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第二章 誠忠のホムンクルス
第62話 セント・サライアス中学校
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セント・サライアス中学校の校門に、龍樹の紅色の花びらが降り注いでいる。校門前には、僕たちの入学を祝う上級生らが集まり、ひとりひとりに龍樹の花を模して作られた花飾りを手渡している。
「お揃いだね、リーフ」
胸元に花飾りをつけたアルフェが、嬉しそうに足を弾ませている。新入生代表の挨拶で緊張しているかと思ったが、小学校の頃とは違い、アルフェは思った以上に堂々としていた。
「……まあ、花飾りをつけているのが新入生ってことなんだから、僕たちみんながお揃いなんじゃないかな?」
「む~~~っ」
そう指摘すると、アルフェは小さく唸るような声を漏らして、その場に立ち止まった。
「……じゃあ、こうする」
植え込みの上に落ちてきた龍樹の花を集め、アルフェが唇の中で詠唱する。
「なにを――」
「はい、できた」
アルフェが手のひらを開くと、そこにはハートの形に編まれた輪のようなものが二本出来上がっていた。
「これで、ワタシとリーフだけのお揃いでしょ?」
「……まったく、アルフェには敵わないな」
思いついたものをすぐに形に出来る想像力と魔法の実力、それを行使出来るだけのエーテルを持ち合わせているのもさすがだ。感心して頷くと、アルフェは得意気に微笑んで僕の腕を絡め取った。
「この調子で、入学式の大役も任せたよ」
「うん。約束だからね」
アルフェが僕の頭に頬を擦り寄せてくる。昔から頬を擦り寄せる癖があったけれど、身長差がここまでくると、そろそろ帽子に摩擦防止の加工を施しておいた方がいいだろうな。
そんなことを考えていると、背後から覚えのある声が聞こえて来た。
「……仲睦まじくて微笑ましいことですね、アルフェ、リーフ」
「アナイス先生! リオネル先生も!」
いち早く気配に反応して振り向いたアルフェが、弾んだ声を出す。
「入学式の式典に参加されるんですか?」
アルフェの問いかけにアナイス先生は深く頷き、穏やかな口調で続けた。
「ええ。この春から、こちらで教鞭を振るうことになりました」
「え……? それって……」
「今日からまたよろしくお願いしますね」
思いがけない報告に驚く僕とアルフェに微笑みかけながら、アナイス先生とリオネル先生が頭を垂れる。僕たちも倣って頭を垂れた。
「優秀なあなたたちの成長を間近で見ることが出来て、とても嬉しいです。……あ……」
そこまで言って、リオネル先生が気まずそうに口を噤む。
「……リーフ」
「はい」
多分、僕のエーテル過剰生成症候群のことだろうな。表情から察しがついたので、僕も神妙な顔をして先生たちと目を合わせた。
「話は聞いております。私たちも出来る限りのサポートをしますので、なにかあれば些細なことでも話してください」
小学校からずっと僕たちの成長を見ているアナイス先生とリオネル先生がいるのなら、中学校生活も心強い。もしかして、僕の話を聞いて急遽決まったという話だとすれば、僕とアルフェはとんでもない期待を受けているのかもしれないけれど。
「……わかりました、ありがとうございます」
全てが推測にしか過ぎないのだから、子供らしく振る舞っておこう。有り難いと思う気持ちには、変わりがないのだから。
「お揃いだね、リーフ」
胸元に花飾りをつけたアルフェが、嬉しそうに足を弾ませている。新入生代表の挨拶で緊張しているかと思ったが、小学校の頃とは違い、アルフェは思った以上に堂々としていた。
「……まあ、花飾りをつけているのが新入生ってことなんだから、僕たちみんながお揃いなんじゃないかな?」
「む~~~っ」
そう指摘すると、アルフェは小さく唸るような声を漏らして、その場に立ち止まった。
「……じゃあ、こうする」
植え込みの上に落ちてきた龍樹の花を集め、アルフェが唇の中で詠唱する。
「なにを――」
「はい、できた」
アルフェが手のひらを開くと、そこにはハートの形に編まれた輪のようなものが二本出来上がっていた。
「これで、ワタシとリーフだけのお揃いでしょ?」
「……まったく、アルフェには敵わないな」
思いついたものをすぐに形に出来る想像力と魔法の実力、それを行使出来るだけのエーテルを持ち合わせているのもさすがだ。感心して頷くと、アルフェは得意気に微笑んで僕の腕を絡め取った。
「この調子で、入学式の大役も任せたよ」
「うん。約束だからね」
アルフェが僕の頭に頬を擦り寄せてくる。昔から頬を擦り寄せる癖があったけれど、身長差がここまでくると、そろそろ帽子に摩擦防止の加工を施しておいた方がいいだろうな。
そんなことを考えていると、背後から覚えのある声が聞こえて来た。
「……仲睦まじくて微笑ましいことですね、アルフェ、リーフ」
「アナイス先生! リオネル先生も!」
いち早く気配に反応して振り向いたアルフェが、弾んだ声を出す。
「入学式の式典に参加されるんですか?」
アルフェの問いかけにアナイス先生は深く頷き、穏やかな口調で続けた。
「ええ。この春から、こちらで教鞭を振るうことになりました」
「え……? それって……」
「今日からまたよろしくお願いしますね」
思いがけない報告に驚く僕とアルフェに微笑みかけながら、アナイス先生とリオネル先生が頭を垂れる。僕たちも倣って頭を垂れた。
「優秀なあなたたちの成長を間近で見ることが出来て、とても嬉しいです。……あ……」
そこまで言って、リオネル先生が気まずそうに口を噤む。
「……リーフ」
「はい」
多分、僕のエーテル過剰生成症候群のことだろうな。表情から察しがついたので、僕も神妙な顔をして先生たちと目を合わせた。
「話は聞いております。私たちも出来る限りのサポートをしますので、なにかあれば些細なことでも話してください」
小学校からずっと僕たちの成長を見ているアナイス先生とリオネル先生がいるのなら、中学校生活も心強い。もしかして、僕の話を聞いて急遽決まったという話だとすれば、僕とアルフェはとんでもない期待を受けているのかもしれないけれど。
「……わかりました、ありがとうございます」
全てが推測にしか過ぎないのだから、子供らしく振る舞っておこう。有り難いと思う気持ちには、変わりがないのだから。
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