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第三章 暴風のコロッセオ

第128話 中間成績発表

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 カナルフォード高等教育学校に入学してから、一週間が過ぎた。

 座学は前世の知識とセント・サライアスでの蓄積もあり、これまで同様難なくこなせてはいるが、タヌタヌ先生の軍事訓練と、マチルダ先生の魔法学の実践はついていくことすらかなり困難だった。

 入学前にエーテル過剰生成症候群の診断書と、身体計測の証明書を提出していることもあり、タヌタヌ先生に相談して軍事訓練の負荷を減らしてもらったところまではよかったのだが――

「……はぁ。どっかのちんちくりんが最下位かぁ。まあ、そうなるよなぁ」

 これ見よがしな嫌味を大声で言っているのは、ヴァナベルだ。

 入学後一週間というこの節目に、軍事訓練と魔法学の成績が中間発表として校舎のエントランスホールに貼り出されている。

 来月末にはクラス対抗の模擬演習があるため、互いの実力を広く認知させることが目的のようだ。

「ベル~。誰かは必ず最下位になるんだから、そんな言い方はしちゃダメだよ」

 おっとりとヴァナベルをたしなめているのは、彼女の親友のヌメリンだ。

「けどよぉ、せっかくF組がリードしてるっていうのに、あいつが足を引っ張ってるんだぜ?」

 ヴァナベルがちらちらとこちらの様子を窺いながら、挑発的に訴えている。

「……黙らせてきましょうか、マスター」

 ホムがヴァナベルを睨むように見つめながら、低く呟くように聞いてくる。相手にするだけ時間の無駄だと、僕は首を横に振った。

 まあ、言い方はどうあれ、事実僕は最下位なのだし、許可を得ているとはいえ軍事訓練の負荷を減らしているということは加点対象にはならないということだ。ヴァナベルの文句も一理ある。

 軍事訓練の負荷をクラスメイトたちが日に日に上げていることもあり、F組における加点は大きい。

 魔法学の授業でも、アルフェとリリルルの成長にマチルダ先生が闘争心を刺激されているほどだし、このまま六クラスの首位を独走することを考えると、許可を得て負荷を減らしてもらっている僕は、加点の見込みがないお荷物扱いになるだろうな。

「ははっ、それにしてもA組の坊ちゃん嬢ちゃんたちは、大したことなかったなぁ」

 僕があまりにも相手にしないので飽きたのか、ヴァナベルが標的をA組に変える。ここぞとばかりに声を大にしたのは、新入生代表も務めた青髪のリゼルが近くに来ていたからだろう。

「ハッ! これはこれは亜人ばかりF組のクラス委員長。野蛮で怪力の連中が集まっていることを知らしめられて、さぞかし気分がいいでしょう」
「おおっ? 負け犬の遠吠えかぁ? 魔法学の方でもかなりの差がついてるけどなぁ?」
「内訳を見れば、ずばぬけて優秀なのは上位三名。しかも全員がエルフじゃないか」

 ヴァナベルの挑発を受けて、リゼルが苛立ったように足を鳴らしている。

「おやぁ? クラス分けは成績順なんだろ? だったら、入学試験時の実力はA組が上のはずなんだがなぁ? それともなんだ? 貴族様のえこひいきでA組にしてもらってるって教えてくれてんのか?」
「なんだと!?」

 畳みかけるヴァナベルにリゼルが掴みかかる。ヴァナベルはその手から素早く逃れ、にやにやとリゼルを見下ろした。

「入学試験は一発勝負。けど、入学はゴールじゃねぇよな? どっちが本当に優秀なのか、こりゃ今後が見物だよなぁ?」
「……っ」

 ヴァナベルの挑発的な発言に、リゼルが歯を食いしばって耐えている。生徒が多く集まるこの場でやり合うのは不利だと判断したのだろう。貴族として育てられただけあって、自分の身の振り方にはそれなりに気をつけているようだ。

「……ん? 都合が悪くなるとだんまりかぁ? なんとか言えよ」
「……全ては、月末の模擬演習で明らかになる。我がA組の勝利を目の当たりにするといい」

 リゼルが凛とした声で言い切ると、生徒の中から拍手が起こる。多くはA組だったが、B組からE組の生徒のほとんどがその発言に同調していた。文化の違いと言えばそうなのだが、貴族社会というのは、こちらが思っているよりもかなり根強いものがあるようだ。

 しかし、こうして本来の実力の程度が認知されたとはいえ、この調子だとますますF組が孤立しそうだな。
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