毎日もらえる追放特典でゆるゆる辺境ライフ!

水都 蓮(みなとれん)

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1巻

1-3

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 第二章


 さて、気付いたら隣にメイド(?)の少女がいた。
 実は例の【ログインボーナス】が発動して彼女が解放された……というわけではないだろうな。

「どうかされましたか?」
「どうかもなにも、朝起きたら突然美少女がそこにいて、俺に仕えると言われたら困惑もする……」
「お嫌ですか?」
「嫌というか状況が呑み込めないというか……君は何者なんだ? それにあの氷をどうやって」

 彼女を閉じ込めていたのは恐らく氷系統の結界で、余程の実力者であっても解呪は難しいであろうという代物であった。それがどうして翌日になって、跡形もなく消え去っているのだろうか。

「私の名はエスティアーナと申します。家族や親しい友人はエストと呼んでいました。この度は助けて頂いてありがとうございます」

 彼女は自己紹介すると、優雅ゆうがな所作で頭を下げた。
 随分と育ちの良いお嬢さんのようだ。

「俺の名前はブライだ。しかし、助けたってのは……どういうことだ?」

 あの氷に対して俺は無力であった。
 唯一のの【ログインボーナス】でも解呪出来ず、他になにかしたような記憶はない。

「私はある日、あの万年氷まんねんごおりに封印され、以来気の遠くなる時間をあの中で過ごしました。ですが、あなたが訪れたことで、封印が解けたのです。そしてかたわらにはこれが」

 そう言って彼女は手紙と藍色の首飾りを差し出してきた。

「これは……俺が昨日出した奴だな。それにこの手紙は……」

 こちらは見た記憶がない。見落としていたのだろうか。
 ともかく俺は、彼女の差し出した手紙に目を通してみる。

『気になるところに置くだけで、簡単に契約を破棄出来る【破約はやくのアミュレット】を贈ります』

 なんだ、この簡素で適当な文章は。
 贈り主は文面を考えるのに飽きてきたのだろうか?
 まさか、このまま三日坊主ぼうずで【ログインボーナス】とやらも打ち切られるのでは……
 不意にそんな考えが頭をよぎったが、まあそれはいい。
 俺は改めて彼女に話を聞くことにした。

「とにかくこれのお陰で氷が溶けたみたいだな。呪いじゃなくて契約を破棄したってのが気になるが、なにか心当たりは?」
「いえ、私が封印された理由も分からないので……」
「そうか……」

 そもそも人を氷に閉じ込めるなど、あまりに常軌じょうきいっしている。
 その実行者は、彼女に相当な恨みを抱いていたのだろう。

「でも、こうして出られて良かったです。ずっと、私を救ってくれる人を待ち望んでいましたから」
「ずっと……か。一体どれぐらいの間、ここに閉じ込められてたんだ?」

 一週間? 一ヶ月? いずれにせよ本当に酷い話だ。

「正確には……分かりませんけど、二千年ぐらい経ってると思います」
「に、二千年……⁉」

 待ってくれ。彼女がこんな目に遭ったのは昨日今日の出来事ではなく、二千年も昔の出来事だというのか?
 二千年前と言えば、もはや文献も残っていないほどのいにしえの時代だ。
 まさかそんな気の遠くなるような時を、あの氷の中で……?

「封印されたとはいえ、時折意識が目覚める時もありました……」

 そう言って彼女は苦しそうな表情を浮かべた。

「意識や感覚ははっきりしているのに……どんなに願っても身体が全く動かない。そのことがどれほど恐ろしいことか分かりますか? 避けようのない寒さが全身をむしばむ感覚が……? だから私は、この恐ろしく寒々しい氷から助け出してくれる、そんな人が現れたら、この身と心を生涯しょうがいささげようとちかいました」

