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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第271話 マリーの呼び出し
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休み明けの放課後、いつものように教室の掃除をしながらヴァナベルたちと談笑していると、校内放送を知らせる鐘の音が教室の拡声魔導器から鳴り響いた。
「なんだなんだ? 放課後だってのに」
ヴァナベルの兎耳がぴんと立ち、興味津々であることを表している。
『1年F組、リーフ・ナーガ・リュージュナ、至急正門前に集合ですわ~!』
拡声魔導器から響いたのは、マリーの甲高い声だった。さて、待ち合わせは音楽室だったはずだが、どういうことなのだろうか。アルフェとホムと顔を見合わせていると、ヴァナベルが苦笑を浮かべてこちらを振り返った。
「今の絶対マリー先輩だよな。お前、今度はなにをやらかしたんだ?」
茶化すような言い方だったが、どうやら心配されているようだ。
「別になにも。まあ、用事があるのは間違いないんだけど」
「なんだ、用事って?」
要領を得ない様子でヴァナベルが質問を重ねてくる。やれやれ、話すと長くなるが、どこから話したらいいんだろうな。
「次の生徒会総選挙、エステアさんを手伝うことになったの」
考えているうちにアルフェが代わりに答えてくれた。だが、ヴァナベルが納得するにはまだ説明が足りないようだ。
「それとマリー先輩となんの関係があるんだ?」
「にゃははっ、普通はそうなるよな。バンドを組むことになったんだよ、成り行きであたしも」
ファラが更に説明を重ねてくれたが、ヴァナベルは余計に混乱した。
「は? バンド?」
「よくわからないけど、楽しそう~」
傍で聞いていたヌメリンも同じような調子だったが、僕たちの表情から悪い話ではないということは読み取れたのだろう、笑顔で反応した。
「……というわけで、あとは頼めるかい、ヴァナベル?」
「まあ、至急なんて言われてんのに悠長に掃除してる場合じゃねぇよな。他のクラスには清掃が入ってるわけだし」
興味を持って放送を聞いてくれていただけあって、急ぎの用事であることはしっかり伝わったようだ。ヴァナベルは二つ返事で承諾し、僕が手にしていた箒を引き取った。
「ありがとう、ヴァナベル」
掃除をヴァナベルとヌメリンに任せ、僕とアルフェ、ホム、ファラは呼び出された正門前に揃って向かうことにした。どのみち一緒に活動するのだし、僕だけが正門前に呼び出されたわけではないだろう。
「リーフ!」
教室を出て少し歩き始めたところで、背後からヴァナベルの声が響いた。
「なんだい?」
「なんか手伝えることがあれば、オレも頼ってくれよ」
ヴァナベルが教室から身を乗り出し、大きく手を振って僕たちを送り出してくる。その気持ちが嬉しくて、僕は微笑んで手を振り返した。
***
指定された正門前には、A組との合同授業の時に演習場にやってきたような大型の蒸気車両が停まっていた。
車両の脇には、昨日人魚の歌声をインペーロに運んできたサングラスと黒服の執事、ジョスランが控えている。
「やっと登場ですわね。待ちわびましたわ」
「もー、ししょーってば遅ーい!」
マリーとメルアが揃って不満の声を上げる。急いだつもりだったが、充分に待たせてしまったようだ。エステアも揃っているところを見ると、一度は音楽室に集合した後なのかもしれないな。
「ごめんなさい。掃除当番の日で――」
「掃除当番?」
謝るアルフェの声を遮ったのは、エステアの怪訝な声だった。
「F組だけ清掃が時々しか入らないのですが、自分たちの教室ですので、自分たちで掃除をしているんです」
エステアが怪訝な顔をしている理由に思い当たったホムが、僕たちF組の状況を説明してくれる。エステアとメルア、マリーは揃って顔を見合わせると、眉を顰めた。
「……陰湿ですわね。そんなの私が働きかければすぐに改善させますわ!」
「気持ちだけで充分だよ。出来るだけ穏便に過ごしたい」
不平等さを嫌うらしく、マリーが憤りを露わにしている。僕は宥めるように応えながらエステアへと視線を移した。
「気を遣わせてしまってごめ――」
「気を遣っているわけではありません」
エステアがなにを言おうとしたのか察したホムが、遮るようにそれを否定する。ホムの積極性に驚いたのは、僕だけではなかった。エステアも面食らったようにホムを見つめている。
「わたくしたちは、エステアがこの学校を変えてくれると信じているんです。だから、後もう少しだけ黙っているだけなのです」
ホムは視線で僕の同意を得つつ、確かめるような穏やかな口調でエステアに語りかけている。エステアはそれを真摯な表情で聞き、改まったようにホムと目を合わせた。
「……ええ、必ず変えてみせる。だから、力を貸してちょうだい」
「それはもうお約束しました」
エステアの真剣さに少し照れた様子でホムが微笑む。
「僕たちは約束は必ず果たすよ」
「そうだったわね。ありがとう、みんな」
僕の言葉にアルフェとファラも頷き、エステアの目が微かに潤む。こんなふうにエステアに助けを求められるようになるなんて、初対面の頃の僕が知ったら驚くだろうな。
「この戦い、絶対に負けられませんわね! 私も気合い入りまくりですわ~!」
話が一段落したとみて、マリーが甲高い声を上げると、ジョスランに身振り手振りで指示した。ジョスランは寡黙に頷き、荷台の留め金を外し、扉を開き始める。
