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第三章 暴風のコロッセオ

第123話 F組の代表

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 出身地や趣味などを交えた簡単な自己紹介を終えると、クラスメイトたちがおよそ把握できた。

 やる気満々で一番前の席を陣取っているヴァナベルとヌメリンは、小学校の頃からの親友らしく、幸いなことに僕ともアルフェとも専攻が異なる軍事科だ。

 小人族のロメオと獣牙族ルナールで狐の尻尾を持つアイザックもどうやら幼馴染みらしい。彼らは僕と同じ工学科なので、覚えておいて損はないだろう。

 工学科は、他にはアンリという顔に豹の模様がある丸眼鏡の猫人族がいるのを覚えたが、あとは追い追い覚えていけばいいだろう。

 アルフェはリリルルにすっかり気に入られたようで、自己紹介でもエルフ同盟を結んだ仲間であることが述べられていた。あの奇妙な踊りを始めようとしたところで、タヌタヌ先生に止められているところを見るに、やはりかなり変わったタイプなのは間違いなさそうだ。

 最後に教室の入り口側の最後尾に座っていたギードという熊の獣牙族が、およそその巨大な体躯に似つかわしくない気弱な様子で自己紹介をし、いよいよクラス委員長を決めることになった。

「さて、今から決めるクラス委員長だが、1年F組を代表する重要な――」
「じゃあ、オレがやる!」

 タヌタヌ先生の説明を遮り、ヴァナベルがクラス委員長に立候補する。どうやら人の話を最後まで聞かないタイプのようだ。

「オレはこのクラスから、この学校を変えてやる。亜人差別なんてクソ食らえだ!」
「ベル~、お口が悪いよぉ」

 立ち上がり、一気にまくし立てるヴァナベルとは対照的なおっとりとした口調で、ヌメリンが諫める。

「けどよ、ヌメ。必死で受験勉強を頑張ってきたってのに、この仕打ちはないぜ。オレはあんま出来が良くねぇから補欠でギリギリってんで、F組なのも分かるけどよぉ。ヌメは違うよなぁ? でもって、てめぇらの中にも違和感を感じてるヤツはいんだろ?」

 ヴァナベルが教室を見渡しながら、一人一人を睨むように見つめてくる。何人かは心辺りがあるらしく、ヴァナベルの告発めいた発言に興味深げな様子だ。

「ヴァナベル、関係ない話は後にするんだ」
「クラスの代表を決めんだから、関係なくねぇよ! 大体、こっちは、寮のお姉様方に聞いて調べはついてんだよ!」

 タヌタヌ先生の制止を聞かずに、ヴァナベルが声を荒らげる。タヌタヌ先生は、やれやれと諦めたように首を振ると、腕組みをして見守る姿勢を見せた。

「違和感の正体は、亜人差別だ。このクラスに入った時点でてめぇらも気づいただろ? 成績順だとかなんとか言いながら、A組は立派なお家柄と人間様ってだけで成績関係なく入ってんだぞ? このクラスはその逆なんだよ!」

 まあ、それはそうなのだろう。事実、A組に振り分けられたグーテンブルク坊やの家は、新入生代表の挨拶に名を連ねられていたぐらいだしな。

「言いたいことは、それだけか、ヴァナベル?」

 タヌタヌ先生が眉を持ち上げて、ヴァナベルに問いかける。

「まあ、そんなとこだな」

 ヴァナベルは一通り言いたいことを言い終えた様子で頷き、教室を見渡した。

「だからオレは、この亜人差別に真っ向から反抗する。クラス委員長になるのは、そのための大事な手段だ。……で、他に立候補するヤツはいるか!? いねぇよなぁ!?」

 ヴァナベルのあまりの勢いに、クラスメイトたちは圧倒されている。ここで対抗してクラス委員長に立候補するようなタイプは、このクラスにはいないようだ。まあ、僕もそんな面倒な役は御免だが。

「ヌメ」
「あ~い」

 沈黙を賛成票と受け取ったヴァナベルが、ヌメに合図する。ヌメは手を挙げて立ち上がると、クラス委員長とタヌタヌ先生が書いた隣に、ヴァナベルの名前を書いた。

「じゃあさ、選ぶ時間が省けたってことで、オレの話を聞いてくれよ」

 ヴァナベルは満足げにその名を眺め、教壇へと進む。タヌタヌ先生も諦めた様子で、ヴァナベルがしたいように任せている。

「この差別は、去年から教頭が始めたんだ。こんな状況だって知ってたら、オレもヌメも来なかったよ。だって、ここは歴史と教育への誇りがあるすげぇ学校だっていうから来たんだぜ。なのに、なんだっていうんだよ!」

 感情的に訴えるヴァナベルに、クラスメイトたちが同意を示している。

「……つまり、君が言いたいのは、この学校の一部の教員が貴族生徒を優遇し、身分制度を前提にして不当に亜人を見下そうとしている……そういうことだな?」

 なにか思うところがあったのか、最後尾席のギードが挙手し、よく通る低い声で訊ねた。自己紹介の時は気弱そうな印象だったが、案外見た目通りの態度を取ることもあるのかもしれないな。

「そうだ! オレはあいつらを見返したい。実力のある人間こそがトップに立ち、評価されるべきだ」

 体格に恵まれたギードが味方についたとばかりに、ヴァナベルが声を大にする。彼女の発言に、クラスメイトたちから疎らな拍手が起こり始め、それは次第に大きなものへと変わっていった。

 僕もアルフェとグーテンブルク坊やとの一件で経験があるが、ここにいるクラスメイトたちは、少なからず差別的な扱いを受けたことがあるのだろうな。

 しかし、なにやら面倒なことになりそうだ。僕は人間ではあるけれど、同じクラスである以上、巻き込まれるのは時間の問題か。

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