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第三章 暴風のコロッセオ
第129話 初めての模擬戦
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軍事訓練と魔法学の授業の成績発表があったその日。
一限目の軍事訓練は、魔法学と同じ港近くの演習場へと変更された。
「場所が変わると、なんだかドキドキしちゃうね。今日は何をやるんだろう?」
「んー、ギードがなにか準備してるし、模擬戦とかかな?」
落ち着かない様子のアルフェに、ファラが注意深く周りを観察しながら答える。ファラの視線を追うと、クラスで一番の力持ちである熊人族のギードが、黙々と武器らしきものを運び込んでいるのが見えた。
それにしても自主的にやっているみたいだが、毎回一人でやるのは骨が折れるだろうに。
「手伝ってまいります」
「ああ、頼むよ、ホム」
僕の表情で察したのか、ホムが手伝いを申し出てギードの元へと走った。基本的に寡黙な者同士ということもあり、ギードもさして戸惑う様子もなくホムの手伝いを受け入れている。
干渉されるのを嫌うタイプではないようだから、多分僕やホムと同じように一人でも気にならないのだろうな。それとなく世話を焼いてくれるのは、世話を焼かれるのが好きではないことの裏返しなのかもしれない。
一週間も同じクラスにいると、クラスメイトの特徴が少しずつわかってくる。まだまだ顔と名前が一致しない生徒も多いが、今のところは必要に応じて覚えれば問題なさそうだ。
とはいえ、来月末のクラス対抗模擬演習のことを考えると、ある程度覚えておかないといざというときに困るかもしれないな。多分、アルフェと一緒に居る限りはその心配もないのかもしれないけれど。
「おー、揃ってるな!」
陽気な低い声とともに、タヌタヌ先生が演習場にやってくる。軍服からはみ出した尻尾が左右に大きく揺れているところを見ると、かなり機嫌が良さそうだ。
「さて、中間発表のとおり、基礎訓練はあれで終わりだ。今日からは、各々の能力を踏まえて、模擬戦を行う」
「待ってたぜ!」
タヌタヌ先生が言い終わるか終わらないかのうちに、勢い良く挙手したのはヴァナベルだった。
「オレは、コイツとやる!」
意気揚々とヴァナベルが指名したのはこの僕だ。
「え……?」
僕より早くアルフェが反応し、続いてクラスメイトたちもざわざわとざわめきだした。
「……ヴァナベル、わしの話を聞いていないな?」
「聞いてるってば、タヌタヌ先生。模擬戦をやるんだろ?」
「ベル~、『各々の能力を踏まえて』が抜けてるよぉ~」
タヌタヌ先生の指摘を理解していない様子のヴァナベルに、ヌメリンが丁寧に補足する。
だが、ヴァナベルは納得いかない様子で僕を指差し続けた。
「はぁ!? けど、そんなこと言ったら、コイツはせいぜいロメオかアイザックとしか戦えねぇぜ。オレが直々に根性叩き直してやる!」
「身体能力の差をわきまえろ、ヴァナベル」
タヌタヌ先生が厳しい声音で叱責し、ロメオとアイザックがそれぞれ嫌悪の視線を向ける。
さすがにクラス委員長としての自覚はあるのか、ヴァナベルは肩を竦めて溜息を吐き、僕から視線を逸らした。
「はいはい。クラス委員長ともあろう者が、弱い者イジメなんてするわけねぇだろ。ちんちくりんは、相手がいなくて可哀想でちゅねぇ~」
はぁ……ヴァナベルは、どこまでも僕を馬鹿にしたいらしいな。もう面倒なので好きにさせておこう。
「ここはお任せください」
そう思った矢先、ホムが険しい顔でヴァナベルの前に進み出た。
「それでは、マスターの代わりにわたくしがお相手します。模擬戦はクラス対抗……わたくしがマスターの分も働けば、誰にも文句は言わせません」
感情抑制が働いているとはいえ、元々あまり抑揚がないホムの話し方は、聞き手によってはかなりの怒りを感じそうだな。実際、今のホムは僕のために怒っているのだろうけれど。
「ほら~、ホムちゃんが怒ってるよ、ベル~」
「別に怖かねぇし!」
「そういう問題じゃなくてぇ~。謝りなよぉ~」
ヴァナベルの親友ではあるが、ヌメリンは常識人のようだ。
「……ヴァナベルとホムか……」
しばらく黙っていたタヌタヌ先生が、唸るような声を出す。クラスメイトの視線はタヌタヌ先生へと戻った。
「まあ、いいだろう。許可する」
「さっすがタヌタヌ先生、話が通じるぜ!」
ヴァナベルは小躍りして、武器をのせた荷車へと走って行こうとしたが、それをヌメリンが慌てて引き止めた。
「まだ続きがあるよ、ベル~」
「今回は、来月末の模擬演習に備えてペア戦とする」
「あいよ! そんじゃ、オレはヌメと組むぜ!」
「あい~」
指名されるのがわかっていたようで、ヌメリンが特に嫌がる様子もなく承諾する。
そうなると問題は、ホムと組む相手ということになるのだが……。
「じゃあ、ホムちゃんは、ワタシと組めばいいかな?」
「初回は魔法は禁止にする。そうなると、アルフェはヌメリンと実力差がありすぎるな」
タヌタヌ先生が、困った様子で腕組みをする。それは僕たちも同じだった。
「……いかがいたしましょう、マスター?」
迷う僕たちに救いの手を差し伸べてきたのは、ファラだった。