「わぁ……」
「おい、そこで一体なにをしている!?」
だが、荷台の中身が露わになろうというその時、鋭い怒声が背後から浴びせられた。
声のした方を振り返ると、そこにはイグニスと十名ほどの取り巻きが控えてこちらを取り囲むようにして見つめている。
「なんだなんだ? 放課後だってのに」
ヴァナベルの兎耳がぴんと立ち、興味津々であることを表している。
『1年F組、リーフ・ナーガ・リュージュナ、至急正門前に集合ですわ~!』
拡声魔導器から響いたのは、マリーの甲高い声だった。さて、待ち合わせは音楽室だったはずだが、どういうことなのだろうか。アルフェとホムと顔を見合わせていると、ヴァナベルが苦笑を浮かべてこちらを振り返った。
「今の絶対マリー先輩だよな。お前、今度はなにをやらかしたんだ?」
茶化すような言い方だったが、どうやら心配されているようだ。
「別になにも。まあ、用事があるのは間違いないんだけど」
「なんだ、用事って?」
要領を得ない様子でヴァナベルが質問を重ねてくる。やれやれ、話すと長くなるが、どこから話したらいいんだろうな。
「次の生徒会総選挙、エステアさんを手伝うことになったの」
考えているうちにアルフェが代わりに答えてくれた。だが、ヴァナベルが納得するにはまだ説明が足りないようだ。
「それとマリー先輩となんの関係があるんだ?」
「にゃははっ、普通はそうなるよな。バンドを組むことになったんだよ、成り行きであたしも」
ファラが更に説明を重ねてくれたが、ヴァナベルは余計に混乱した。
「は? バンド?」
「よくわからないけど、楽しそう~」
傍で聞いていたヌメリンも同じような調子だったが、僕たちの表情から悪い話ではないということは読み取れたのだろう、笑顔で反応した。
「……というわけで、あとは頼めるかい、ヴァナベル?」
「まあ、至急なんて言われてんのに悠長に掃除してる場合じゃねぇよな。他のクラスには清掃が入ってるわけだし」
興味を持って放送を聞いてくれていただけあって、急ぎの用事であることはしっかり伝わったようだ。ヴァナベルは二つ返事で承諾し、僕が手にしていた箒を引き取った。
「ありがとう、ヴァナベル」
掃除をヴァナベルとヌメリンに任せ、僕とアルフェ、ホム、ファラは呼び出された正門前に揃って向かうことにした。どのみち一緒に活動するのだし、僕だけが正門前に呼び出されたわけではないだろう。
「リーフ!」
教室を出て少し歩き始めたところで、背後からヴァナベルの声が響いた。
「なんだい?」
「なんか手伝えることがあれば、オレも頼ってくれよ」
ヴァナベルが教室から身を乗り出し、大きく手を振って僕たちを送り出してくる。その気持ちが嬉しくて、僕は微笑んで手を振り返した。
***
指定された正門前には、A組との合同授業の時に演習場にやってきたような大型の蒸気車両が停まっていた。
車両の脇には、昨日人魚の歌声をインペーロに運んできたサングラスと黒服の執事、ジョスランが控えている。
「やっと登場ですわね。待ちわびましたわ」
「もー、ししょーってば遅ーい!」
マリーとメルアが揃って不満の声を上げる。急いだつもりだったが、充分に待たせてしまったようだ。エステアも揃っているところを見ると、一度は音楽室に集合した後なのかもしれないな。
「ごめんなさい。掃除当番の日で――」
「掃除当番?」
謝るアルフェの声を遮ったのは、エステアの怪訝な声だった。
「F組だけ清掃が時々しか入らないのですが、自分たちの教室ですので、自分たちで掃除をしているんです」
エステアが怪訝な顔をしている理由に思い当たったホムが、僕たちF組の状況を説明してくれる。エステアとメルア、マリーは揃って顔を見合わせると、眉を顰めた。
「……陰湿ですわね。そんなの私が働きかければすぐに改善させますわ!」
「気持ちだけで充分だよ。出来るだけ穏便に過ごしたい」
不平等さを嫌うらしく、マリーが憤りを露わにしている。僕は宥めるように応えながらエステアへと視線を移した。
「気を遣わせてしまってごめ――」
「気を遣っているわけではありません」
エステアがなにを言おうとしたのか察したホムが、遮るようにそれを否定する。ホムの積極性に驚いたのは、僕だけではなかった。エステアも面食らったようにホムを見つめている。
「わたくしたちは、エステアがこの学校を変えてくれると信じているんです。だから、後もう少しだけ黙っているだけなのです」
ホムは視線で僕の同意を得つつ、確かめるような穏やかな口調でエステアに語りかけている。エステアはそれを真摯な表情で聞き、改まったようにホムと目を合わせた。
「……ええ、必ず変えてみせる。だから、力を貸してちょうだい」
「それはもうお約束しました」
エステアの真剣さに少し照れた様子でホムが微笑む。
「僕たちは約束は必ず果たすよ」
「そうだったわね。ありがとう、みんな」
僕の言葉にアルフェとファラも頷き、エステアの目が微かに潤む。こんなふうにエステアに助けを求められるようになるなんて、初対面の頃の僕が知ったら驚くだろうな。
「この戦い、絶対に負けられませんわね! 私も気合い入りまくりですわ~!」
話が一段落したとみて、マリーが甲高い声を上げると、ジョスランに身振り手振りで指示した。ジョスランは寡黙に頷き、荷台の留め金を外し、扉を開き始める。
「わぁ……」
「おい、そこで一体なにをしている!?」
だが、荷台の中身が露わになろうというその時、鋭い怒声が背後から浴びせられた。
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