 さらりととんでもないことを彼女は言ってのけた。

「い、いやいやいや、待って欲しい。確かに、結果的に君を助けた形にはなったけど、俺はたまたま通りかかっただけで、そんな男に身も心も捧げるっていうのは……」

 感謝の気持ちは伝わるが、それでも折角せっかく拾った命なのだから、もっとこう、自由に生きて欲しいものだ。

「俺はほんの少しの感謝の気持ちがあれば十分だ。それとほんの少しじゃない報酬ほうしゅうが……あ、いやなんでもない。とにかく、助けられたことを恩に感じなくていい」
「私だって誰が相手でも良いなんて思ってません。でも昨日、あなたが必死に私を助けようとする姿を見て……あなたなら信用出来ると思ったんです。それに、私にはもう誰もいないですから……」

 そう言って、エスティアーナは寂しげな表情を浮かべた。

「誰一人として私のことを知らず、右も左も分からない世界で一人で生きるなんて辛すぎます……それなら、私は信用出来るあなたに仕えていたい。それが孤独になった私の望みなのです」
「そういうこと……か……」

 二千年、それは彼女から家族や友人を奪い去るには十分過ぎる。
 彼女の想像を絶する境遇きょうぐうを思えば、とても比較にはならないが、それでも居場所を失い一人になってしまった俺とどこか重なって、見過ごせなかった。

「……なら、一緒に来るか? 俺も丁度仲間に見捨てられて、寂しい一人旅をしていたところなんだ。俺のことを信用出来なくなったらその時まででいいし、一緒についてきてくれる仲間がいると俺も嬉しい。どうだ?」
「もちろん‼ 喜んでおともします‼」

 そうして、パーティを追われ一人になった俺に、新しい仲間が出来た。
 まだ、お互いのことはよく知らないが、それでも彼女のことは信じられるような気がする。
 もちろん、確証なんてない。根拠はなんとなくだ。

「まったく、我ながら人がいいな……あんな風に裏切られたばかりだってのに」

 彼女に聞こえないようにぼそりと呟いた。
 俺が甘すぎるのだろうか、それとも学習していない証なのだろうか。
 きっと、事情を知る者からすれば、どうしてそんな簡単に他人を信じるのかと呆れられそうだ。だが……

「あ、でも、一つだけ言わせてください」

 彼女はそっと俺の服の袖をつまんで、ちょこんと引っ張った。

「なんだ?」
「多分、私がブライさんを信用出来なくなるなんてこと、ないと思います」
「それはどうしてだ?」
「なんとなく……です」

 どうやら、彼女も俺と同じ気持ちのようであった。


         *


「さてとここか……随分と綺麗な場所だな」

 長旅を終え、俺はようやく地図の場所にたどり着いた。
 目の前には美しい湖が広がっていた。
 まるで蒼玉そうぎょくのように透き通った湖で、寒さのせいか湖の一部が凍りついている。
 白波の模様を描く氷は、湖の蒼さを一層際立たせ、言葉に言い表せない絶景を作り出していた。
 そしてその中には、立派な城壁に囲まれた、古城のような趣深おもむきぶかい建物があった。

「こうして実際に目にしてみると、本当に立派な城だな」
「そうですね。ここ、ブライさんのおうちなのですか? もしかして実は、とても偉い人だったり……」
「偉い人ではないが、多分ここは俺のおうちになるだろうな」
「た、多分……ですか?」

 エスティアーナ……エストが不思議そうな表情を浮かべた。
 ギルド追放を機に目覚めた謎のスキル【ログインボーナス】、その最初の贈り物がこれだった。手紙に同封されていた権利証は、この建物についてのものだったのだ。
 ただ正直に言うと、今でもあの手紙がいたずらであった可能性を捨て切れないでいた。

「もしかして、君はブライさんかい?」

 城の前で立ち尽くしていると、眼鏡めがねを掛けた理知的な青年が話しかけてきた。

「初めまして。僕の名はセイン、この村の代表代理を務めている者だ」
「こちらこそ初めまして、セインさん。しかし、どうして俺の名前を?」
「その……信じられないだろうけど、この城は先日、突如とつじょとしてここに出現したんだ。僕達も何事かと調べてみたのだけど、なにか結界のようなものが張られていて入れず……ただ表にこれが」

