ボクのことが嫌いな彼らは、10年後の僕を溺愛する

文字の大きさ
43 / 50
現在編6

2

しおりを挟む
真っ白いレースのカーテンが、風に吹かれて揺れている。

隙間から見える空が眩しい。


遠くから子どもの笑い声が聞こえてきた。



僕は、どこにいるのだろう。



辺りは花の甘い香りが漂っている。


くしゃみが出そうなくらい明るい部屋に、全く見覚えがなかった。


「アンリ、よかった。目を覚ましたんですね」


名前を呼ばれて、身体を起こす。

扉の前に、ジェイがいた。


光に溢れた明るい部屋の中で、ジェイは一層キラキラと輝いて見えた。


「どこか痛むところはありませんか?」


ジェイは近づきながら言う。

僕はなんとなく手首をさすった。

するとジェイは急に顔を険しくさせた。


「あいつら、乱暴にしやがって」


穏やかなイメージしかなかったジェイの怖い顔にびっくりして、僕は思わずシーツを握りしめた。


「ああ、すみません。怖がらせてしまいましたね。安心してください。あの方たちには、口で言い聞かせるだけですから」


直ぐに穏やかな表情に戻ったジェイに対して、前までと同じように接するのは難しかった。


「……だれ、なの?」


僕らは友達だ。

好印象を抱いていたものの、所詮は数回しか会ったことがない友達。

そんなジェイと何故こうやって向き合っているのか、不思議でしかなかった。


「私のことですか?」


僕は頷いた。


「本名は、親に売られた時に捨てました。檻の中ではJというタグを付けられ、呼ばれていた。他にも色々な呼び方をされるけれど、あの頃出会った仲間は今でも私をJと呼ぶ。だからアンリも、以前と同じようにジェイと呼んでください」


「……その、ジェイが、なんで僕をたすけてくれたの?」


「以前、アンリに助けられたからですよ」


「僕はなにもしていない。ジェイとはこの間、会ったばかりだ」


「そうですね。私たちが初めて会話をしたのは、ついこの間のことでした」


ジェイは懐かしそうに目を細めた。

どうやらジェイは、その前から僕のことを知っていたようだ。


「高宮家の、こまなの?」


「駒ではないです。一部の方と協力関係にあるだけです」


「僕をどうするの?」


「しばらく心のケアをして、そのあとはアンリの自由です。好きな場所で好きに生きていい。ただ高宮家にも戻ることはお勧めしませんが」


「ここを出たら死んでもいい?」


「死ぬ理由なんてもうないです」


「生きるりゆうもない」


「アンリは、なんでそんなに死にたいんですか?」


「苦しいから」


「もっと、具体的に教えてください」


「生きていたら、だめだから」


「なぜ?」


「僕だけが、生きのこっちゃったから」


「本当にそんな理由で死にたいのならば、尚更死ぬ意味がない」


「ジェイには、わからないよ」


「少なくとも高宮樹里よりアンリの苦しみを理解できます」


優しいのに、冷たい眼差し。

ジェイの中には何かがある。

思えば、そのことにもっと早くに気づいていた。

その時は、触れる必要なんてないと思っていた。


「あの日、あの場所に、私も居たんです。私はあなたの身体が切り開かれるのを見ていた。声にならない叫びを聞いていた。次は、自分の番だと思って、覚悟を決めた。でも、私たちはあの場から救い出された。アンリが、居たから。あの日、あのタイミングで、アンリが連れて来られたから、私たちの解体は後回しにされて、アンリを救出に来た人間に、見つけてもらえた」


僕はジェイの顔をまじまじと見つめる。

薬のお陰か、僕の心は落ち着いていた。

そして、冷静に、思い出す。

あの檻の中には、小さい子供も、大きい子供もいた。


「親に売られて、これから死ぬんだと思った時は涙が出なかったのに、助かるかもって思った瞬間、涙が出てきた」


ジェイの青い瞳から、ポロリと涙が零れ落ちた。


「まだ、生きている。生きて、いられる。今では当たり前のことが、あの時、どれだけ、嬉しかったか。恐怖も含めて、あの時の感情を、今日まで忘れたことはない」


まだ、よく理解できていない。


でも、僕はあの部屋で、この綺麗な瞳を確かに見たような気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!

ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。 らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。 なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...