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第三章 暴風のコロッセオ

第182話 魔導杖の設計

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 食堂の終了時間にどうにか間に合った僕は、アルフェとホムが確保してくれていた日替わりメニューを食べ、早々に部屋に引き上げた。

 さて、これからもう一仕事だ。明日の放課後までに、アルフェの機体に持たせる魔導杖の設計をしておかなければな。

 魔導杖というのは、魔導士たちが用いる杖状の魔導兵装のことだ。アルフェやリリルルが模擬戦の時に用いていた杖も魔導杖に分類される。魔導杖は使用者のエーテルを増幅して指向性のある魔法として放つ機能があり、魔法の威力の強化だけでなくその精度や制御力も向上させる。

 魔法を使うことの出来る魔装兵と呼ばれる機種には、魔導杖を装備するのが通例になっている。要するに、人間が用いる魔導杖を巨大化させたものを機兵に持たせるのだ。

 部屋に戻った僕は、手早く入浴を済ませると、まずは図面を引くところから着手した。

 現代の魔導杖は、魔導工学による自動生成器での出力がされるようになっている。簡単に言うと、設計図を読み込ませて生成した金型に溶鉱炉で溶かした材料を流し込めば完成するという流れだ。

 つまり、設計図さえ引いておけば、自動でパーツが生成されるので、あとは模型を組み立てるような感覚で組み立てれば完成ということになるわけだ。

 昔は全てが手づくりだったし、魔女は現代でも木材を用いた杖を使うが、現在では金属を加工したものが一般的らしい。まあ、どのみち機兵に持たせる魔導杖ならば、耐久性の問題で金属以外の選択肢はないのだけれど。

 今回は、エーテライトと呼ばれるエーテル伝導効果のある錬金金属を素材とすることにした。

 エーテライトは、雷と水と土の魔石に少量の白金を加え、魔素液化触媒などの錬金触媒を複数組み合わせることで錬成される真っ白な金属だ。エーテルの伝達能力に優れ、魔法の情報処理を行うのに適していることから、機兵の魔導制御回路や魔導炉の内部機構の素材としても使われている。

 さて、肝心の杖のデザインだが、アルフェが気に入るものにしたいところだな。アルフェが入学祝に買ってもらっていた杖は、僕がグラスだった頃にも流行っていたような気がするし、その頃の流行でも気に入ってくれそうだ。現にメルアは、前世の僕グラスの作品をいたく気に入ってくれているようだし、悪くはないだろう。

 まあ、杖の性能のことを考えれば、デザインそのものよりも先端に取りつけるエーテル増幅器で八割の性能が決まるわけだから、出来るだけ機能的なものにしたいところだな。

 ひとまず持ち手に関しては、取り回しのいいシンプルなポール状にして、エーテル増幅器の設計に頭を悩ませるとしよう。

 魔導杖で最も重要なのはこのエーテル増幅器だ。アルフェ自身の魔法力を何倍にも増幅させるには、ブラッドグレイルという合成魔石を使うのが良さそうだな。

 どの魔法にも対応出来るように、水・火・土・雷・風の五属性の魔石を用いて錬成する合成魔石ブラッドグレイルを使えば、エーテルの出力も飛躍的に上昇させることが出来る。

 ああ、エーテル増幅器を安全に制御するための制御装置も考えておかなければならないな。

 エーテル増幅器の制御装置は、簡易術式の綿密な組み合わせによって成立している。プレート上の術式基盤を複数枚重ね合わせることで演算機としての機能を持たせるのだ。

 ここに描くルーン文字を、緻密に描き込んで行くことで簡易術式としてもデザインとしても良いものにしたいところだな。かなり骨の折れる作業だが、ここはしっかりと丁寧にやっておきたい。今、ここでしっかりと設計しておけば、自動生成器に読み込ませるだけで拡大された複製が鉄のプレートに刻まれて出力されるはずだ。

「……マスター」

 簡易術式を描き込んでいると、背後でホムの遠慮がちな声がした。

「ああ、ホム。今夜は遅くなりそうだから先に休んで構わないよ」
「かしこまりました……」

 とは言ったものの、夕食の時もほとんど会話が出来なかったので、ホムと少しは話をしないとな。

「ねえ、ホム。寝ながらでいいから、少し話そうか」
「はい」

 思い直してホムの方を向くと、ホムはたちまち嬉しそうな笑顔を見せた。

 やはり僕の判断は間違っていなかった。家族なんだし、きちんと会話をして過ごせなかった時間を補うのが良いのだろう。

「遠慮しないで、横になっていいよ」
「ありがとうございます」

 ホムをベッドに促し、僕も自分のベッドに腰かける。

「今日の特訓はどうだった?」
「ファラ様とヴァナベル、ヌメリンの機体の手配が済んだので、今日はレギオンで模擬戦を行いました。わたくしはヴァナベルと組んで、ファラ様とヌメリンのお相手を……したのですが……」
「ホムがヴァナベルと組むなんて、珍しいね。上手く戦えたかい?」
「ファラ様の魔眼を前に、わたくしもヴァナベルも先手先手を読まれてかなり苦戦しました。ですが、噴射式推進装置バーニアを駆使することで手応えを感じ……」

 懸命に話しながらも、ホムはかなり眠そうだ。瞼がゆっくりと落ちてきたかと思うと、そのまま静かに眠りのなかに落ちていった。

 僕を心配させまいと振る舞っていたようだけど、話の途中で眠ってしまうくらい疲れていたようだな。夕食時に小耳に挟んだ感じだと、タヌタヌ先生の軍事訓練もかなり厳しかったようだし、ホムはホムで限界まで頑張っているんだろう。

「おやすみ、ホム」

 今までのように、ホムの全てを見ているわけではない。それでもホムの頑張りが感じられて、それを愛おしいと思う僕がいる。寝息を立て始めたホムに薄掛けをかけ、指先で髪を撫でた僕は、再びアルフェのための魔導杖の設計へと戻った。

 エーテル増幅器の制御装置に、ひとしきりの簡易術式を描き込んだ後、ブラッドグレイルは丸く加工して、王冠形状の制御装置を被せるように設計して、エーテル増幅器については一区切りついた。

 明日の作業はアイザックとロメオに幾つか任せて、僕自身は魔導杖の肝であるこのブラッドグレイルの錬成に注力した方がいいだろうな。

 出来れば状態の良い魔石を材料にした方が良いのだが、少量ならまだしも、機兵の持つ魔導杖のエーテル増幅器となるとかなりの量が必要だな。

 少し考えてから、ひとまずメルアに相談してみることに決めた。特級錬金術師のメルアなら、調達方法を含めてなにかつてがあるかもしれない。

 さて、諸々の目処がついたところで、すっかり夜も更けてしまった。焦る気持ちがないわけではないけれど、今夜できるのはここまでだな。

 明日は金型の生成をロメオに任せて、アイザックには杖の生成に必要になるエーテライトの錬成をお願いしよう。

 こうして自分以外を頼れるというのは、僕が想像していた以上に良い経験になりそうだな。


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