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第三章 暴風のコロッセオ

第247話 リゼルの改心

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 警戒心を見せるホムを宥めながら、リゼルの言葉を待つ。リゼルは少し言いにくそうに口をもごもごと動かすと、ホムに視線を定めた。

「ホムさん」

 驚いたことに、リゼルはホムに敬称を付けて語りかけた。

「決勝戦のホムさんの戦い――決して諦めないその不屈の精神に、大いに感動しました。私はホムンクルスを誤解していた。作られた命で、命令通り動く奴隷だと思い込んでいました。でも、あなたのマスターは違った。そうは扱わなかった。あなたが努力し、成長する姿を見守り、無謀とも思える大きな壁を乗り越えさせた。……気づいたんだ。自分はイグニスさんに頼り、自分の力ではなく立場の強い力を使ってあなたに勝とうとした。……それは、恥ずべき行為であり、貴族の振る舞いではなかった。本当にごめんなさい」

 格下だと決めつけていた僕たちに対し、リゼルは精一杯の礼儀を示した。たどたどしいながらも、彼からの敬意が伝わるその言葉は、僕たちだけでなく、ヴァナベルにも届いたようだ。

「過ちを認めることは、素晴らしいことでござる。リゼル殿の男気、この眼と耳でしかと見届けたでござるよ~!」
「あの試合を見て感動しない人なんていないと思ってたよ!」

 アルタードを作った仲間として誇らしいのか、アイザックとロメオが興奮した様子で口を開く。彼らがリゼルを認めると、少しずつ拍手が起こり始めた。

 僕とホムもリゼルと目を合わせて微笑む。リゼルはそれにホッとしたような表情を浮かべた。

「はぁ~、なるほどなぁ。それで雁首揃えてぞろぞろ来たって訳かよ。わざわざご苦労だったな」

 ヴァナベルが僕とホムの後ろにやってきて、肩に手を回してくる。

「わざわざ来たのにタダで返すのは悪ぃよな。今はその『感動の戦い』の主役を祝うパーティの最中なんだ。感動したってんなら、祝えよ! 湿っぽい話は抜きにして、腹を割ってコイツらを讃えてやれよ」
「え……?」

 態度を変えたヴァナベルに驚いたように、リゼルが目を白黒とさせている。A組の面々も何が起きたかわかっていない様子だ。

「言っとくけど、てめぇら全員に言ってるんだからな。ほら、ぐずぐずしないで入れよ。料理も飲み物もぜーんぶオレのおごりだ!」
「ヴァナベル……」
「ったく、オレは呼び捨てのまんまかよ!」

 苦笑を浮かべながらも、ヴァナベルは嬉しそうだ。それだけリゼルの態度からは、彼の改心した様子が伝わってくる。

「さ~、パーティはまだまだこれからだよぉ~!」

 ヌメリンに促され、A組の面々がそれぞれ謝罪と祝福の言葉を織り交ぜてレストランに入り始めたところで、リリルルが彼らの前に進み出た。

「「リリルルも少しだけ話がある」」
「リリルルちゃん……」

 引き止めようと試みたのか、アルフェが心配そうに後ろについてきている。リリルルはリゼルをほとんど無表情に見つめると、揃って口を開いた。

「「リリルルは寛大だ。だから一緒に踊れば、過去のことは水に流してやる」」

 リリルルはそう言いながら、リゼルの手を引き、くるくると踊り始める。

「わかった。こちらも貴族の踊りというものを見せてやる」

 リリルルに合わせてリゼルも踊りはじめる。リゼルに続き、A組の面々がおずおずと踊り始めると、F組もそれぞれ思い思いの踊りを披露し始めた。

「にゃはっ! これじゃあダンスパーティだな」

 そう言いながら聞こえてくる歌に合わせて身体を揺らすファラは、実に楽しげだ。アルフェはみんなの踊りに合わせて、氷魔法で生み出した楽器を演奏しながら嬉しそうに歌っている。

「まさかA組とF組が、こんなふうに過ごせる日がくるとはな。やっぱりお前は凄いやつだよ、リーフ」

 僕の隣に立ったグーテンブルク坊やが、楽しげに踊る面々に目を細めている。傍らのジョストも嬉しそうだ。

「僕がこの光景を生み出したんじゃない。きっかけを作ってくれたのは、ホムだ。それに君もリゼルを動かすのに働いたんだろう?」

 僕が問いかけると、グーテンブルク坊やは応える代わりに微笑んだ。

 なんだかんだ言って、グーテンブルク坊やも随分大きくなったな。エステアが懸念している亜人差別を始めとして、イグニスや教頭の問題は残るものの、この学年においては大きな前進があった。全体から見ればまだ小さな変化かもしれないけれど、でもここにある笑顔は本物だ。

「アルフェ様もリリルル様も、とても楽しそうです」

 この光景を見せてくれたホムも楽しげに身体を揺らしているのが、僕には嬉しい。

「僕たちも踊るかい、ホム?」
「マスターと一緒なら」

 ホムがそう言いながら手を差し出してくる。僕はその手を取り、アルフェの歌声に合わせてくるくるとステップを踏む。遅れを取るまいと、グーテンブルク坊やとジョストが社交ダンスを披露し始めると、どこからか歓声が上がった。
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