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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第270話 人魚の歌声
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一通りの食事が終わり、運ばれて来たデザートを食べ終わるころ、夜だというのにサングラスをかけた黒服の男が店内にやってきた。
「お待たせ致しました、マリアンネ様」
テーブルの傍まで来た黒服の男は、そう言って手にしていたトランク型のバッグを開く。
「仕事が早くて助かりますわ、ジョスラン」
「執事たる者、このぐらいは当然でございます」
マリーの執事を名乗るジョスランが運んできたのは、手のひらほどの大きさの貝殻型の品物だった。表面には人魚を象った揃いのマークが記されているので、何らかの商品なのだろう。
「うっわ!! 最新型の人魚の歌声じゃん!」
「それはなんだい?」
メルアが早速手に取っている横で、マリーに訊ねる。マリーは僕たちの分を配りながら、丁寧な口調で説明してくれた。
「携帯型音声魔導器、人魚の歌声ですわよ。店に頼んで『感謝の祈り』が入った最新盤の音楽カセットを入れてありますわ」
「音楽カセットって?」
今度は僕の代わりにアルフェが訊ねる。どうやらエステアやメルア、ファラは知っているらしく嬉しそうに操作を始めている。
「あら、なんにも知らないんですのね。この人魚の歌声には親指の爪ほどのサイズの音楽カセットを入れることが出来ますの。ほら、これがそのカセットですわ」
マリーが貝殻を開き、真ん中にある黒く薄い板のようなものを示す。カセットと呼ばれているものには簡易術式が彫られており、魔導器であることが理解出来た。
差し込むための窪みが設置されていることから、このカセットを入れ替えれば、様々な音楽を聴くことが出来る仕組みになっているのだろう。
貝殻の下部には差し込み口が付いており、そこから線が伸びて耳孔に挿入するタイプの変換器がついている。
「この線を使わずに貝殻を開けっぱなしにすれば、直に音楽を流すこともできますわ」
なるほど、原理は理解できた。そうなると、あとは使い方を教えてもらえばいいだけだな。
「で、肝心の使い方ですけど、この音楽カセットに記録した音楽データを脳内でイメージするだけですわ。魔導器ですから、エーテルを流す際にこの曲が聴きたい、という感じでいいんですの」
僕たちの次の質問を想定していたらしく、マリーが先に説明してくれた。
「最新盤ってなると500曲はあるから、操作の手間がないちゅーのがまたいいんだよねぇ」
変換器を耳に装着して音楽を聴いているのだろう、メルアがうっとりと歌うような調子で言った。
「今日聴いたロックアレンジは流石に入っていないようね」
「希望とあれば音源を手に入れて独自に編集しますわよ?」
エステアが冗談めかして言うと、マリーが大真面目に片眉を上げて応じた。
「その手間をかけるくらいなら、アレンジして自分で弾けるわ。ありがとう、マリー」
彼女なりの冗談だったらしく、エステアが楽しげに笑いながら小さく片手を挙げる仕草をする。
「あ、じゃあうち、それ聴きたい! エステアのリサイタルにしよーよ!」
「ちょっとメルアってば」
「それはいつ開催されるのですか?」
メルアが大声を上げたのをエステアが叱責するのと、ホムが真面目に食いつくのとはほぼ同時のことだった。
「ほら、ホムが本気にしてしまうでしょ?」
「冗談……だったのですか?」
メルアに向けたエステアの発言に、ホムが哀しげに眉を寄せる。
「いえ、そういう意味ではなくて……」
「では、聴かせていただきたいです」
ホムが素直に自分の気持ちを向けると、エステアは苦笑しながらも頷いて見せた。
「じゃあ、明日音楽室を借りて披露しましょう。ところでバンドのメンバーは、ここにいる全員ってことでいいのかしら?」
「やってもいいの!?」
「もちろん」
自分のアイディアが採用されたことに実感がないのか、アルフェが確かめるように問いかける。エステアは即答し、メルアとマリーと目を合わせて柔らかに応えた。
