19 / 396
第一章 輪廻のアルケミスト
第19話 魔導適性のテスト
しおりを挟む
視察担当者はアルフェが落ち着くまで時間をかけて待つつもりらしく、少し離れたところで鞄を開いてテストの準備を始めている。
自分から視線が逸らされたことで、アルフェも落ち着いてきた。まだ僕の服の端を引っ張ってはいるが。
「あれなに?」
「テストだって。面白そうだね」
アルフェに興味が湧いたのは好ましい変化だ。僕も興味があるよ、と主張して囁いてみると、アルフェもこくりと頷いた。
「僕が見てきてあげる」
「うん……」
自分から行くのはまだ難しいらしいが、僕が行くのは許可してくれた。アルフェが服から手を離してくれるのを待ち、僕は視察担当者の元へと子供らしいとてとてとした歩みを意識して近づいた。
「見てもいい?」
「あ、ああ……」
足音をなるべく立てて近づいたので、ちゃんと視察担当者にも気づいてもらえた。
「君にはちょっと難しいかもね」
そう言いながら視察担当者がテスト用紙を見せてくれる。設問は幼児語で書かれているが、要するに数を数えよ、という問題でごく簡単な算術テストだった。
「へーき。こたえは25でしょ?」
「……君は……?」
視察担当者が驚いた目で僕を見る。やり過ぎたかと思ったが、すぐに驚愕だけではなく興味の色が浮かんでいるのに気がついた。
「それ、僕もやりたいな」
そうアピールして、アルフェを振り返る。
「……アルフェも」
意図をちゃんと汲み取ってくれたらしく、僕がやるなら、とアルフェも意欲を見せてくれた。
「良かった。じゃあ、これをやってみよう」
視察担当者が机の上に広げていた紙や道具の中から、エメラルドグリーンの小石を取って僕たちの足許に置いた。
「手を翳して、この石を浮かせてみてくれるかな?」
「…………」
アルフェが無言で僕の後ろに下がる。……ということは、僕が先にやるしかなさそうだ。小石を浮かせてというテストだから、このエメラルドグリーンの石は『浮遊石』という魔導エネルギーに反応する石だ。アルフェなら、手を翳して石を浮かせるイメージを持つだけで難なく浮かせることができるだろう。
――それで、僕はどのくらい浮かせたらいいのかな?
アルフェより前だから、あまり目立ちたくないけれど、実力がないと思われるとせっかくの機会をふいにしてしまいそうだ。悩んだあげく、僕は自分の目の高さに浮遊石を浮かせて見せた。
「……ほう。これは見事だ。君にも素質があるんだね」
視察担当者が感心した様子で僕を見つめる。僕は微笑んで後ろに下がり、アルフェと入れ替わった。
「アルフェのばん。できる?」
「する」
僕の問いかけにアルフェが頷き、浮遊石に手を翳す。その瞬間、エメラルドグリーンの石が内側から光り輝いたかと思うと物凄い勢いで跳ね上がり、天井に当たって落ちてきた。
「はははは、これはすごい。初めてやったんだよね、アルフェちゃん」
「……うん」
大人が好意的に驚いているのがわかるのか、アルフェも少し緊張を解いている。視察担当者はその変化を逃さずに、次のテストを持ちかけた。
「せっかくだから、これもやってみようか」
そうして渡されたのは、文字と数の簡単なテストだった。文字と絵の組み合わせを結ぶ、数を数えるだけというもので、設問の数は少し多くて面倒だが、算術を使えば難なく解ける。
セント・サライアス小学校は名門らしいし、全問正解出来る子供がいてもおかしくないだろうと考えたが、僕が解き終わってもアルフェはまだ苦戦しているようだった。
そう言えば本はよく読むけれど、数や算術の話はしなかったな。アルフェにも少し勉強してもらって、僕だけ目立たないようにした方が良いかもしれない。そんなことを考えながらアルフェをちらちらと見ていると、視察担当者が僕の傍に寄ってきた。
「お嬢ちゃん、もう終わったかい?」
「はい……」
