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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第355話 邪法の炎
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「はははっ! 下等魔族だけあって、行動がワンパターンなんだよ!」
拡声器を通じてヴァナベルの声が高らかに響いてくる。大闘技場は目前で、僕たちの半径二百メートル以内のレッサーデーモンを出現する傍から駆逐出来ている現状は、予想よりも遙かに良好と言えるだろう。
僕はといえば、不用意に魔族を引きつけないようにエーテル遮断ローブを身体に巻き付け、必要最低限の動きで先陣を切るヴァナベルとヌメリンの後に続いている。
「どんどん駆逐していくぞ! 血溜まりから出さなきゃこっちのもんだからな!」
沸き立つ血涙の血溜まりから予兆を感じ取ったヴァナベルが魔導砲の火炎放射を浴びせ、それをリリルルが風魔法で霧散させる。
「ハッ! 生身じゃ厳しいがガイストアーマーがあれば、楽勝じゃねぇか!」
「油断禁物だよ~、ベル~」
見事な連携を見せるその傍らで、ヌメリンは冷静に周囲の状況を見極めることを怠らない。
「「上を見ろ!」」
リリルルの警告に上空に目を向けると、翼持つ異形の群れが輪を成しているのが見えた。
「……まずいな……」
僕たちの対策をどこからか使役者が見ているのだろう。翼持つ異形は地上に落ちた血涙からではなく、デモンズアイに溜まった血涙から直接生まれているのだ。目の縁の血涙が波打ち、そこから漆黒の羽が芽吹くように出現する。それは見る間に翼として広がり、翼持つ異形の群れを構成していくのだ。
「はぁ!? そんなんアリかよ!」
「狙われてるよ、ベル~!」
ヴァナベルの声に、ヌメリンが上空に向かって魔導砲を構える。だが、その火炎放射魔法の一閃は突進してくる翼持つ異形に躱され、それを合図にしたかのように続々と集まった黒い群れが地上に向かって殺到を始めた。
「やべぇ! とにかく撃ちまくれ!」
ヴァナベルが悲鳴を上げながら魔導砲を上空に向かって連射する。こちらに向かって殺到してきたと見えた翼持つ異形はその攻撃に翼を翻して上空に戻り、地上の僕たちを包囲するように飛び始めた。
「すっかり囲まれちまったな……」
「「レッサーデーモンも加わらんとする勢いだな」」
ヴァナベルの呟きに、リリルルの声が重なる。デモンズアイから直接翼持つ異形が生まれるように変化したことで、こちらの攻撃が追いつかなくなるのは目に見えている。
「魔導砲の射程圏外なら、魔法で撃ち落とすしかないよね」
蒸気車両の荷台に立ったアルフェが、険しい表情で上空を見上げたその時、どこからか飛んできた火炎魔法が翼持つ異形を包み込んだ。
「おっ! メルア先輩の救援か!?」
「違う、メルア先輩じゃない! あの炎は――」
アルフェが鋭く否定し、その先を紡げずに絶句する。翼持つ異形は炎に包まれて動きを鈍らせるどころか、寧ろ活き活きとして炎をその身に纏わせている。
「翼持つ異形にダメージを与えていない……。まさか……」
赤黒く禍々しい炎は、僕たちが操る火炎魔法とはまるで違う。呟きが確信に変わると同時に、僕は悲鳴のように叫んだ。
「魔族による邪法だ。罠だ、ヴァナベル! 退くんだ!」
「わかった! 行くぞ、ヌメ!!」
ヴァナベルの呼びかけに対するヌメリンの応答は、普段よりも数秒遅れた。
「……っ。ベル~、力が入らないよ~」
慣れないガイストアーマーを動かした上に、殺到してきた翼持つ異形を撃ち落とそうと魔導砲を連射したせいでエーテルを消耗したのだろう。ヌメリンが操縦桿を叩く音を拡声器が拾う。
「馬鹿、諦めんな!」
ヴァナベルは咄嗟にヌメリンの元へと機体を戻すと、ヌメリンのガイストアーマーの腕をしっかりと掴んだ。
