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現在編6
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真っ白いレースのカーテンが、風に吹かれて揺れている。
隙間から見える空が眩しい。
遠くから子どもの笑い声が聞こえてきた。
僕は、どこにいるのだろう。
辺りは花の甘い香りが漂っている。
くしゃみが出そうなくらい明るい部屋に、全く見覚えがなかった。
「アンリ、よかった。目を覚ましたんですね」
名前を呼ばれて、身体を起こす。
扉の前に、ジェイがいた。
光に溢れた明るい部屋の中で、ジェイは一層キラキラと輝いて見えた。
「どこか痛むところはありませんか?」
ジェイは近づきながら言う。
僕はなんとなく手首をさすった。
するとジェイは急に顔を険しくさせた。
「あいつら、乱暴にしやがって」
穏やかなイメージしかなかったジェイの怖い顔にびっくりして、僕は思わずシーツを握りしめた。
「ああ、すみません。怖がらせてしまいましたね。安心してください。あの方たちには、口で言い聞かせるだけですから」
直ぐに穏やかな表情に戻ったジェイに対して、前までと同じように接するのは難しかった。
「……だれ、なの?」
僕らは友達だ。
好印象を抱いていたものの、所詮は数回しか会ったことがない友達。
そんなジェイと何故こうやって向き合っているのか、不思議でしかなかった。
「私のことですか?」
僕は頷いた。
「本名は、親に売られた時に捨てました。檻の中ではJというタグを付けられ、呼ばれていた。他にも色々な呼び方をされるけれど、あの頃出会った仲間は今でも私をJと呼ぶ。だからアンリも、以前と同じようにジェイと呼んでください」
「……その、ジェイが、なんで僕をたすけてくれたの?」
「以前、アンリに助けられたからですよ」
「僕はなにもしていない。ジェイとはこの間、会ったばかりだ」
「そうですね。私たちが初めて会話をしたのは、ついこの間のことでした」
ジェイは懐かしそうに目を細めた。
どうやらジェイは、その前から僕のことを知っていたようだ。
「高宮家の、こまなの?」
「駒ではないです。一部の方と協力関係にあるだけです」
「僕をどうするの?」
「しばらく心のケアをして、そのあとはアンリの自由です。好きな場所で好きに生きていい。ただ高宮家にも戻ることはお勧めしませんが」
「ここを出たら死んでもいい?」
「死ぬ理由なんてもうないです」
「生きるりゆうもない」
「アンリは、なんでそんなに死にたいんですか?」
「苦しいから」
「もっと、具体的に教えてください」
「生きていたら、だめだから」
「なぜ?」
「僕だけが、生きのこっちゃったから」
「本当にそんな理由で死にたいのならば、尚更死ぬ意味がない」
「ジェイには、わからないよ」
「少なくとも高宮樹里よりアンリの苦しみを理解できます」
優しいのに、冷たい眼差し。
ジェイの中には何かがある。
思えば、そのことにもっと早くに気づいていた。
その時は、触れる必要なんてないと思っていた。
「あの日、あの場所に、私も居たんです。私はあなたの身体が切り開かれるのを見ていた。声にならない叫びを聞いていた。次は、自分の番だと思って、覚悟を決めた。でも、私たちはあの場から救い出された。アンリが、居たから。あの日、あのタイミングで、アンリが連れて来られたから、私たちの解体は後回しにされて、アンリを救出に来た人間に、見つけてもらえた」
僕はジェイの顔をまじまじと見つめる。
薬のお陰か、僕の心は落ち着いていた。
そして、冷静に、思い出す。
あの檻の中には、小さい子供も、大きい子供もいた。
「親に売られて、これから死ぬんだと思った時は涙が出なかったのに、助かるかもって思った瞬間、涙が出てきた」
ジェイの青い瞳から、ポロリと涙が零れ落ちた。
「まだ、生きている。生きて、いられる。今では当たり前のことが、あの時、どれだけ、嬉しかったか。恐怖も含めて、あの時の感情を、今日まで忘れたことはない」
