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第三章 暴風のコロッセオ

第156話 機兵適性値の測定

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 翌週の月曜日。予定通り機兵適性値の測定が行われることになった。F組は、レギオンと特例で僕のアーケシウスを使用するので、二機に対してセッティングが行われている。

 機兵適性値の測定は、機兵の操縦槽内にあるスフィアと呼ばれる制御回路に専用の測定器を接続することで行われる。測定器を操縦槽の中に設置したレギオンが各クラスに一機割り当てられ、かつ、不正などがないように機外に設けられた映像盤に投影魔法で操縦槽内の様子が投影されるようになっている。

 特例で許可された僕のアーケシウスにも、レギオンと同じように測定器と映像盤が接続された。

「アーケシウス、どんな骨董品かと思っていたけどすごいな」
「実際、僕が竜堂広場市バザーで見つけた時は、骨董品だったよ。スクラップ品という扱いだったしね」
「それをよくぞここまで育ててくれたでござるよ、リーフ殿~! 拙者、従機萌えに目覚めそうでござる~!」

 機兵オタクを自称しているロメオとアイザックは僕のアーケシウスをつぶさに観察し、感動しきりの様子だ。

「レギオンをこうして間近で見て、搭乗出来るって日にアーケシウスに出逢えるなんて、運命めいたものを感じるな」
「まあ、現役機という意味ではかなり希少だろうからね」
「希少ではないでござる! これは最早奇跡でござるよ~!」

 大声で訴えるアイザックは、感極まって泣きそうになっている。そういえば、竜堂広場市でアーケシウスを見つけた時、父上も同じようなことを言っていたな。

 存在自体が奇跡のようなものだとすれば、それが修理・改造されて動く姿は、アイザックやロメオにとって感動の域に達するものなのだろう。

 そう考えながら愛機であるアーケシウスを見上げてみる。円柱形の頭部と胴部が特徴的なこの機体は、僕がグラスだった頃に活躍していた従機でもあるので、なんだか感慨めいたものを感じる気もするな。

「おーい、揃ってるか? そろそろ始めるぞ」

 プロフェッサーによる測定準備が調ったらしく、タヌタヌ先生がF組の生徒たちに声をかける。その声を合図に、アイザックがなぜか敬礼してロメオを真っ直ぐに見つめた。

「ロメオ殿。拙者、ロメオ殿の分まで、レギオンの操縦槽を体感してくるでござるよ~!」
「頼むぞ、アイザック!」

 小人族のロメオは測定には参加出来ないが、おそらく後で搭乗する機会ぐらいは得られそうだ。彼は、乗れないことを悲観するでもなく、僕がアーケシウスを持ち込む判断をしたことをしきりに羨ましがっていた。

「きっと在学中に、自分の機体を作るだろうね」
「にゃはっ。乗れなくても楽しそうだな」

 楽しそうにレギオンの方へと向かっていくアイザックとロメオを見送りながら呟くと、ファラが相槌を打ってくれた。隣のアルフェも楽しそうにはしているが、どことなく落ち着きがなさそうだ。多分緊張しているんだろうな。

「ん? どうしたんだ、アルフェ」

 僕の代わりに変化に気づいたファラが訊ねてくれる。アルフェはそこで少し長く息を吐いて、目許にかかった前髪を整えた。

「あのね、機兵に乗るのは初めてだから、なんだか緊張しちゃって……。ファラちゃんは平気なの?」
「あたしは父さんから、機兵を受け継いでるからな」

 ファラはそう言ってA組の方を見遣った。

「特例があるってわかってたら、あたしも持ち込むんだったぜ」

 特例は僕のような身体的理由を必ずしも要件としないので、A組の方では一部の生徒たちが自分の機体を持ち込んでいるのが見える。学校用に調達してあるのか、ある程度基準があるのかはわからなかったが、ほとんどが僕の父の機体と同じ、レーヴェをベースにしたもののようだ。

「お父さんのお下がりがあるんだね。いいなぁ」

 ファラと話して少し緊張が解けたのか、アルフェの表情が緩む。と、傍らで二人の話を聞いていたヴァナベルの兎耳族の耳がぴくりと動いた。

「ん? けど、機兵なんてそうポンポン買えるもんか? 確か高ぇんだろ?」
「にゃ……」

 ファラが、しまったというような表情をして、猫耳族の耳をがりがりと掻く。

「あー……。あたしとしたことが、なんか口が滑ったな。湿っぽくなるから黙ってたんだけどさ、父さんはもう殉職してるんだ」
「……ああ、そういうことか……」

 うっかり踏み込んでしまったヴァナベルが、気まずそうに呟く。単純に気になったことを聞いただけだったらしく、兎耳族の耳が、わかりやすく力を失っている。

「にゃはっ、もう過ぎたことだからさ。そんな顔するなって!」

 ヴァナベルの様子にファラが明るく笑って、その背を叩く。

「「そうだぞ。兎耳族のクラス委員長の人」」

 同意を示す声が聞こえてきたと思えば、リリルルだ。

「リリルルちゃん、どうしたの?」
「「アルフェの人の緊張を察して駆けつけた。我々は仲間を見捨てない」」

 なんだか仰々しい物言いだが、リリルルはアルフェを心配してきてくれたようだ。ダークエルフで強い魔力を持つリリルルは、浄眼ではないけれど、もしかするとエーテルの流れを感じる特殊な能力のようなものがあるのかもしれないな。

 それかエルフ同士、なにか波長のようなものを感じ取れるのかもしれない。きっと感覚的なものだろうから、聞いたところで僕にはわからないのだろうけれど。

「じゃあ踊ろっか」
「「そのつもりだ」」

 アルフェとリリルルが手を繋いで、くるくるとステップを踏み始める。

「オレも混ぜてくれよ」
「ヌメも~」

 ヴァナベルとヌメリンもその輪に加わり、くるくると踊り始めた。

「ほら、お前たちも来いよ」

 驚いたな、まさかヴァナベルに誘われる日が来るとは思わなかった。

「乗り気だね、ヴァナベル」

 ホムと手を繋いで輪に入り、ヴァナベルに左手を差し出しながら聞くと、ヴァナベルは照れくさそうに笑って僕の手を取った。

「最初は変な儀式みてぇだなって思ってたんだけどさ。なんか、験担ぎみたいでいい気がするんだよ」
「にゃはっ、確かに」

 ファラもすっかりいつもの笑顔に戻っている。ステップを踏むうちに、アルフェの緊張も解けたようだ。

「「この踊りには、ダークエルフの加護を与える力がある」」
「マジか!?」

 真顔で声を揃えるリリルルにヴァナベルが驚愕の叫びを上げる。

「「今考えた」」
「にゃははっ。だと思ったぜ」

 リリルルのわかりにくい冗談にファラが噴き出し、みんながそれにつられて笑い合う。

 ダークエルフの加護が与えられるわけではないにせよ、リリルルがはじめたこの儀式は、みんなを和ませるのにはちょうどいいな。

 おかげで測定を前のF組は、和やかな雰囲気だ。
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