 セインと名乗る青年の手には、既に見慣れた手紙が握られていた。

「また、これか」
「また……とはどういうことだい?」
「ああ、いや、こっちの話だ」

 俺はセインさんから手紙を受け取ると、それに目を通す。封筒には金色の刺繍ししゅうが施されていた。
 それは、ここ数日何度も受け取っていた手紙と同様のものであった。

『ようこそ、ブライ様。エイレーンはあなたの来訪を歓迎します』

 エイレーンというのはこの村の名前だ。そういえば昨日、あの声が「エイレーンの地への到着を確認しました」と言っていたが、この村に留まらず、この辺り一帯がエイレーンと呼ばれる土地ということなのかもしれない。
 さて、セインさんの話を聞くに、その真意はともかく、俺は本当に何者かによってこの城に招かれたようだ。

「いたずらにしては手が込んでいる……か」

 既に馬や馬車、アミュレットなどを貰った。そして、決定的なのがこの城だ。
 仮に悪意があったとしても、あまりにも金が掛かりすぎている。

「ああ、いかん。何にも分からん……」

 どうしてそこまでするのだろうか?
 俺に目覚めたスキル【ログインボーナス】は余りにも異質だ。
 毎日なにかが支給されるスキルなんて聞いたことがないし、貰えるものも破格のものばかりだ。
 加えて、そこには誰かの意志を感じる。
 俺をこの地に導きたいという意志を。
 だが、それが不思議なのだ。
 これといった能力はなにもない。冒険者としては並以下、そのせいで仲間にも裏切られた哀れな男が俺だ。

「…………自分で言ってて少し傷付いた」

 いくら自分のこととはいえ、言いすぎた。

「ブライさん?」

 黙り込んであれこれと思い悩んでいると、エストが心配そうに顔を覗き込んできた。

「なにかあったのですか?」
「なにかありすぎて、混乱している」
「まあ、無理もないと思うよ。実際、僕も混乱しているんだ。村は色々と大変だっていうのに、村外れにはこんなのが出来てるし、村の人に聞いてみても心当たりはないって話だし……はぁ……」

 セインさんは盛大なため息をついた。
 事情は分からないが、何やら随分と困っている様子だ。

「なにか困り事でもあるのか? なにかあれば力になりたいところだが……」
「本当かい? ああ、でも……他人をこの村の事情に巻き込むのは気が引けるよ……こういう時に冒険者ギルドがあればなあ……」
「どれだけ力になれるかは分からないが、冒険者ならここにいる。一応な」

 既にギルドを追い出された身だが、冒険者の身分が剥奪はくだつされたわけではない。

「……まさか、君は冒険者なのかい? それなら大いに頼りたいところだよ‼ 今本当に困っててね」

 まあ、冒険者といっても、実力は並以下なのだが、それでもなにか知恵ぐらいは貸せるだろう。
 いざとなれば、早馬でノーザンライトに戻って、他の冒険者を連れてきても良い。

「ああ、だけど、まずはゆっくりと休んでもらった方がいいね。随分と長旅だったみたいだし」
「そうだな。そうさせてもらえると助かる。とはいえ、そこの城は封印されてるって話だったが……」

 ふと、何の気なしに城の門に触れてみる。
 ――ブライ・ユースティアの来訪を確認しました。封印を解除します。
 すると、無機質な音声と共に、ごうっという音を立てて、重厚な門がゆっくりと開かれたのであった。


         *


「おはようございます、ブライ様。朝ですよ」
「ん…………?」

 誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。
 どこか心が安らぐ、とてもんだ声だった。

「あれ、どこだ……ここ?」

 まぶたを開くと、見慣れない天井が視界に飛び込んできた。
 純白の石材に囲まれた、きめ細かい装飾が施された豪奢な部屋だ。
 どうして、俺はこんなところに……
 俺は未だ眠気が抜けない状態で、周囲を見回す。