「しっかり掴まっとけよ!」
叫ぶと同時に噴射式推進装置を噴かせたヴァナベルが、一気にその場を離れる。だが、間が悪いことに、彼女の決死の行動によって高まったエーテルを感知した翼持つ異形が追尾を開始した。
炎を纏った翼持つ異形がヌメリンのガイストアーマーを捉えて着弾し、続いてヴァナベルのガイストアーマーを呑み込まんと迫ってくる。
「ヴァナ――」
「させない!!」
僕の叫びは、アルフェの強い声と、凍えるような冷気によって遮られる。
「「風よ、邪悪な者を退けよ!!」」
「ワタシたちがみんなを守る!」
アルフェの無詠唱の氷魔法が一瞬にしてガイストアーマーを包み込み、リリルルの風魔法が翼持つ異形を竜巻の中に取り込んだ。
「ヴァナベル! ヌメリン!」
魔物を巻き込んだ風が遠ざかるのも待てずに、僕は眼前のヴァナベルとヌメリンに向かって呼びかける。
「ハッ! 油断も隙もあったもんじゃねぇな。……悪ぃ」
「ヌメリン、状況を伝えて!」
ヴァナベルの力ない言葉を聞くやいなや、エステアがヌメリンに状況の報告を急かす。ほどなくしてガイストアーマーの操縦槽の人影が動き、ヌメリンが立ち上がるのが見えた。
「無事だよぉ~。でも、ガイストアーマーはもう動けない……ごめんなさい……」
「これまでよく持ちこたえたというべきか……」
力なく呟くヌメリンの声に、プロフェッサーの溜息が続く。
「どうしよう、ベル~……」
「決まってんだろ、魔力切れ間近とはいえ、生身はピンピンしてんだから、そっちに合流する」
「危険だ! 上から翼持つ異形が狙ってんぞ!」
ヴァナベルの提案にファラが鋭く警告する。ファラの魔眼には、翼持つ異形の再襲撃の予兆が見えているようだ。
「だからって、ここでじっとしてる訳にもいかねぇだろうが!」
「だけど、むやみやたらに動くべきじゃないってば!」
感情的になったヴァナベルを諫めるように、ファラが大きな声を出す。口論に発展しかねない二人のぶつかり合いに割って這入ったのは、多機能通信魔導器から響いたマリーの声だった。
『ヴァナベル、ヌメリンさんを見習ってちょっとは落ち着いて行動してくださいまし!』
「その声は、マリー先輩か……?」
操縦槽から立ち上がったヴァナベルが、研究棟の方角を探るように見渡す。その耳はぴんと立ち、多機能通信魔導器から響く音以上の音を拾おうとしているかのようだ。
『通信は常にパッシブにと言ったはずですわぁ~! 今からじゃんじゃん撃ち落としますわよぉ~!』
『ささっ、厄介な翼持つ異形はうちらに任せた任せた!』
マリーの宣言に、メルアの声が頼もしく続く。
「来る!」
頼もしい宣言に息つく間もなく、ファラの警告が強く響いた。
『いきますわよぉ~!!』
こちらに向かって急降下してくる黒い影の群れに、マリーが宵の明星の連続弾を撃ち込む。
群れを成していることが裏目に出たのか、翼持つ異形は一直線に貫かれ、幾つかの塊となって撃墜されていく。マリーのスパークショットに合わせてメルアの火炎魔法と風魔法の多層術式が連なり、見事な連携を見せて翼持つ異形の群れを撃ち落としていく。
「にゃはははっ! とんでもない精度だぜ!」
『伊達に現役軍人をやっておりませんわよ~!』
多機能通信魔導器からファラの声を聞き取ったのか、マリーが高笑いで応じる。その短い会話の間にも、マリーの狙撃は炎を纏った翼持つ異形を確実に仕留めていく。見る間にガイストアーマーを取り囲むように飛び回っていた翼持つ異形の群れは散り散りになり、アルフェとリリルルが充分に打ち落とせるほどに激減した。
「おっしゃ! 今なら行けるな! ヌメ!」
「あ~~い!」
ガイストアーマーの操縦席から立ち上がったヴァナベルとヌメリンが、蒸気車両へ向けて跳躍する。
「風に乗って! 早く!」
アルフェが突風を起こして二人を引き寄せ、ホムが二人の着地を手助けする。
「……無事でなによりです」
