47 / 50
現在編7
1
しおりを挟む
6歳のイワンという名の男の子に懐かれた。
アンリはいい匂いがすると言って、よく胸に顔を埋めてきた。
僕はそんなイワンのことを可愛いと思った。
でも、僕の気分次第でイワンのことを傷つけてしまうのではないかという不安があって、触れるのも、触れられるのも怖かった。
ジェイによると、イワンは母親から虐待されていたらしい。
イワンはその時のことを覚えていないみたいで平気そうな顔をしていたけれど、腕にはタバコの火を押し付けられたような痕があり、何もなかったことにできるわけがなかった。
イワンは成長する過程で、大人に対してどんな感情を抱くのだろう。
このまま施設でジェイのような人たちに愛されて育てばいいのにと思い、養子として可愛がってくれる人が現れてくれればとも願う。
どうなるにしろイワンを幸せにできるのは母親以外の大人だと思っていたところで、イワンはママに会いたいと呟いた。
どんなに酷いことをされても、イワンの1番はママなのだ。
僕にはイワンの気持ちがよくわかった。
そしてイワンの願いを叶えることが難しいのもわかってしまい、僕はもう大人なんだなと自覚した。
「響や蓮はどうしてるの?」
「響は私のことを疑い執拗に調べていますよ。しかし国外にいる人間を徹底的に洗い流すのは難しいようですね。ただでさえここは菫のテリトリーで、下手に触れたらどんな怒りを買うかわかりませんから。蓮のほうはずっと引きこもっているようです」
「菫さんは響に優しかったはずだ。子どもに対する愛情というよりも、高宮家の血の繋がりという仲間意識を持っていた。だから響が何をしてもそんなに怒らないと思う」
「どうでしょう。今の高宮家はいくつかの派閥に分かれてしまっている。響は父親の霞派で、霞は奏についていた。血の繋がりのある仲間同士で争っている状況でそうヌルい対応はしないと思います」
週に1回、僕はジェイと2人だけでお茶をする。
僕の気持ちが安定してきて、改めて高宮家のことに興味を持ち始めたことをジェイはいい傾向だと思っているらしい。
だから大抵の質問にちゃんと答えてくれる。それでいて一気に情報を与えることもしない。
僕の顔色を見つつ話すジェイの顔が、僕は好きだった。
「ジェイは菫さん派?」
「そうなりますね。アンリは?」
「これまでの感じからしたら、菫さんを応援せざるを得ないな」
「では菫をいつかここに招待しましょう」
「素直にお礼を言える気がしないけど」
「菫は感謝されたがっているわけではないですよ。ただアンリが元気そうにしているのがわかれば満足なはずです」
「うーん。そんなもんなのかな。でも、人って変わるもんなんだね。ジェイが嘘をついてると思わないけど、やっぱりどこか信じられないなぁ」
今では高宮家の当主候補に挙がるくらいの活躍をしている菫さん。
古い体質の高宮家は長男が継ぐものとされ、次男、三男はオマケに過ぎなかった。
それでも高宮家の子どもだからと他の関係のない大人に大事にされ、それなりに権利を持ってしまったからこそ傍若無人な人間になった霞さん。
一方、菫さんは繊細で、高宮家の権力目当てで媚を売る大人に失望していた。その失望は、両親や、兄の奏にも及び、本当は能力があるのに何もしないことを選んで無駄に時間を費やしていた。
高宮家の人たちは、そんな菫さんを恥だと思っていた。ボクほどじゃなくても、あの時の菫さんは疎まれていた。
小さい頃、菫さんのことが大好きだったボクは、大きくなったら弱い菫さんのことを守ってあげたいと思っていた。
菫さんにそれを言うと、嬉しそうな顔をして、ボクにキスをした。
思えばあれが僕のファーストキスだったのかもしれない。
遠い記憶に、心が揺れる。
独りだったら揺れたまま戻って来られなそうな心の軸を掴んでくれているのは、目の前のジェイだった。
アンリはいい匂いがすると言って、よく胸に顔を埋めてきた。
僕はそんなイワンのことを可愛いと思った。
でも、僕の気分次第でイワンのことを傷つけてしまうのではないかという不安があって、触れるのも、触れられるのも怖かった。
