アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第四章 絢爛のスクールフェスタ

第328話 イグニスの譲歩

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 少し早い春の訪れを予感させるような青空が広がっている。今日から三日間は建国祭とその準備で授業が休みとなったこともあり、露店エリアの周りは沢山の生徒たちの姿で賑わっていた。

「オーライオーライ! あと少し右ですわぁ~!」

 生徒会のメンバーを軸として、テントを張る作業が地道に進められている。マリーの特注品というやや高さのある大きなテントを張っているのは作業用の従機だ。ジョスランとジョストを筆頭に四機の従機が骨組みと布張りに分かれて作業を進めており、日除けの布が柔らかな風に穏やかにたなびいている。

「にゃははっ。こうして見ると、アルダ・ミローネの雰囲気たっぷりだな!」
「とっても賑やかな街なんだよね。いつか行ってみたいな」
「いつかなんて言わないで、春休みに来ればいい。あたしだって故郷を案内したいしさ。リーフとホムも来るだろ?」

 備品や調理器具のチェック作業を進めていたアルフェとファラの話題が、こちらにも振られる。

「ファラさえよければ、是非。ホムもきっと喜ぶよ」

 ホムはヴァナベルとメルアと一緒に、テントを張る従機の補助作業に当たっている。僕たちの会話が聞こえて来たのかどうかは定かではないが、まるで僕たちの会話がわかっているかのように、タイミング良くこちらを向いて手を振ってくれた。

「使い捨ての容器はこれで全部。こっちの青い箱に入れてあるのは予備だよ」
「ありがとう」

 アルフェの説明を聞きながら、これから僕が成すべき仕事を頭の中で振り返る。僕とエステアは生徒会の本部テントで、備品等の貸し出しを行い、不測の事態に対応出来るよう、備えておく役割だ。

「調理器具、そろそろ移動させてもいいよな」
「ええ、お願い。ファラなら大丈夫だと思うけど、液体エーテルの扱いには気をつけてね」
「はいよ」
「ワタシも手伝うね!」

 ファラとアルフェが地図を手に、台車つきの調理台の運搬を始める。手にしている地図は、グーテンブルク坊やが作った露店マップだ。マップにはどこにどの店が配置されているかが一目瞭然になっており、準備に携わる生徒はそれに従って必要なものを配置していくようになっている。

 最終的な安全確認は、正午にマチルダ先生が行い、問題なければ明日からの建国祭に向けて試食会などのイベントが始まる予定だ。

 この試食会は当初の予定にはなかったが、A組の生徒が他のクラスの露店とも交流をしたいからと発案したもので、リゼルとヴァナベルがマリーにかけあって許可を出したという新しい試みだ。もちろん相談を受けたマリーも大賛成で、皆、今日の昼を楽しみにしている。

「もうすっかりお祭り気分だよね~。あ~、うち、お腹もうぺっこぺこ!」

 テントを張り終えたらしく、メルアがお腹をさすりながら戻ってくる。早くから動き回っていたので、かなり空腹のようだ。

「朝早くから張り切っていたからね」
「ん~、それもあるんだけどさ、食堂がもう貸し切りになっちゃってて~」

 メルアが首を左右に倒しながら、不満げに呟いている。メルアが食堂というからには、貴族食堂のことには間違いない。だが、イグニスの申請によれば貸し切りとなるのは明日一日だけのはずなのだが。

「……明日からって約束じゃなかったのかい?」
「それが手違いで、もう業者が入ってしまったのよ。お詫びにお弁当を用意してくれているし、食堂の職員への給与補填もデュラン家が行うのでと説得されてしまって……」

 僕の問いかけにエステアが申し訳なさそうに口を挟む。その話題が聞こえたのか、マリーが大股でこちらに歩み寄りながら声を張り上げた。

「癪なんですけど、許可を出すしかなかったんですわ。だって、ここで反対してはワタクシたちが悪者になってしまいますわぁ~!」
「計画的犯行ってやつだよな! 絶対わかっててやってるって」

 マリーの声を拾ったヴァナベルが、腕組みしながら悔しげに足を鳴らしている。ヴァナベルに続いて、リゼルとグーテンブルク坊やも本部テントに戻って来た。

「イグニスさんとしては、それで譲歩しているつもりなんだろうけれど……。ただ、家の財力にものを言わせて力でねじ伏せるようなやり方は、建国祭の理念としては少々納得しかねるものがあるな」

 よほど腹に据えかねたものがあったのか、リゼルですら苦言を呈している。グーテンブルク坊やも苦い顔で頷き、同意を示した。

「それに、食堂のコーディネートっていうのもちょっと悪趣味だったぜ。周りから見えないようにカーテンまで付け替えてさ……」

 グーテンブルク坊やが悪趣味というからには、かなりのものなのだろうな。ドレスコードのようなものを決めているわけではないけれど、建国祭とあまりにも逸脱するようなら、一度見回っておいた方が良いのかもしれない。

「……こうなったら、益々ライブで対抗しないとですわね! ワタクシ、音響係と相談して、拡声器を増やして参りますわぁ~!」
「よっしゃ! そうこなくっちゃな! オレたちも全力で盛り上げようぜ!」

 マリーの発言にヴァナベルが腕を曲げ、力こぶを作ってみせる。

「私たちが盛り上げるまでもなく、生徒たちの心に響くものがRe:bertyリバティにはある。心配はないさ」

 ヴァナベルの言葉を受けて、リゼルが自信ありげにグーテンブルク坊やに目配せする。グーテンブルク坊やはそれに頷き、生徒たちで既に賑わっている露店エリアを見渡した。

「自主的に集まってくれた生徒がこれだけいる。自分たちの力で、この建国祭を造り上げることを望んでいる生徒が、これだけいるってことの証だ。去年の分まで盛り上がりますよ、きっと」
「そうなるよう。全力を尽くすわ」

 グーテンブルク坊やの発言にエステアが笑顔を浮かべる。そこに昨日までの不安の陰が見えないことに、僕は密かに安堵した。

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