「ブライ様、なにを寝ぼけているんですか? 昨日、到着したばかりじゃないですか」
「え、ああ……」

 そうか、そうだった。
 ここは例の【ログインボーナス】で案内された城だ。城門を開いた後、ここで一晩過ごしたのだった。

「おはよう、エスト。起こしに来てくれたのか」

 誰かの声で目が覚めるなんて、いつぶりだろうか。

「昔はこうして……」

 ふと、昔のことを思い出す。
【月夜の猫】に加入するよりもずっと前のことだ。
 その頃にも、こうして俺を起こしてくれる人がいた。

「こうして……なんですか?」
「いや、昔のことを思い出してただけだ。こうして誰かに起こされるってのは久しぶりだからな」
「そうですか……」

 彼女は詳しく聞きたげな様子だ。
 とはいえ、愉快ゆかいな話でもないので、話すのははばかられる。俺は話を変えた。

「ああ、それで。朝食はどうしようか。街から持ってきた保存食は一応あるが」
「それなら、準備は出来ております。今朝セインさんが食料を届けてくださったので、スクランブルエッグなるものをご用意しました」
「そうか……」

 俺はしばらく黙り込むと、彼女をじっと見ながら考え込む。
 先ほどから抱いているこの違和感、一体どうしたものか……

「えーっと……どうかされましたか?」

 そうしていると、居心地が悪そうに彼女が尋ねてきた。
 俺はこれ幸いと、ゆっくり口を開いた。

「いや、そのブライ様って呼び方とか敬語がどうにもむずがゆくてな。呼び捨てにしてくれて構わないし、もっと砕けた感じで話して欲しい」
「ですが主従関係にある以上は――」
「俺は主従だと思ってない。昨日も言ったけど、俺は君のことを仲間として歓迎したいんだ」
「え……?」
「嫌か?」
「いえ…………そんな風に言ってもらえて嬉しいです」

 そう言って、 彼女はそっとうつむいた。
 随分と恥ずかしいことを口にした気がするが、そのせいで彼女も照れているのだろうか。
 なんとなく気まずい沈黙が訪れる。

「うん、分かった」

 そしてしばらくの沈黙の後、彼女はなにか決心したかのように咳払せきばらいをした。

「それでは改めて……朝食の準備が出来たよ、ブライ」

 彼女は屈託くったくのない笑みを浮かべた。

「うん、やっぱり、そんな感じの話し方の方が肩が凝らなくて済む」

 さっきまでのむず痒さが完全に消え去る。
 やはり下から来られるよりも、こうして対等に話してもらう方がずっと気が楽だ。

「……私もこっちの方がしっくり来るかも」

 この距離感こそが、お互いにとって最も心地の好いものなのかもしれない。

「しかし……」

 そうして、気がかりなことが一つ解決したところで、俺は改めて考え込む仕草で彼女を見つめた。

「え、えっと、どうしたの? あんまりじろじろ見られると恥ずかしい」
「いや、よくよく考えたら、エストは二千歳を超えてるんだよな? むしろ、俺が敬語使った方がいいのか?」
「…………ばか」

 ふと頭の中に湧いた冗談を告げると、彼女は少しねたように口を尖らせるのであった。


         *


 接客用に備え付けられた饗応きょうおうに降りると、俺達はエストの用意した料理を頂くことにした。
 久々の人との食事だ。
 ギルドで事務をしていた時は、誰かと食事を共にする機会などなかった。
 仲間と食事に行くこともなければ、恋人のセラですら時間が合わず、ほとんど顔を合わせることはなかった。
 ……いや、今思えば時間が合わなかったんじゃなくて、ライトと二人で会ってたんだろうな。
 改めて振り返ってみると、今更ながら合点がてんがいってしまい、少しへこむ。

「どうしたの、ブライ?」

 そんな俺に、エストが声を掛けてくれる。

「味付け合わなかった? セインさんに聞いて今の時代の料理に近いものを選んでみたけど、それでも二千年前のレシピだから」
「いや、味は最高だよ。このスクランブルエッグ、ほど良い半熟加減で店の料理にも引けを取らない。まさか二千年前にも同じような料理があったなんてな」
「私も驚いたよ。でも、口に合ったみたいで良かった」

 お世辞せじでなく、実際、味付けも料理も現代のそれとほとんど差がない。
 彼女のいた時代で文明は一度滅びたものとされているが、それでもこうして今との繋がりを残しているとは不思議なものだ。