「あたしがホムと組むよ。ちょっと思うところもあるからさ」
「ありがとう、ファラ」
一限目の軍事訓練は、魔法学と同じ港近くの演習場へと変更された。
「場所が変わると、なんだかドキドキしちゃうね。今日は何をやるんだろう?」
「んー、ギードがなにか準備してるし、模擬戦とかかな?」
落ち着かない様子のアルフェに、ファラが注意深く周りを観察しながら答える。ファラの視線を追うと、クラスで一番の力持ちである熊人族のギードが、黙々と武器らしきものを運び込んでいるのが見えた。
それにしても自主的にやっているみたいだが、毎回一人でやるのは骨が折れるだろうに。
「手伝ってまいります」
「ああ、頼むよ、ホム」
僕の表情で察したのか、ホムが手伝いを申し出てギードの元へと走った。基本的に寡黙な者同士ということもあり、ギードもさして戸惑う様子もなくホムの手伝いを受け入れている。
干渉されるのを嫌うタイプではないようだから、多分僕やホムと同じように一人でも気にならないのだろうな。それとなく世話を焼いてくれるのは、世話を焼かれるのが好きではないことの裏返しなのかもしれない。
一週間も同じクラスにいると、クラスメイトの特徴が少しずつわかってくる。まだまだ顔と名前が一致しない生徒も多いが、今のところは必要に応じて覚えれば問題なさそうだ。
とはいえ、来月末のクラス対抗模擬演習のことを考えると、ある程度覚えておかないといざというときに困るかもしれないな。多分、アルフェと一緒に居る限りはその心配もないのかもしれないけれど。
「おー、揃ってるな!」
陽気な低い声とともに、タヌタヌ先生が演習場にやってくる。軍服からはみ出した尻尾が左右に大きく揺れているところを見ると、かなり機嫌が良さそうだ。
「さて、中間発表のとおり、基礎訓練はあれで終わりだ。今日からは、各々の能力を踏まえて、模擬戦を行う」
「待ってたぜ!」
タヌタヌ先生が言い終わるか終わらないかのうちに、勢い良く挙手したのはヴァナベルだった。
「オレは、コイツとやる!」
意気揚々とヴァナベルが指名したのはこの僕だ。
「え……?」
僕より早くアルフェが反応し、続いてクラスメイトたちもざわざわとざわめきだした。
「……ヴァナベル、わしの話を聞いていないな?」
「聞いてるってば、タヌタヌ先生。模擬戦をやるんだろ?」
「ベル~、『各々の能力を踏まえて』が抜けてるよぉ~」
タヌタヌ先生の指摘を理解していない様子のヴァナベルに、ヌメリンが丁寧に補足する。
だが、ヴァナベルは納得いかない様子で僕を指差し続けた。
「はぁ!? けど、そんなこと言ったら、コイツはせいぜいロメオかアイザックとしか戦えねぇぜ。オレが直々に根性叩き直してやる!」
「身体能力の差をわきまえろ、ヴァナベル」
タヌタヌ先生が厳しい声音で叱責し、ロメオとアイザックがそれぞれ嫌悪の視線を向ける。
さすがにクラス委員長としての自覚はあるのか、ヴァナベルは肩を竦めて溜息を吐き、僕から視線を逸らした。
「はいはい。クラス委員長ともあろう者が、弱い者イジメなんてするわけねぇだろ。ちんちくりんは、相手がいなくて可哀想でちゅねぇ~」
はぁ……ヴァナベルは、どこまでも僕を馬鹿にしたいらしいな。もう面倒なので好きにさせておこう。
「ここはお任せください」
そう思った矢先、ホムが険しい顔でヴァナベルの前に進み出た。
「それでは、マスターの代わりにわたくしがお相手します。模擬戦はクラス対抗……わたくしがマスターの分も働けば、誰にも文句は言わせません」
感情抑制が働いているとはいえ、元々あまり抑揚がないホムの話し方は、聞き手によってはかなりの怒りを感じそうだな。実際、今のホムは僕のために怒っているのだろうけれど。
「ほら~、ホムちゃんが怒ってるよ、ベル~」
「別に怖かねぇし!」
「そういう問題じゃなくてぇ~。謝りなよぉ~」
ヴァナベルの親友ではあるが、ヌメリンは常識人のようだ。
「……ヴァナベルとホムか……」
しばらく黙っていたタヌタヌ先生が、唸るような声を出す。クラスメイトの視線はタヌタヌ先生へと戻った。
「まあ、いいだろう。許可する」
「さっすがタヌタヌ先生、話が通じるぜ!」
ヴァナベルは小躍りして、武器をのせた荷車へと走って行こうとしたが、それをヌメリンが慌てて引き止めた。
「まだ続きがあるよ、ベル~」
「今回は、来月末の模擬演習に備えてペア戦とする」
「あいよ! そんじゃ、オレはヌメと組むぜ!」
「あい~」
指名されるのがわかっていたようで、ヌメリンが特に嫌がる様子もなく承諾する。
そうなると問題は、ホムと組む相手ということになるのだが……。
「じゃあ、ホムちゃんは、ワタシと組めばいいかな?」
「初回は魔法は禁止にする。そうなると、アルフェはヌメリンと実力差がありすぎるな」
タヌタヌ先生が、困った様子で腕組みをする。それは僕たちも同じだった。
「……いかがいたしましょう、マスター?」
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「ありがとう、ファラ」
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