アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第二章 誠忠のホムンクルス

第69話 三級錬金術検定試験

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 三級錬金術検定試験は、十月末に行われた。

 合格ラインは八割の正答率だということなので、気負わずに受けることにした。恐らく満点だとしても、セント・サライアス中学校の特待生という立場なら大人たちにも受け入れてもらえるだろう。

 試験結果通知書が届いたのは、十二月に入ってからだった。

「リーフに手紙が届いているわよ」
「ありがとうございます、母上」

 白い封筒には赤い封蝋が施されている。顔のような少し変わった紋章は、錬金術協会の紋章かなにかなのかもしれない。ひとまず上部を破って開封することにして、指先に力を込めたその時。

「ちょっとちょっと、合格通知表なんだから破るんじゃないよ!」

 封筒から声がした。

「まったく、最近の若者は封筒を持つとすぐ破ろうとするんだから」

 封蝋の形が歪んで、顔に似た紋章が怒っているように見える。

「封蝋に簡易術式が仕込んであったみたいね」

 似たものを見たことがあるらしく、母が驚きながら苦笑を浮かべている。

「なるほど。これも試験みたいなものなんですね、母上」

 まあ、僕のエーテル量だと、封蝋に触れていないのに簡易術式が反応してしまったというところだろうな。封蝋はそんなことは気にしていない様子で、伸びをするようにして封の位置をずらし、中の書類が見えるようにした。

「えー、おほん。受験番号07、リーフ・ナーガ・リュージュナ。この度の三級錬金術検定にて大変優秀な成績を修めたため、汝を三級錬金術師に認定する――」

 封蝋が言い終わったので、中の書類に手を触れると、白い煙が爆ぜた。

「……わっ!」

 手許の封書が、いつのまにか三級錬金術師の認定証に変わっている。あの封蝋は、僕の受験番号に変化して認定証に貼り付いていた。

 どう反応すべきか迷ったが、ここは子供らしくなにか感想を述べておいた方がいい気がする。

「面白い仕掛けですね、母上」

 当たり障りのない感想を述べながら認定証を母に見せると、母は不思議そうに首を傾げながら認定証を引き取った。

「……ママの時はこんなんじゃなかったけど……。最近の合格通知は、随分変わっているのね」

 確かにあの封蝋は、ふざけた感じだったけど、この機能を全部簡易術式で組み立てているのだから、よくできているな。

「……なんだなんだ、随分賑やかな声が聞こえてきたが――」

 封蝋の声が大きかったこともあり、夜勤から戻ってきていた父が起きてきた。

「ルドラ見て! リーフが三級錬金術検定試験に合格したの!」
「すごいぞ! やはりリーフは天才だな!」

 眠気や疲れなど吹き飛んでしまったように目を輝かせて、僕以上に父が喜んでいる。封蝋の簡易術式や認定証の仕掛けに驚いていた母も、僕の合格を改めて喜んでくれた。

「中学校在学中に認定を受けるなんて、セント・サライアス中学校初なのよね。本当にすごいわ、リーフ」
「まだ開校して間もないので、たまたまタイミングが良かっただけですよ」
「その謙虚なところも、ナタルに似て非常に良いな、リーフ」

 謙遜する僕の目を見て、父が目許を綻ばせる。いつものように頭を撫でようとしたらしかったが、伸ばしかけた手はそっと引っ込められた。

「……父上、いつものように褒めてくれませんか?」

 きっと僕の背が伸びないこともあって、いつまでも子供扱いしてはならないと気にしているんだろうな。けれど、僕はなんとも思わないので、父や母の好きにしてもらう方がいい。

「ふふふっ、私が先にやっちゃうわよ。リーフはいいこね。本当に賢くて、優しくて、私たちの誇りだわ」
「ああ、この上なく恵まれているな、我々は」

 母に続いて父が僕の頭を撫でてくれる。頼もしく優しくあたたかい二人の手にこうされていると、悪い気はしない。

「光栄です、母上、父上」

 自然とこぼれる笑顔を向けると、二人も笑顔で微笑み返してくれた。

 ――ああ、これが家族だ。家族としての幸せなんだ。

 養父フェイルからは決して向けられなかった心からの笑顔を、僕は望むままに享受している。

「……ところで、リーフ。この試験を受けたからには、なにかやりたいことがあるのよね?」
「……はい、母上。実は、ホムンクルスを作り、家で所有したいと考えています。どうでしょうか?」

 なるべく自分の感情を込めずに、希望だけを伝えてみる。

「家族が増えるのは良いことね」
「そうだな。もう少し賑やかでもいいぐらいだ」

 両親は理由を聞くことすらせずに、僕の意向を尊重してくれた。

「……これで、リーフもお姉さんになるな」
「何故です? 僕が作るなら娘でしょう?」

 父の発言に首を傾げ、問い返す。

「そ、そうか……。それもそうだな……」

 単純に疑問なだけだったのだが、僕の発言のせいか少々微妙な空気になった。理由はよくわからないけれど、僕はなにか変なことを言ってしまったのかもしれない。

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