「アルフェちゃんの美声があればもう、みんなうっとりして立ち止まっちゃうって!」
「がんばろうね、リーフ!」
やれやれ。ひょんなことから、色んなことが決まってしまったな。僕も手伝うと言った以上、全力で協力しないといけないのだけれど。
「お待たせ致しました、マリアンネ様」
テーブルの傍まで来た黒服の男は、そう言って手にしていたトランク型のバッグを開く。
「仕事が早くて助かりますわ、ジョスラン」
「執事たる者、このぐらいは当然でございます」
マリーの執事を名乗るジョスランが運んできたのは、手のひらほどの大きさの貝殻型の品物だった。表面には人魚を象った揃いのマークが記されているので、何らかの商品なのだろう。
「うっわ!! 最新型の人魚の歌声じゃん!」
「それはなんだい?」
メルアが早速手に取っている横で、マリーに訊ねる。マリーは僕たちの分を配りながら、丁寧な口調で説明してくれた。
「携帯型音声魔導器、人魚の歌声ですわよ。店に頼んで『感謝の祈り』が入った最新盤の音楽カセットを入れてありますわ」
「音楽カセットって?」
今度は僕の代わりにアルフェが訊ねる。どうやらエステアやメルア、ファラは知っているらしく嬉しそうに操作を始めている。
「あら、なんにも知らないんですのね。この人魚の歌声には親指の爪ほどのサイズの音楽カセットを入れることが出来ますの。ほら、これがそのカセットですわ」
マリーが貝殻を開き、真ん中にある黒く薄い板のようなものを示す。カセットと呼ばれているものには簡易術式が彫られており、魔導器であることが理解出来た。
差し込むための窪みが設置されていることから、このカセットを入れ替えれば、様々な音楽を聴くことが出来る仕組みになっているのだろう。
貝殻の下部には差し込み口が付いており、そこから線が伸びて耳孔に挿入するタイプの変換器がついている。
「この線を使わずに貝殻を開けっぱなしにすれば、直に音楽を流すこともできますわ」
なるほど、原理は理解できた。そうなると、あとは使い方を教えてもらえばいいだけだな。
「で、肝心の使い方ですけど、この音楽カセットに記録した音楽データを脳内でイメージするだけですわ。魔導器ですから、エーテルを流す際にこの曲が聴きたい、という感じでいいんですの」
僕たちの次の質問を想定していたらしく、マリーが先に説明してくれた。
「最新盤ってなると500曲はあるから、操作の手間がないちゅーのがまたいいんだよねぇ」
変換器を耳に装着して音楽を聴いているのだろう、メルアがうっとりと歌うような調子で言った。
「今日聴いたロックアレンジは流石に入っていないようね」
「希望とあれば音源を手に入れて独自に編集しますわよ?」
エステアが冗談めかして言うと、マリーが大真面目に片眉を上げて応じた。
「その手間をかけるくらいなら、アレンジして自分で弾けるわ。ありがとう、マリー」
彼女なりの冗談だったらしく、エステアが楽しげに笑いながら小さく片手を挙げる仕草をする。
「あ、じゃあうち、それ聴きたい! エステアのリサイタルにしよーよ!」
「ちょっとメルアってば」
「それはいつ開催されるのですか?」
メルアが大声を上げたのをエステアが叱責するのと、ホムが真面目に食いつくのとはほぼ同時のことだった。
「ほら、ホムが本気にしてしまうでしょ?」
「冗談……だったのですか?」
メルアに向けたエステアの発言に、ホムが哀しげに眉を寄せる。
「いえ、そういう意味ではなくて……」
「では、聴かせていただきたいです」
ホムが素直に自分の気持ちを向けると、エステアは苦笑しながらも頷いて見せた。
「じゃあ、明日音楽室を借りて披露しましょう。ところでバンドのメンバーは、ここにいる全員ってことでいいのかしら?」
「やってもいいの!?」
「もちろん」
自分のアイディアが採用されたことに実感がないのか、アルフェが確かめるように問いかける。エステアは即答し、メルアとマリーと目を合わせて柔らかに応えた。
「アルフェちゃんの美声があればもう、みんなうっとりして立ち止まっちゃうって!」
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