まだ、よく理解できていない。
でも、僕はあの部屋で、この綺麗な瞳を確かに見たような気がした。
隙間から見える空が眩しい。
遠くから子どもの笑い声が聞こえてきた。
僕は、どこにいるのだろう。
辺りは花の甘い香りが漂っている。
くしゃみが出そうなくらい明るい部屋に、全く見覚えがなかった。
「アンリ、よかった。目を覚ましたんですね」
名前を呼ばれて、身体を起こす。
扉の前に、ジェイがいた。
光に溢れた明るい部屋の中で、ジェイは一層キラキラと輝いて見えた。
「どこか痛むところはありませんか?」
ジェイは近づきながら言う。
僕はなんとなく手首をさすった。
するとジェイは急に顔を険しくさせた。
「あいつら、乱暴にしやがって」
穏やかなイメージしかなかったジェイの怖い顔にびっくりして、僕は思わずシーツを握りしめた。
「ああ、すみません。怖がらせてしまいましたね。安心してください。あの方たちには、口で言い聞かせるだけですから」
直ぐに穏やかな表情に戻ったジェイに対して、前までと同じように接するのは難しかった。
「……だれ、なの?」
僕らは友達だ。
好印象を抱いていたものの、所詮は数回しか会ったことがない友達。
そんなジェイと何故こうやって向き合っているのか、不思議でしかなかった。
「私のことですか?」
僕は頷いた。
「本名は、親に売られた時に捨てました。檻の中ではJというタグを付けられ、呼ばれていた。他にも色々な呼び方をされるけれど、あの頃出会った仲間は今でも私をJと呼ぶ。だからアンリも、以前と同じようにジェイと呼んでください」
「……その、ジェイが、なんで僕をたすけてくれたの?」
「以前、アンリに助けられたからですよ」
「僕はなにもしていない。ジェイとはこの間、会ったばかりだ」
「そうですね。私たちが初めて会話をしたのは、ついこの間のことでした」
ジェイは懐かしそうに目を細めた。
どうやらジェイは、その前から僕のことを知っていたようだ。
「高宮家の、こまなの?」
「駒ではないです。一部の方と協力関係にあるだけです」
「僕をどうするの?」
「しばらく心のケアをして、そのあとはアンリの自由です。好きな場所で好きに生きていい。ただ高宮家にも戻ることはお勧めしませんが」
「ここを出たら死んでもいい?」
「死ぬ理由なんてもうないです」
「生きるりゆうもない」
「アンリは、なんでそんなに死にたいんですか?」
「苦しいから」
「もっと、具体的に教えてください」
「生きていたら、だめだから」
「なぜ?」
「僕だけが、生きのこっちゃったから」
「本当にそんな理由で死にたいのならば、尚更死ぬ意味がない」
「ジェイには、わからないよ」
「少なくとも高宮樹里よりアンリの苦しみを理解できます」
優しいのに、冷たい眼差し。
ジェイの中には何かがある。
思えば、そのことにもっと早くに気づいていた。
その時は、触れる必要なんてないと思っていた。
「あの日、あの場所に、私も居たんです。私はあなたの身体が切り開かれるのを見ていた。声にならない叫びを聞いていた。次は、自分の番だと思って、覚悟を決めた。でも、私たちはあの場から救い出された。アンリが、居たから。あの日、あのタイミングで、アンリが連れて来られたから、私たちの解体は後回しにされて、アンリを救出に来た人間に、見つけてもらえた」
僕はジェイの顔をまじまじと見つめる。
薬のお陰か、僕の心は落ち着いていた。
そして、冷静に、思い出す。
あの檻の中には、小さい子供も、大きい子供もいた。
「親に売られて、これから死ぬんだと思った時は涙が出なかったのに、助かるかもって思った瞬間、涙が出てきた」
ジェイの青い瞳から、ポロリと涙が零れ落ちた。
「まだ、生きている。生きて、いられる。今では当たり前のことが、あの時、どれだけ、嬉しかったか。恐怖も含めて、あの時の感情を、今日まで忘れたことはない」
まだ、よく理解できていない。
でも、僕はあの部屋で、この綺麗な瞳を確かに見たような気がした。
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