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第三章 暴風のコロッセオ

第152話 飛雷針とホム

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 工学科を専攻する生徒は、プロフェッサーが話していたように錬金術および魔導工学に並々ならぬ興味と探究心を持っている。しかも知識を得ることに貪欲であり、その集中力も人並み外れた持ち主も多い。

 そのせいもあって、初回授業の課題であるオリジナル魔導器の製作も、授業時間を大幅に越えたところで、一旦終了となった。

「明日の授業では、この続きをやります。魔導器の完成に至った諸君は、その考察と改善点をレポートにまとめるように」

 プロフェッサーがそう締めくくって初回の授業は終了となった。

 僕がプロフェッサーの論文を追試するかたちで完成させた『飛雷針ひらいしん』については、用途を聞かれただけだった。完璧な追試と改善点を洗い出した『五輪彩華ごりんさいか』を完成させていれば、もっと突っ込まれたのかも知れないが、生憎と僕の興味はそちらには向かなかった。

 まあ、後から考えればあくまでホムへのプレゼントにしようと考えたのは、不幸中の幸いだったな。

 僕の不注意で、感電という負の経験を共有してしまったホムは、雷属性の魔法を使うことができない。その罪滅ぼしも兼ねて作った魔導器『飛雷針』は、流したエーテルが全て雷属性のエーテルに変換される機能を持つ。これがあれば、ホム一人でも雷鳴瞬動ブリッツ・レイドを使えるはずだ。

 早くホムに見せたくて急いで寮に戻ったが、部屋にホムの姿がなかった。

 浴室から水音がするので、入浴しているのだろう。軍事科の授業も初日からかなりハードだったのだろうな。

「ただいま。今日はどうだった、ホム?」

 部屋に戻ってきたことを知らせつつ、ホムに今日のことを訊ねる。ちょうど全身を洗い終えたホムが、頭にタオルを被って浴室から出て来た。

「実践演習が行われました。先日のクラス対抗戦の小規模版のようなものです」

 髪から落ちる雫で床を濡らさないようにしながら、ホムが着替えを進めて行く。その白い肌には痛々しい赤い筋のようなものが、いくつもついている。

「怪我は――」
「掠り傷程度です」

 僕が心配しているのが伝わったのか、ホムが困ったような笑みを浮かべた。ホムによると武器は訓練用のもの使うようだが、命中すればそれなりに痛いだろう。

「……ホムは誰と組んだんだい?」
「ファラ様とヌメリン、ヴァナベルの四人チームでした」

 三人の名前を出した時、ホムの目許が少しだけ緩んだ。きっと今日の実戦演習で、彼女たちとの仲も深まったのだろうな。

「その様子だと勝てたようだね」
「もちろんです。同学年の中で劣るようでは、上級生に挑むことすら出来ませんので」

 ああ、ホムはすごいな。もう目標を立てて、そこに向かっているんだ。身分と学年という枷があるというのに、実戦演習という実力を発揮する場でそれをひっくり返そうとしている。

「……ついていけそうかい?」

 並々ならぬ苦労があるだろう。けれど、ホムならば乗り越えられる気がした。

「もちろんです」
「それなら良かった」

 どうやらホムも僕と同じ想いだ。僕はホムと顔を見合わせて笑い、まだ濡れているホムの髪を丁寧にタオルで拭いた。

「マスターの初回授業は如何でしたか?」

 僕が拭きやすいように屈んだホムが、興味深げな視線を向けてくる。

「少し時間が掛かったけれどね、これを作ったよ」

 そう言いながら僕が手のひらほどの大きさの鍵の形をして魔導器――飛雷針を差し出すと、ホムは不思議そうに瞬きをしながらそっとそれを手に取った。

「これは?」
「飛雷針だ。興味深い論文を見つけてね、ホムのために作った」
「わたくしのために?」
「そうだよ」

 ホムの手に載る飛雷針に、そっとエーテルを流す。雷の魔石を薄く削り出して加工した花のオブジェが、僕のエーテルに反応して金色に煌めいた。

「この魔導器に流したエーテルは、全て雷属性に変換される。これでホム一人でも雷鳴瞬動ブリッツ・レイドを発動できるはずだよ」
「ありがとうございます。ホムはこれをマスターの贈ってくださったお守りとして、肌身離さず持ち歩きます」

 エーテルに反応する魔石の花びらの輝きを確かめるように、ホムが嬉しそうに飛雷針にエーテルを送っている。

「気に入ってもらえて嬉しいよ。持ち歩くなら首から提げられるようにしておこう」

花びらの輝きは、ホムの送るエーテルに反応して徐々に輝きを増していく。それがとても美しかった。

「それと、対人戦においては充分な威力を発揮するだろうけど、アルフェと二人一組で行うほどの出力はないから注意が必要だよ」
「お気遣い、本当にありがとうございます」

 ホムの目が嬉しさで潤んでいるように見える。ああ、こうして嬉しそうなホムを見ていると、僕まで目が潤んで来てしまうな。

 嬉しい時に涙が出るなんて、まるでアルフェみたいだ。アルフェはいつもこんな温かな気持ちを持って、僕たちに接してくれているのかもしれないな。
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