検算までしているので完璧だと思うが、一応自信なさげに見せてみる。
「……へぇ。大したものだ……。君は数字が好きなんだね」
好きで片付けられたが、前世でもこのぐらいは別に普通に解けていたと思う。
「アルフェもおしまい」
曖昧に笑っていると、テストに飽きたらしいアルフェが途中で切り上げてしまった。それでもちらりと見た回答用紙は半分以上が埋まっているように見えた。
「どうもありがとう。よく頑張ってくれたね」
テストを終えた視察担当者は、僕とアルフェを非常に優秀だと評して帰っていった。
◇◇◇
視察から数日後、両親の元に僕を特待生としてセント・サライアス小学校に迎えたいという話が持ち込まれた。同じ報せはクリフォート家にももたらされ、アルフェと僕はまずはセント・サライアス小学校付属幼稚園に入園することが決定された。
託児所からセント・サライアス小学校付属幼稚園の入園手続きが進められたのは、僕とアルフェが四歳になってからのこと。
テスト自体は文句なしで入園という運びになったのだが、入園前面接で僕がルドラとナタル夫妻の養子と間違えられたのが原因で、入園が予定よりも遅くなってしまった。
「リーフは気にしないで、好きなようにお喋りしていいからね」
「お前さえよければ、もっと普通に呼んでいいんだぞ、リーフ」
さすがに僕の敬語と、父上、母上という呼び方が原因で養子と間違われるとは思っていなかったらしいが、父と母はそれぞれに笑いながらそう話してくれたのは幸いだった。
それにしても、両親に敬意を払って敬語で呼ぶのは、そんなにおかしなことなのだろうか?
今更、アルフェのようにパパ、ママと呼ぶのも気が引けるし、こればかりは周囲の大人に対しても敬語で統一して乗り切るしかないな。しかし、子供に対してはどう振る舞うのが正解なのだろうか。
少なくとも、アルフェは……敬語でいきなり話しかけたら、きっと嫌がるだろうな。
自分から視線が逸らされたことで、アルフェも落ち着いてきた。まだ僕の服の端を引っ張ってはいるが。
「あれなに?」
「テストだって。面白そうだね」
アルフェに興味が湧いたのは好ましい変化だ。僕も興味があるよ、と主張して囁いてみると、アルフェもこくりと頷いた。
「僕が見てきてあげる」
「うん……」
自分から行くのはまだ難しいらしいが、僕が行くのは許可してくれた。アルフェが服から手を離してくれるのを待ち、僕は視察担当者の元へと子供らしいとてとてとした歩みを意識して近づいた。
「見てもいい?」
「あ、ああ……」
足音をなるべく立てて近づいたので、ちゃんと視察担当者にも気づいてもらえた。
「君にはちょっと難しいかもね」
そう言いながら視察担当者がテスト用紙を見せてくれる。設問は幼児語で書かれているが、要するに数を数えよ、という問題でごく簡単な算術テストだった。
「へーき。こたえは25でしょ?」
「……君は……?」
視察担当者が驚いた目で僕を見る。やり過ぎたかと思ったが、すぐに驚愕だけではなく興味の色が浮かんでいるのに気がついた。
「それ、僕もやりたいな」
そうアピールして、アルフェを振り返る。
「……アルフェも」
意図をちゃんと汲み取ってくれたらしく、僕がやるなら、とアルフェも意欲を見せてくれた。
「良かった。じゃあ、これをやってみよう」
視察担当者が机の上に広げていた紙や道具の中から、エメラルドグリーンの小石を取って僕たちの足許に置いた。
「手を翳して、この石を浮かせてみてくれるかな?」
「…………」
アルフェが無言で僕の後ろに下がる。……ということは、僕が先にやるしかなさそうだ。小石を浮かせてというテストだから、このエメラルドグリーンの石は『浮遊石』という魔導エネルギーに反応する石だ。アルフェなら、手を翳して石を浮かせるイメージを持つだけで難なく浮かせることができるだろう。
――それで、僕はどのくらい浮かせたらいいのかな?