ヴァナベルとヌメリンの二人を受け止めたホムの安堵の声につられて、僕も安堵の溜息を吐く。翼持つ異形の差し当たっての脅威が去ったところで、ここが危険であることには変わりはないのだけれど。
拡声器を通じてヴァナベルの声が高らかに響いてくる。大闘技場は目前で、僕たちの半径二百メートル以内のレッサーデーモンを出現する傍から駆逐出来ている現状は、予想よりも遙かに良好と言えるだろう。
僕はといえば、不用意に魔族を引きつけないようにエーテル遮断ローブを身体に巻き付け、必要最低限の動きで先陣を切るヴァナベルとヌメリンの後に続いている。
「どんどん駆逐していくぞ! 血溜まりから出さなきゃこっちのもんだからな!」
沸き立つ血涙の血溜まりから予兆を感じ取ったヴァナベルが魔導砲の火炎放射を浴びせ、それをリリルルが風魔法で霧散させる。
「ハッ! 生身じゃ厳しいがガイストアーマーがあれば、楽勝じゃねぇか!」
「油断禁物だよ~、ベル~」
見事な連携を見せるその傍らで、ヌメリンは冷静に周囲の状況を見極めることを怠らない。
「「上を見ろ!」」
リリルルの警告に上空に目を向けると、翼持つ異形の群れが輪を成しているのが見えた。
「……まずいな……」
僕たちの対策をどこからか使役者が見ているのだろう。翼持つ異形は地上に落ちた血涙からではなく、デモンズアイに溜まった血涙から直接生まれているのだ。目の縁の血涙が波打ち、そこから漆黒の羽が芽吹くように出現する。それは見る間に翼として広がり、翼持つ異形の群れを構成していくのだ。
「はぁ!? そんなんアリかよ!」
「狙われてるよ、ベル~!」
ヴァナベルの声に、ヌメリンが上空に向かって魔導砲を構える。だが、その火炎放射魔法の一閃は突進してくる翼持つ異形に躱され、それを合図にしたかのように続々と集まった黒い群れが地上に向かって殺到を始めた。
「やべぇ! とにかく撃ちまくれ!」
ヴァナベルが悲鳴を上げながら魔導砲を上空に向かって連射する。こちらに向かって殺到してきたと見えた翼持つ異形はその攻撃に翼を翻して上空に戻り、地上の僕たちを包囲するように飛び始めた。
「すっかり囲まれちまったな……」
「「レッサーデーモンも加わらんとする勢いだな」」
ヴァナベルの呟きに、リリルルの声が重なる。デモンズアイから直接翼持つ異形が生まれるように変化したことで、こちらの攻撃が追いつかなくなるのは目に見えている。
「魔導砲の射程圏外なら、魔法で撃ち落とすしかないよね」
蒸気車両の荷台に立ったアルフェが、険しい表情で上空を見上げたその時、どこからか飛んできた火炎魔法が翼持つ異形を包み込んだ。
「おっ! メルア先輩の救援か!?」
「違う、メルア先輩じゃない! あの炎は――」
アルフェが鋭く否定し、その先を紡げずに絶句する。翼持つ異形は炎に包まれて動きを鈍らせるどころか、寧ろ活き活きとして炎をその身に纏わせている。
「翼持つ異形にダメージを与えていない……。まさか……」
赤黒く禍々しい炎は、僕たちが操る火炎魔法とはまるで違う。呟きが確信に変わると同時に、僕は悲鳴のように叫んだ。
「魔族による邪法だ。罠だ、ヴァナベル! 退くんだ!」
「わかった! 行くぞ、ヌメ!!」
ヴァナベルの呼びかけに対するヌメリンの応答は、普段よりも数秒遅れた。
「……っ。ベル~、力が入らないよ~」
慣れないガイストアーマーを動かした上に、殺到してきた翼持つ異形を撃ち落とそうと魔導砲を連射したせいでエーテルを消耗したのだろう。ヌメリンが操縦桿を叩く音を拡声器が拾う。
「馬鹿、諦めんな!」
ヴァナベルは咄嗟にヌメリンの元へと機体を戻すと、ヌメリンのガイストアーマーの腕をしっかりと掴んだ。
「しっかり掴まっとけよ!」
叫ぶと同時に噴射式推進装置を噴かせたヴァナベルが、一気にその場を離れる。だが、間が悪いことに、彼女の決死の行動によって高まったエーテルを感知した翼持つ異形が追尾を開始した。