「それで、昨日の件はどうするの?」
「ん? ああ、あれか……」

 あのセインという男性、相当に困っているようであった。
 それなのに、突然、村にやってきた俺達を歓迎してくれて、こうして食料まで恵んでもらった。
 当然、彼の頼みであれば聞き届けたい。しかし……

「出来ることならなんでもしたいんだがなあ……」

 つい、ぼやけた言い方をしてしまう。自信のなさの表れだ。

「気が進まない?」
「いや、そういうわけじゃない。ただ、正直に言ってしまうと、俺は冒険者だがあまり強くないんだ。厳密にはステータスが伸び悩んでいるというか……」
「ちょっと見せてみて」

 そう言うやいなや、彼女は俺に肩を寄せて密着してきた。

「ち、近いんだが……」
「平気平気、それよりもほらステータス、ステータス」

 俺はうながされるままにステータス画面を見せる。


 レベル:74
 体力:D+
 力:D+
 魔力:B-
 守備:D
 魔法耐性:C-
 敏捷性びんしょうせい:C
 幸運:D-
 スキル:【剣技:D+】【雷撃魔法:C-】【体力回復:D】【魔力回復:E】【高速詠唱えいしょう:E】【鑑定眼:D+】【ログインボーナス:EX】【聞き耳:C-】etc...


「うーん、変だね。これだけレベルが高かったら、もっといいステータスでもおかしくないのに」
「俺も変だと思うんだが、レベルが30台に突入してからほとんど変化してないんだ。普通は積み重ねた戦闘経験やスキルの使用回数で、もっと変動するもんなんだけどな」

 このステータスの伸び悩みが、かつてのパーティメンバーとの別れの切っ掛けであった。
 中級の魔獣までならなんとかなっても、上級種になると歯が立たず、俺は完全なパーティのお荷物になっていた。
 必死に鍛錬を繰り返して彼らに追いつこうともしたが、その成果はかんばしくなく、俺はとうとう事務職に回されてしまった。

「だから、役には立てなそうなんだ。もちろん、こんな俺でも出来ることならなんでもするつもりだが」
「……分かった。それなら私がどうにかするよ」
「え……?」
「これでも魔術には自信があるんだ」

 今度は、エストがステータス画面を開いて見せてくれる。


 レベル:82
 体力:D-
 力:E
 魔力:S+
 守備:E
 魔法耐性:B+
 敏捷性:B
 幸運:A+
 スキル:【霧氷むひょう魔術:S+】【暗黒魔術:A+】【治癒ちゆ魔術:C】【マナ回復:A+】【高速詠唱:A】【多重詠唱:A】etc...


「な、なんだこのステータスは⁉」

 彼女のステータス値に驚く。
 物理関係のステータスこそ標準より下だが、魔力系のステータスは並の魔道士の比ではない。
 Sランクと言えば、その道の達人が到達する領域だ。
 かつての俺の仲間であるライトは、若手最強と噂されるほどの実力者だが、そんなライトですら【槍術】のスキルはAランク止まりである。
 そう考えると、彼女のステータスは常軌を逸していると言えるだろう。

「凄いな。君は相当才能のある魔道士だったんだな」
「えっへん。言ったでしょ、これでも魔術には自信があるんだ」
「魔術……? 魔法じゃなくて?」
「えっ? 私達は魔術って呼んでるけど」

 二千年前と今とでは呼称が少し変わるのだろうか。とはいえ、細かな違いではあるか。

「それにしても、すごいな。君は一体何者なんだ……?」
「普通の魔術学院の学生だったよ。私ぐらいのステータスの人は珍しくなかったと思うけど。魔獣が今よりも凶暴だったのかな?」

 普通の学生がこの水準って、どれほどの魔境まきょうだったんだ二千年前。

「ま、そんなわけだから、いざとなったら私に任せてよ。ブライには助けてもらった恩があるし、ブライの分まで頑張るから」
「ああ、ありがとう……」

 そうして食事を終えると、俺達はセインさんの元へと向かうこととした。
 少し情けない気分だが、これも適材適所てきざいてきしょというやつだろう。


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