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第39話 冬の土鍋
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俺は目をガンと見開き、自身の周囲や森の方まで確かめたのだが、人影はおろか動物一匹見当たらなかった。
誰にでも一度はあるであろう人が視線を感じるという現象は、存在自体が不透明な第六感の話しは別として、人の目を気にしすぎる自意識過剰が主な原因なわけだが、この頃の俺にそんな意識が働いていたとは思えないし、無我夢中で土山のトンネル開通に励んでいたのだから...
大人になった今でも、あの時背中にゾクっと感じた視線の原因は不明なままだ。
後に探偵の荒木咲一輪と、その助手の鈴村未桜から、廃墟と化してしまった燈明神社を探索したあとの話しを聞き、不明だった視線の原因を知ることとなるが、いずれまた別の機会に荒木咲一輪の口から語られることになるだろう...
不可解な視線はたぶん気の所為だったのだろうと思うことにした幼い俺は、いつの間にか陽が沈み、辺りがすっかり薄暗くなっていたことに気付く。
そろそろ家に入ろうかとも考えたけれど、トンネルを開通させたいという欲求が勝り、黄色のスコップを握り直して作業を再開した。
だが再開してから直ぐに家の勝手口が開き、顔を出した母から夕食へのお呼びがかかって幼い俺はその日のトンネル開通を断念した。
手動式のポンプで冷え切った井戸水を汲み上げ、気合を入れて泥だらけの手を擦り洗っていると、急に強く冷たい風が吹き出し、静かだった森の木々がサワサワと音を立てて騒ぎ始める。
都会育ちの子供が夕刻のこんなに薄暗く騒ついた森の情景を見れば、何か出てきそうとイメージを膨らませてしまい、きっと怖がって逃げるように立ち去ることだろう。
まぁ慣れていたのか俺にはそんな感情は湧かなかったな...
幼い俺は冬の冷たい風に煽られ、寒さで身体をブルっと震わせあと、両親の待つ暖かい家へと駆け込んだ。
真逆の夏でもたまに思うことだが、身体に堪える気温の外から快適な気温の家に帰ると、こんな人柄の俺が言うのも何だがちょっとした幸せを感じてしまう。
台所の勝手口から中へ入り、家の温かみを感じつつ食欲をそそる美味しそうな香り漂う居間へと移動する。
居間には冬には欠かせないこたつが設置されており、テーブル台の中央にはガスコンロに乗る土鍋がグツグツと音を上げて湯気を出していた。
父と母は対面する形でこたつに入っていて、幼い俺がこたつに入ると母が直ぐ様土鍋の蓋を開け、幼い俺でも食べられる具材を皿へ取り分けて目の前に置いてくれた。
いつものように家族三人が手を合わせ、同時に「いただきます」と言って団欒の夕食は始まった。
「やっぱり美味いな」、「本当に美味しいわねぇ」などと口にしながら夕食を楽しむ両親の姿は、大人になった今でもこの目に焼き付いている...
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