アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第一章 輪廻のアルケミスト

第19話 魔導適性のテスト

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 視察担当者はアルフェが落ち着くまで時間をかけて待つつもりらしく、少し離れたところで鞄を開いてテストの準備を始めている。

 自分から視線が逸らされたことで、アルフェも落ち着いてきた。まだ僕の服の端を引っ張ってはいるが。

「あれなに?」
「テストだって。面白そうだね」

 アルフェに興味が湧いたのは好ましい変化だ。僕も興味があるよ、と主張して囁いてみると、アルフェもこくりと頷いた。

「僕が見てきてあげる」
「うん……」

 自分から行くのはまだ難しいらしいが、僕が行くのは許可してくれた。アルフェが服から手を離してくれるのを待ち、僕は視察担当者の元へと子供らしいとてとてとした歩みを意識して近づいた。

「見てもいい?」
「あ、ああ……」

 足音をなるべく立てて近づいたので、ちゃんと視察担当者にも気づいてもらえた。

「君にはちょっと難しいかもね」

 そう言いながら視察担当者がテスト用紙を見せてくれる。設問は幼児語で書かれているが、要するに数を数えよ、という問題でごく簡単な算術テストだった。

「へーき。こたえは25でしょ?」
「……君は……?」

 視察担当者が驚いた目で僕を見る。やり過ぎたかと思ったが、すぐに驚愕だけではなく興味の色が浮かんでいるのに気がついた。

「それ、僕もやりたいな」

 そうアピールして、アルフェを振り返る。

「……アルフェも」

 意図をちゃんと汲み取ってくれたらしく、僕がやるなら、とアルフェも意欲を見せてくれた。

「良かった。じゃあ、これをやってみよう」

 視察担当者が机の上に広げていた紙や道具の中から、エメラルドグリーンの小石を取って僕たちの足許に置いた。

「手をかざして、この石を浮かせてみてくれるかな?」
「…………」

 アルフェが無言で僕の後ろに下がる。……ということは、僕が先にやるしかなさそうだ。小石を浮かせてというテストだから、このエメラルドグリーンの石は『浮遊石』という魔導エネルギーエーテルに反応する石だ。アルフェなら、手を翳して石を浮かせるイメージを持つだけで難なく浮かせることができるだろう。

 ――それで、僕はどのくらい浮かせたらいいのかな?

 アルフェより前だから、あまり目立ちたくないけれど、実力がないと思われるとせっかくの機会をふいにしてしまいそうだ。悩んだあげく、僕は自分の目の高さに浮遊石を浮かせて見せた。

「……ほう。これは見事だ。君にも素質があるんだね」

 視察担当者が感心した様子で僕を見つめる。僕は微笑んで後ろに下がり、アルフェと入れ替わった。

「アルフェのばん。できる?」
「する」

 僕の問いかけにアルフェが頷き、浮遊石に手を翳す。その瞬間、エメラルドグリーンの石が内側から光り輝いたかと思うと物凄い勢いで跳ね上がり、天井に当たって落ちてきた。

「はははは、これはすごい。初めてやったんだよね、アルフェちゃん」
「……うん」

 大人が好意的に驚いているのがわかるのか、アルフェも少し緊張を解いている。視察担当者はその変化を逃さずに、次のテストを持ちかけた。

「せっかくだから、これもやってみようか」

 そうして渡されたのは、文字と数の簡単なテストだった。文字と絵の組み合わせを結ぶ、数を数えるだけというもので、設問の数は少し多くて面倒だが、算術を使えば難なく解ける。

 セント・サライアス小学校は名門らしいし、全問正解出来る子供がいてもおかしくないだろうと考えたが、僕が解き終わってもアルフェはまだ苦戦しているようだった。

 そう言えば本はよく読むけれど、数や算術の話はしなかったな。アルフェにも少し勉強してもらって、僕だけ目立たないようにした方が良いかもしれない。そんなことを考えながらアルフェをちらちらと見ていると、視察担当者が僕の傍に寄ってきた。

「お嬢ちゃん、もう終わったかい?」
「はい……」

 検算までしているので完璧だと思うが、一応自信なさげに見せてみる。

「……へぇ。大したものだ……。君は数字が好きなんだね」

 好きで片付けられたが、前世でもこのぐらいは別に普通に解けていたと思う。

「アルフェもおしまい」

 曖昧に笑っていると、テストに飽きたらしいアルフェが途中で切り上げてしまった。それでもちらりと見た回答用紙は半分以上が埋まっているように見えた。

「どうもありがとう。よく頑張ってくれたね」

 テストを終えた視察担当者は、僕とアルフェを非常に優秀だと評して帰っていった。


◇◇◇


 視察から数日後、両親の元に僕を特待生としてセント・サライアス小学校に迎えたいという話が持ち込まれた。同じ報せはクリフォート家にももたらされ、アルフェと僕はまずはセント・サライアス小学校付属幼稚園に入園することが決定された。

 託児所からセント・サライアス小学校付属幼稚園の入園手続きが進められたのは、僕とアルフェが四歳になってからのこと。

 テスト自体は文句なしで入園という運びになったのだが、入園前面接で僕がルドラとナタル夫妻の養子と間違えられたのが原因で、入園が予定よりも遅くなってしまった。

「リーフは気にしないで、好きなようにお喋りしていいからね」
「お前さえよければ、もっと普通に呼んでいいんだぞ、リーフ」

 さすがに僕の敬語と、父上、母上という呼び方が原因で養子と間違われるとは思っていなかったらしいが、父と母はそれぞれに笑いながらそう話してくれたのは幸いだった。

 それにしても、両親に敬意を払って敬語で呼ぶのは、そんなにおかしなことなのだろうか?

 今更、アルフェのようにパパ、ママと呼ぶのも気が引けるし、こればかりは周囲の大人に対しても敬語で統一して乗り切るしかないな。しかし、子供に対してはどう振る舞うのが正解なのだろうか。

 少なくとも、アルフェは……敬語でいきなり話しかけたら、きっと嫌がるだろうな。

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