炎を纏った翼持つ異形がヌメリンのガイストアーマーを捉えて着弾し、続いてヴァナベルのガイストアーマーを呑み込まんと迫ってくる。
「ヴァナ――」
「させない!!」
僕の叫びは、アルフェの強い声と、凍えるような冷気によって遮られる。
「「風よ、邪悪な者を退けよ!!」」
「ワタシたちがみんなを守る!」
アルフェの無詠唱の氷魔法が一瞬にしてガイストアーマーを包み込み、リリルルの風魔法が翼持つ異形を竜巻の中に取り込んだ。
「ヴァナベル! ヌメリン!」
魔物を巻き込んだ風が遠ざかるのも待てずに、僕は眼前のヴァナベルとヌメリンに向かって呼びかける。
「ハッ! 油断も隙もあったもんじゃねぇな。……悪ぃ」
「ヌメリン、状況を伝えて!」
ヴァナベルの力ない言葉を聞くやいなや、エステアがヌメリンに状況の報告を急かす。ほどなくしてガイストアーマーの操縦槽の人影が動き、ヌメリンが立ち上がるのが見えた。
「無事だよぉ~。でも、ガイストアーマーはもう動けない……ごめんなさい……」
「これまでよく持ちこたえたというべきか……」
力なく呟くヌメリンの声に、プロフェッサーの溜息が続く。
「どうしよう、ベル~……」
「決まってんだろ、魔力切れ間近とはいえ、生身はピンピンしてんだから、そっちに合流する」
「危険だ! 上から翼持つ異形が狙ってんぞ!」
ヴァナベルの提案にファラが鋭く警告する。ファラの魔眼には、翼持つ異形の再襲撃の予兆が見えているようだ。
「だからって、ここでじっとしてる訳にもいかねぇだろうが!」
「だけど、むやみやたらに動くべきじゃないってば!」
感情的になったヴァナベルを諫めるように、ファラが大きな声を出す。口論に発展しかねない二人のぶつかり合いに割って這入ったのは、多機能通信魔導器から響いたマリーの声だった。
『ヴァナベル、ヌメリンさんを見習ってちょっとは落ち着いて行動してくださいまし!』
「その声は、マリー先輩か……?」
操縦槽から立ち上がったヴァナベルが、研究棟の方角を探るように見渡す。その耳はぴんと立ち、多機能通信魔導器から響く音以上の音を拾おうとしているかのようだ。
『通信は常にパッシブにと言ったはずですわぁ~! 今からじゃんじゃん撃ち落としますわよぉ~!』
『ささっ、厄介な翼持つ異形はうちらに任せた任せた!』
マリーの宣言に、メルアの声が頼もしく続く。
「来る!」
頼もしい宣言に息つく間もなく、ファラの警告が強く響いた。
『いきますわよぉ~!!』
こちらに向かって急降下してくる黒い影の群れに、マリーが宵の明星の連続弾を撃ち込む。
群れを成していることが裏目に出たのか、翼持つ異形は一直線に貫かれ、幾つかの塊となって撃墜されていく。マリーのスパークショットに合わせてメルアの火炎魔法と風魔法の多層術式が連なり、見事な連携を見せて翼持つ異形の群れを撃ち落としていく。
「にゃはははっ! とんでもない精度だぜ!」
『伊達に現役軍人をやっておりませんわよ~!』
多機能通信魔導器からファラの声を聞き取ったのか、マリーが高笑いで応じる。その短い会話の間にも、マリーの狙撃は炎を纏った翼持つ異形を確実に仕留めていく。見る間にガイストアーマーを取り囲むように飛び回っていた翼持つ異形の群れは散り散りになり、アルフェとリリルルが充分に打ち落とせるほどに激減した。
「おっしゃ! 今なら行けるな! ヌメ!」
「あ~~い!」
ガイストアーマーの操縦席から立ち上がったヴァナベルとヌメリンが、蒸気車両へ向けて跳躍する。
「風に乗って! 早く!」
アルフェが突風を起こして二人を引き寄せ、ホムが二人の着地を手助けする。
「……無事でなによりです」
ヴァナベルとヌメリンの二人を受け止めたホムの安堵の声につられて、僕も安堵の溜息を吐く。翼持つ異形の差し当たっての脅威が去ったところで、ここが危険であることには変わりはないのだけれど。
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