アルフェより前だから、あまり目立ちたくないけれど、実力がないと思われるとせっかくの機会をふいにしてしまいそうだ。悩んだあげく、僕は自分の目の高さに浮遊石を浮かせて見せた。
「……ほう。これは見事だ。君にも素質があるんだね」
視察担当者が感心した様子で僕を見つめる。僕は微笑んで後ろに下がり、アルフェと入れ替わった。
「アルフェのばん。できる?」
「する」
僕の問いかけにアルフェが頷き、浮遊石に手を翳す。その瞬間、エメラルドグリーンの石が内側から光り輝いたかと思うと物凄い勢いで跳ね上がり、天井に当たって落ちてきた。
「はははは、これはすごい。初めてやったんだよね、アルフェちゃん」
「……うん」
大人が好意的に驚いているのがわかるのか、アルフェも少し緊張を解いている。視察担当者はその変化を逃さずに、次のテストを持ちかけた。
「せっかくだから、これもやってみようか」
そうして渡されたのは、文字と数の簡単なテストだった。文字と絵の組み合わせを結ぶ、数を数えるだけというもので、設問の数は少し多くて面倒だが、算術を使えば難なく解ける。
セント・サライアス小学校は名門らしいし、全問正解出来る子供がいてもおかしくないだろうと考えたが、僕が解き終わってもアルフェはまだ苦戦しているようだった。
そう言えば本はよく読むけれど、数や算術の話はしなかったな。アルフェにも少し勉強してもらって、僕だけ目立たないようにした方が良いかもしれない。そんなことを考えながらアルフェをちらちらと見ていると、視察担当者が僕の傍に寄ってきた。
「お嬢ちゃん、もう終わったかい?」
「はい……」
検算までしているので完璧だと思うが、一応自信なさげに見せてみる。
「……へぇ。大したものだ……。君は数字が好きなんだね」
好きで片付けられたが、前世でもこのぐらいは別に普通に解けていたと思う。
「アルフェもおしまい」
曖昧に笑っていると、テストに飽きたらしいアルフェが途中で切り上げてしまった。それでもちらりと見た回答用紙は半分以上が埋まっているように見えた。
「どうもありがとう。よく頑張ってくれたね」
テストを終えた視察担当者は、僕とアルフェを非常に優秀だと評して帰っていった。
◇◇◇
視察から数日後、両親の元に僕を特待生としてセント・サライアス小学校に迎えたいという話が持ち込まれた。同じ報せはクリフォート家にももたらされ、アルフェと僕はまずはセント・サライアス小学校付属幼稚園に入園することが決定された。
託児所からセント・サライアス小学校付属幼稚園の入園手続きが進められたのは、僕とアルフェが四歳になってからのこと。
テスト自体は文句なしで入園という運びになったのだが、入園前面接で僕がルドラとナタル夫妻の養子と間違えられたのが原因で、入園が予定よりも遅くなってしまった。
「リーフは気にしないで、好きなようにお喋りしていいからね」
「お前さえよければ、もっと普通に呼んでいいんだぞ、リーフ」
さすがに僕の敬語と、父上、母上という呼び方が原因で養子と間違われるとは思っていなかったらしいが、父と母はそれぞれに笑いながらそう話してくれたのは幸いだった。
それにしても、両親に敬意を払って敬語で呼ぶのは、そんなにおかしなことなのだろうか?
今更、アルフェのようにパパ、ママと呼ぶのも気が引けるし、こればかりは周囲の大人に対しても敬語で統一して乗り切るしかないな。しかし、子供に対してはどう振る舞うのが正解なのだろうか。
少なくとも、アルフェは……敬語でいきなり話しかけたら、きっと嫌がるだろうな。
1
あなたにおすすめの小説
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる