼻で笑いながら、まだ僕の顔をべたべたと触っていた。



「お前は杏奈に存在を忘れられて、5年近く人間を辞めていたからな。意味のわからない言葉で泣き喚いて暴れては、付き人を困らせていた。正気を取り戻したのが5年前だとすれば、精神年齢はまだ15歳くらいってことになるだろ。いや、社会復帰するには更に時間がかかっていたから、もっと下か」


思いの外、優しい手つきで僕に触れている。

目を瞑ったままだと、殴られた時なんの抵抗もできない。

いきなり態度を豹変させるのを予測していたけれど、降ってくるのは僕を馬鹿にするような言葉ばかりだった。


「ガキには保護者が必要だよな」


僕は今年、20歳になる。


そもそもこれまでの10数年、僕に保護者なんて居ないようなものだったのに、こいつは何を言っているんだ。


「なぁ、あいつと本気で婚約するつもりか?」


しない。ママに会って決めて、お前に会って絶対辞めたほうがいいと確信した。


「あいつのことを好きなわけじゃないんだろ。だったら杏奈の前で上手く演じきれるわけがない。お前は俺たち親子への恨みを隠せない」


わかったように言われてムカつくけど、その通りだ。弟の前でならまだしも、お前の前では笑顔なんて作れそうにない。



話を聞きながら思う。

こいつはやっぱり、ママと僕を近づかせたくないのか。


「だから提案だ。俺の息子にならないか?俺の隠し子として、杏奈の息子になるんだよ。これまで日の当たらない場所で生きてきた息子が父親を恨んでいても何の不思議もない。杏奈は戸惑うだろうが、きっとお前を受け入れ、お前の傷を癒そうとしてくれるだろう」



予想外の展開に、僕は思わず目を開けた。


そして久しぶりに視界に入れた世界で一番嫌いな人間の姿に、それまでになく感情が揺さぶられる。


一瞬、呼吸の仕方を忘れてしまうほどだった。


何もかもが苦しい。


触れられているのに耐えられなくて、手を乱暴に振り払った。


高宮奏は僕の行動を怒るどころか、僕がようやく反応を示したことを喜んでいるようだった。



「選択肢は3つだ。息子と婚約するか、俺の隠し子として出てくるか、俺に殺されるか。俺の手の届かないところで生きるのは、許さない」



高宮奏は薄い笑みを浮かべて、3つの選択肢を示してきた。


僕は弟やこの男に許されたくて生きていたわけじゃない。


それでも咄嗟に、頭の中で選択してしまった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!

ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。 らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。 なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...