ジェイによると、イワンは母親から虐待されていたらしい。
イワンはその時のことを覚えていないみたいで平気そうな顔をしていたけれど、腕にはタバコの火を押し付けられたような痕があり、何もなかったことにできるわけがなかった。
イワンは成長する過程で、大人に対してどんな感情を抱くのだろう。
このまま施設でジェイのような人たちに愛されて育てばいいのにと思い、養子として可愛がってくれる人が現れてくれればとも願う。
どうなるにしろイワンを幸せにできるのは母親以外の大人だと思っていたところで、イワンはママに会いたいと呟いた。
どんなに酷いことをされても、イワンの1番はママなのだ。
僕にはイワンの気持ちがよくわかった。
そしてイワンの願いを叶えることが難しいのもわかってしまい、僕はもう大人なんだなと自覚した。
「響や蓮はどうしてるの?」
「響は私のことを疑い執拗に調べていますよ。しかし国外にいる人間を徹底的に洗い流すのは難しいようですね。ただでさえここは菫のテリトリーで、下手に触れたらどんな怒りを買うかわかりませんから。蓮のほうはずっと引きこもっているようです」
「菫さんは響に優しかったはずだ。子どもに対する愛情というよりも、高宮家の血の繋がりという仲間意識を持っていた。だから響が何をしてもそんなに怒らないと思う」
「どうでしょう。今の高宮家はいくつかの派閥に分かれてしまっている。響は父親の霞派で、霞は奏についていた。血の繋がりのある仲間同士で争っている状況でそうヌルい対応はしないと思います」
週に1回、僕はジェイと2人だけでお茶をする。
僕の気持ちが安定してきて、改めて高宮家のことに興味を持ち始めたことをジェイはいい傾向だと思っているらしい。
だから大抵の質問にちゃんと答えてくれる。それでいて一気に情報を与えることもしない。
僕の顔色を見つつ話すジェイの顔が、僕は好きだった。
「ジェイは菫さん派?」
「そうなりますね。アンリは?」
「これまでの感じからしたら、菫さんを応援せざるを得ないな」
「では菫をいつかここに招待しましょう」
「素直にお礼を言える気がしないけど」
「菫は感謝されたがっているわけではないですよ。ただアンリが元気そうにしているのがわかれば満足なはずです」
「うーん。そんなもんなのかな。でも、人って変わるもんなんだね。ジェイが嘘をついてると思わないけど、やっぱりどこか信じられないなぁ」
今では高宮家の当主候補に挙がるくらいの活躍をしている菫さん。
古い体質の高宮家は長男が継ぐものとされ、次男、三男はオマケに過ぎなかった。
それでも高宮家の子どもだからと他の関係のない大人に大事にされ、それなりに権利を持ってしまったからこそ傍若無人な人間になった霞さん。
一方、菫さんは繊細で、高宮家の権力目当てで媚を売る大人に失望していた。その失望は、両親や、兄の奏にも及び、本当は能力があるのに何もしないことを選んで無駄に時間を費やしていた。
高宮家の人たちは、そんな菫さんを恥だと思っていた。ボクほどじゃなくても、あの時の菫さんは疎まれていた。
小さい頃、菫さんのことが大好きだったボクは、大きくなったら弱い菫さんのことを守ってあげたいと思っていた。
菫さんにそれを言うと、嬉しそうな顔をして、ボクにキスをした。
思えばあれが僕のファーストキスだったのかもしれない。
遠い記憶に、心が揺れる。
独りだったら揺れたまま戻って来られなそうな心の軸を掴んでくれているのは、目の前のジェイだった。
0
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!
ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。
らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。
なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる