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現在編5
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数時間後、今度こそ弟が部屋に顔を出した。
「ちょっと目を離した隙に父さんがちょっかいを出したみたいだね。何か嫌なことをされなかった?」
「すべてが嫌だった」
結局、僕は高宮奏の前で一言も話せなかった。
高宮奏は震えるだけの僕を面白そうに見つめて、それから何かを確認するようにしつこく身体に触れてきた。
明らかに以前とは違う。
昔は虫ケラを見るような眼差しを僕に向けていた。
それなのに今更好意を示されても、恐怖しかなかった。
「もしかしてさ、何か変なことをされた?」
弟はちょっと怒った様子で僕に手を伸ばす。
僕が避けると、悲しげに笑った。
「特別に変なことはされてないから。あいつは、僕が怖がるのをただ楽しんでいたんだ」
弟を安心させる必要はないと思いながら、言い訳っぽく話した。
「一度執着したものは意地でも手放さない人だからね。ここにきて、お兄ちゃんのこと、気に入っちゃったみたいだから、上手くあしらうしかないよ。俺もできるだけのことはするからね」
逃げるのは無理だ。だから弟の庇護を受けるのが一番安全なのだろう。
しかし僕は今、あの男に殺されるのも悪くないかもと思っている。
弟の監視下で自殺するよりも簡単に死ねる上、あの男に最大の罪を着せることになる。
高宮家の力で殺人が表沙汰になることはなくても、精神的な負担は一生消えないはずだ。
いくら血も涙も通っていないようなやつだって、人を殺して平気でいられるわけがない。
今後の長い人生でふとした瞬間に後悔することがあるかもしれないと考えるとちょっとだけ楽しくなった。
「母さんは、どうだった?」
「綺麗だった」
「うん。ずっと変わらず綺麗だよね」
「高宮奏には勿体ない」
「うん。でも、あれでバランスがとれてるんだよ。母さんは精神的に弱いところがあるから、父さんくらい過保護でぐいぐい引っ張ってくれるタイプと相性がいいんだ」
近くで2人を見てきた息子の意見か。
マウントを取っているつもりは無いだろうけど、あまり気分は良くない。
「母さん、父さんと出会う前、子育てにずっと悩んでいたらしい。お兄ちゃんがちゃんと成長してるのか不安で、お兄ちゃんを幸せにする方法がわからないから、一緒に死んでしまおうと考えたこともあったんだって」
弟は僕の気分を損ねていることに気づかずに話を続けた。
「そんなわけない。ママも僕も幸せだった」
「お兄ちゃんに不安なのを見せないようにしていたんだよ。実際、大変だったと思う。それで、父さんと出会って、経済面でだいぶ楽になれた。でも、子育てについては自信がないままだった。高宮家は色んな意味で凄い家だったからね。父さんはいずれ高宮のすべてを担う長男として期待されてた。子連れで教養のない母さんはそんな父さんの隣に立つだけでも肩身が狭かったはずだ。そして高宮家の一員となってしまえば将来お兄ちゃんが苦労することを予想できていた。だから再婚にかなり渋っていたらしい。父さんはそんな母さんを全力で守ると言って、一緒にお兄ちゃんを立派に育てると約束した。お兄ちゃんに対してはアレだけど、母さんのことは今まで一生懸命守っていたよ。俺は父さんの実の息子で大事にされてきたけれど、母さんが1番なのは今も昔も変わっていないからね」
高宮奏は確かに異常な程ママのことを愛していると思う。
意地で否定したかったけれど、言葉が出で来なかった。
「当時の母さんが幼いお兄ちゃんを高宮家に預けたのは、本当にお兄ちゃんのことを想っていたからなんだよ。父さんは母さんの前ではいつでもヒーローだったから、そんなヒーローを育てた高宮家の人間に任せれば間違いないと信じてた」
「あのさ、高宮に僕を預けたママのことは恨んでいないからね」
「うん。そうだろうね。お兄ちゃんが恨んでるのは、高宮の血が入った人間たちだ。俺のようなね」
弟はまた、何にも楽しくないはずなのに、仕方なそうに笑って言い切った。
「ちょっと目を離した隙に父さんがちょっかいを出したみたいだね。何か嫌なことをされなかった?」
「すべてが嫌だった」
結局、僕は高宮奏の前で一言も話せなかった。
高宮奏は震えるだけの僕を面白そうに見つめて、それから何かを確認するようにしつこく身体に触れてきた。
明らかに以前とは違う。
昔は虫ケラを見るような眼差しを僕に向けていた。
それなのに今更好意を示されても、恐怖しかなかった。
「もしかしてさ、何か変なことをされた?」
弟はちょっと怒った様子で僕に手を伸ばす。
僕が避けると、悲しげに笑った。
「特別に変なことはされてないから。あいつは、僕が怖がるのをただ楽しんでいたんだ」
弟を安心させる必要はないと思いながら、言い訳っぽく話した。
「一度執着したものは意地でも手放さない人だからね。ここにきて、お兄ちゃんのこと、気に入っちゃったみたいだから、上手くあしらうしかないよ。俺もできるだけのことはするからね」
逃げるのは無理だ。だから弟の庇護を受けるのが一番安全なのだろう。
しかし僕は今、あの男に殺されるのも悪くないかもと思っている。
弟の監視下で自殺するよりも簡単に死ねる上、あの男に最大の罪を着せることになる。
高宮家の力で殺人が表沙汰になることはなくても、精神的な負担は一生消えないはずだ。
いくら血も涙も通っていないようなやつだって、人を殺して平気でいられるわけがない。
今後の長い人生でふとした瞬間に後悔することがあるかもしれないと考えるとちょっとだけ楽しくなった。
「母さんは、どうだった?」
「綺麗だった」
「うん。ずっと変わらず綺麗だよね」
「高宮奏には勿体ない」
「うん。でも、あれでバランスがとれてるんだよ。母さんは精神的に弱いところがあるから、父さんくらい過保護でぐいぐい引っ張ってくれるタイプと相性がいいんだ」
近くで2人を見てきた息子の意見か。
マウントを取っているつもりは無いだろうけど、あまり気分は良くない。
「母さん、父さんと出会う前、子育てにずっと悩んでいたらしい。お兄ちゃんがちゃんと成長してるのか不安で、お兄ちゃんを幸せにする方法がわからないから、一緒に死んでしまおうと考えたこともあったんだって」
弟は僕の気分を損ねていることに気づかずに話を続けた。
「そんなわけない。ママも僕も幸せだった」
「お兄ちゃんに不安なのを見せないようにしていたんだよ。実際、大変だったと思う。それで、父さんと出会って、経済面でだいぶ楽になれた。でも、子育てについては自信がないままだった。高宮家は色んな意味で凄い家だったからね。父さんはいずれ高宮のすべてを担う長男として期待されてた。子連れで教養のない母さんはそんな父さんの隣に立つだけでも肩身が狭かったはずだ。そして高宮家の一員となってしまえば将来お兄ちゃんが苦労することを予想できていた。だから再婚にかなり渋っていたらしい。父さんはそんな母さんを全力で守ると言って、一緒にお兄ちゃんを立派に育てると約束した。お兄ちゃんに対してはアレだけど、母さんのことは今まで一生懸命守っていたよ。俺は父さんの実の息子で大事にされてきたけれど、母さんが1番なのは今も昔も変わっていないからね」
高宮奏は確かに異常な程ママのことを愛していると思う。
意地で否定したかったけれど、言葉が出で来なかった。
「当時の母さんが幼いお兄ちゃんを高宮家に預けたのは、本当にお兄ちゃんのことを想っていたからなんだよ。父さんは母さんの前ではいつでもヒーローだったから、そんなヒーローを育てた高宮家の人間に任せれば間違いないと信じてた」
「あのさ、高宮に僕を預けたママのことは恨んでいないからね」
「うん。そうだろうね。お兄ちゃんが恨んでるのは、高宮の血が入った人間たちだ。俺のようなね」
弟はまた、何にも楽しくないはずなのに、仕方なそうに笑って言い切った。
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